第37話 金髪と会長と美少女 その2(全7話)

職員室を出て視聴覚準備室に向かって歩いていると、何人かの生徒が廊下で軽い運動やトレーニングをしていた。


雨の日は外も使えないし、体育館やアリーナなども普段の部活で使用しているところが優先だろうから、晴れている日は外で活動している部活などは廊下などで邪魔にならないように練習しているのだろう。


一番近くの階段を通って視聴覚準備室に向かおうと思っていたのだけれど、階段を使って何かトレーニングをしている部活があったので、遠回りではあるが体育館側の階段を使うことにした。


そちら側の階段でも運動をしている生徒たちはいたのだけれど、僕の姿を見つけると挨拶をして道を開けてくれていた。


見慣れた顔がちらほらと見受けられたので、この部員たちはサッカー部だという事がわかった。


うちのクラスにはサッカー部に所属している生徒がいなのだけれど、僕が今年担当してるクラスの生徒や去年まで担当していたクラスの生徒などもいたのだけれど、この前噂になっていた岡本君の姿は見つからなかった。


僕が部員たちの列を通り抜けようとしてる時に、一人の生徒が僕の前に立って話しかけてきた。


「先生、岡本の奴は職員室に連れていかれたんですか?」


「えっと、僕は今職員室から来たんだけど、岡本君の姿は見なかったよ。何かあったのかい?」


「隠しててもわかっちゃうと思うんで言いますけど、岡本が野球部の柳沢に何か言ってバスケ部と揉め事起こさせたらしいんです。それも、バスケ部と野球部が揉めて体育館使えなくなったら、俺たちが体育館使えるって思ってたらしいんですよ。俺とか他の部員とかは廊下でも出来ることあるから、体育館の使用にはこだわっていないんですけど、岡本は雨の日でもボールを蹴らなきゃ感覚鈍るってうるさいんですよね」


「気を悪くしたら申し訳ないけど、岡本君ってそんなに凄い選手なの?」


「いや、岡本は俺らのチームでも中心とかじゃないし、女子が見に来てないと明らかに手を抜くんですよね。でも、本気になったとしても、そこまで上手いわけじゃないんで、試合に出れるか微妙な感じです」


「そうなんだ、うちのクラスの生徒の話しか聞いていないんであれだけど、岡本君って目立っているから上手いのかと思っていたよ」


「確かに、相手がいなければ上手いっすよ。でも、パスとかドリブルのコース塞がれたら何も出来ないんですよ。練習じゃ上手いけど、試合じゃ何も出来ないことが多いです」


齋藤さんが本能的に嫌っていたのはそういう部分が感じられたからなのだろうか?


「それに、自分より格下って思ってる人にもきつく当たる事多いんですよ。はっきりと言うやつはいないんですけど、岡本が原因でやめてるやつもいますからね」


「それは顧問の先生も知っているのかな?」


「いや、知らないと思いますよ。あいつは先生とか先輩に取り入るのも上手いですから。見た目だけなら爽やかな優等生って感じだと思うんですよ。そこがまたむかつくんですけどね」


「普段がどんな感じなのかはわからないけれど、あんまり無理しないでちゃんと言った方がいいかもしれないよ」


「ありがとうございます。先生って他の先生達と違って話しやすい感じ出てるんで、ついこんな話をしてしまってすいません」


「最近そういう風に言われること多いんだけど、なんでなんだろう?」


「えっと、言葉には出来ないですけど、何となく信用できる大人って気がします。あと、もし良かったら俺たちの試合も見に来てください」


「先生だけじゃなくてクラスの女子とか誘って見に来てくれたら部長が活躍すると思いますよ」


「バカ、先生がいるのに何言っているんだよ。すいません、こいつらも女子にいいとこ見せたがりなんで」


「何言ってるんすか、部長は先生のクラスの金髪の子がタイプだって言ってたじゃないっすか」


「へぇ、部長さんはソフィアさんが好きなタイプなのか。えっと、部長さんの名前はなんていうのかな?」


「申し遅れてすいません。自分は福原って言います」


「ありがとう、僕が試合を見に行くことはあると思うけど、うちのクラスにはサッカー部に所属している生徒がいないんで見に行くかはわからないな。でも、福原君が良かったらうちの部活に遊びに来てみるといいよ。たぶん、ソフィアさんは毎回いると思うからさ」


「ありがとうございます。自分は英語苦手だけど頑張って勉強しておきます」


「ソフィアさんは英語だけじゃなくて日本語も上手だから大丈夫だよ」


僕がそう答えた時には福原君の顔が真っ赤になっていた。


外は相変わらず強い雨が降り続いていたので、夕日が顔に差し込んでいたわけではなさそうだ。


福原君が頭を深々と下げると、他の部員たちも頭を下げていた。


僕が階段を上がって視聴覚準備室に向かおうとすると、後ろの方から歓声が上がっていた。


あの様子だとしばらくは遊びに来ないだろうと思われるのだけれど、ソフィアさんにはサッカー部の事をそれとなく伝えておくことにしよう。


思いのほか話し込んでしまったけれど、視聴覚準備室前にはソフィアさんの姿が見えなかった。


きっと生徒会長用のお菓子を選ぶのにいつも以上に気を使っているのだろう。

 

鍵を開けて中に入ろうとした瞬間、僕の左手が何者かに掴まれていた。


「先生、うちの咲良が迷惑かけるようですいません」


僕の左手を掴んでいたのはこの学校の三年生で生徒会副会長である西野菖蒲さんだった。

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