短編 中学生アリス編
第25話 女子中学生アリスの日常
部活が休みだと何をしていいのかわからなくなってしまって、近所の公園まで散歩してみたり、天気がいい時は河川敷まで行ってみたりすることもある。
小さい時はソフィーと一緒に行動することが多かったのに、ソフィーが高校生になった時から一緒に過ごす時間が短くなってしまったな。
本当はもう少し一緒にいたいんだけど、勉強とか新しく始めた部活も忙しいらしいから、あんまり負担をかけないようにしなくちゃって思ってる。
でも、ソフィーは学校でマサと一緒にいる時間が長すぎるんじゃないかなって思ってみたりみなかったり。
私も同じ高校に入れたら、ソフィーの作ったよくわからない部活に入ってみようかな。
ナナ先輩も陸上部と兼部しているみたいだけど、私はそんなに才能ないみたいだから、どちらか一つしか無理っぽいのよね。
ママもパパも大会とか見に来てくれているんだけど、自分が思っているよりも良いタイムとか出せたこと無いもんな。
ナナ先輩に憧れて始めた陸上だから、ナナ先輩が卒業しちゃったら何となくやる気も出てこないし、後輩との付き合い方とかもよくわからなくなってきちゃう。
友達の愛ちゃんとかはいつも構ってくれるから楽しいんだけど、同級生で仲良くしてくれる人ってあまりいないかも。
ナナ先輩とかミナミみたいに私と遊んでくれる人いたらいいのにな。
そんなことを考えていたら、もうすぐお昼になりそうね。
今日はママもパパもどこかに出かけてるし、ソフィーはさっきまで起きてたみたいで、今は寝てるみたい。
ちょっとお腹空いてきたけど、料理とかちゃんとしたもの作れるとは思えないし、どこかで何か買って公園で食べようかな。
誰かと会う予定がない時の服装ってどうしたらいいのかわからないけど、変な格好にならないように気を付けなくちゃね。
さて、今日はどこに行こうかしら?
商店街は誰か知っている人に会いそうだし、大型スーパーだともっと会いそうなのよね。
ちょっと前の部活の時に愛ちゃんから聞いたスープのお店に行ってみようかな。
一人でどこかに出かけるのってずいぶん久しぶりな気がしてるけど、最後に一人で出かけたのっていつだったかな?
中学生になってからはずっと誰かと一緒だった気がするけど、小学生の時も一人でどこかに行った記憶がないかも。
私はそんなに友達が多いわけではないんだけど、いつもどこかに行くときは誰かが横にいたような気がしているな。
夏休みはほとんど部活だったし、休みの時はパパが仕事で忙しそうにしてたし、ソフィーはいつもマンガとゲームばかりしていたのよね。
一回だけマサが誘ってくれてバーベキューとかしたのは楽しかったな。
一緒に行けなくてパパが悲しがってたけど、ママは楽しそうにしていたから良かったわ。
今日はあんまり人が出歩いていないみたいだし、ちょっとだけ寄り道してみようかな。
ソフィーが通っている高校って歩いて行ける距離にあるし、来年は通っているはずだからどんな感じか見に行ってみようっと。
家からほぼ一本道だし、途中にコンビニもあるみたいだから、特に困る事はなさそうね。
普通に歩いても二十分くらいで着くみたいだから、雨とか雪の日でもなんとかなりそう。
それにしても、今日は知り合いに全く出会わない一日ね。
校庭を見てもサッカーしかしてないみたいだし、陸上部はお休みみたい。
久しぶりにナナ先輩の綺麗なフォーム見たかったけど、今日は残念だけど見れないのか。
目的のスープ屋さんは高校からだとちょっとだけ遠回りになっちゃうけど、焦って知らない道を進んでも、かえって時間がかかりそうだから、今日は寄り道を楽しむ日にしておく。
この道は通ったことが無いけど、知っている道なので迷うことは無いね。
あら、何か行列が出来ているみたいだけど、何のお店なんだろう?
行列の先頭まで回らなくても匂いで分かったわ。
この人達はラーメンを食べるために並んでいるのね。
ラーメンは確かに美味しいけれど、こんなに並んでまで食べたくなるような味なのかしら?
ちょっと気にはなるけど、今度並んでいないときに来てみようかな。
「あれ、アリスだ。こんな所で何してるの?」
聞き覚えのある声がして、私はドキドキしながら振り向くと、そこにはマサがいた。
行列の先頭の方まで進んでいたのに、列から抜け出て私に話しかけてくれた。
「何かご飯を食べようかなって思っていたのと、ソフィーの高校を見て見たくなったから、なんとなくこの辺を歩いていたの」
「そうなんだ、ここのラーメンは美味いからおすすめだよ」
マサはそう言ってくれたけど、今から行列に並んでいると、自分の番が来る前に空腹で倒れてしまいそうだわ。
「せっかく並んでいたのに離れていいの?」
「ラーメンはいつでも食べられるからいいの。良かったら一緒に何か食べに行く?」
マサはいつも私が喜ぶことをしてくれる。
でも、時々嫌がる事もしてくるんだけどね。
「うん、お腹空いてるから何か食べたい」
「アリスは何か目当てのものあるの?」
「えっと、友達の愛ちゃんに教えてもらったスープ屋さんに行こうかと思ってたよ」
「スープ屋は行ったこと無いけど、愛ちゃんが教えてくれる店ならハズレはなさそうだね」
そんなことを話しながら歩いている日常は楽しいな。
もしも、今日誰かと会っていて話とかしていたら、マサは外の行列じゃなくラーメン屋さんの中にいて、私に気付かなかったかもしれないな。
ちょっとした偶然の積み重ねが幸せに繋がっているのかも。
スープ屋さんまであと少しだけど、ちょっとだけ歩くスピードを落としてみた。
「アリスは食べたいスープがあるのかな?」
「言ってみないとわからないんだけど、愛ちゃんが言っていたので迷っているの」
「それなら、迷っているやつを全部買ってシェアするのはどうかな?」
「いいわね。そうしましょう」
私は嬉しくなってマサの腕に抱き着くと、マサは私の頭を軽く撫でてくれた。
お目当てのスープも買えたし、ついでにパンとお水も買ってもらっちゃった。
ソフィーにお土産は無いけれど、帰りに何か芋でも買っていけばいいよね。
一人だったら三種類のスープも買えなかっただろうし、こんなに美味しく感じなかったかもしれない。
お互いにそんなに話をするタイプじゃないけど、無言の時間が苦痛に感じないのはいいよね。
愛ちゃんみたいにたくさん話してくれる人も好きだけど、会話が無くても疲れない関係が一番かも。
ママもパパもソフィーもたくさん喋るの好きだけど、私だけあんまり喋るの得意じゃいないわ。
明日から学校と部活も忙しくなりそうだし、マサも先生の仕事が忙しそうね。
最後にギュッと抱きしめてもらえたら明日からまた頑張れるかも。
「ねえ、マサはこの後に用事あるの?」
「今日は明日の準備をしようかなってくらいで、特に用事は無いかも」
「そう、それなら行ってみたい場所があるんだけど付き合ってもらっていい?」
「帰宅時間に間に合うならいいよ」
「いつまでも子ども扱いしちゃイヤよ」
そう言って私はマサの腕を引っ張ると、少しだけ早く歩いていた。
小学生の課外授業で一度だけ行ったことのある場所。
そこまでは歩くと少し遠いけど、手を繋いで歩けるだけでも嬉しいな。
もう少しだけ続く幸せな時間を噛みしめるように、私はこの時間と空間を思う存分楽しむことが出来た。
美術館の展示品は一目見てわかるものもあれば、何度見ても理解できないものまでさまざまなモノが展示されているんだけど、お気に入りの場所は裏庭の外と一体になって休めるスペースだ。
二人で外に出て見ると、少しだけ雲が増えたようで、時々感じる雲の影が涼しく感じて気持ち良い。
こんな日常がいつまでも続くといいなと思っていると、ついついマサに寄り掛かってしまった。
嫌がるそぶりも見せないので、そのまま太ももに頭をのせてみることにした。
世界で私だけが出来ること、ソフィーでもやってもらえないこと。
膝枕のまま上を見上げると、雲の切れ間から差し込んでいる光を浴びていて、マサの表情はわからなかったけど、時々髪を撫でる風が気持ちい。
「ねえ、空が眩しくて顔が見えないから近くに来てよ」
そう言ってもマサは笑うだけで近付いてくれはしなかった。
私から近付くことも出来たけど、たぶん顔を背けてしまうにしまっているので、後頭部を両手で掴んで引き寄せることにした。
ソフィーはきっとまだ寝ているだろう。
幸せな夢を見ているといいな。
私はこうして現実の世界で幸せに包まれているのだから、ソフィーは夢の中だけでも幸せになっていて欲しいな。
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