第30話 齋藤さんのケーキと金髪の勇気 その5(全8話)
「サッカー部の岡本先輩ってどんな人なの?」
ソフィアさんが何の脈略も無く齋藤さんに尋ねていた。
「岡本先輩かぁ。そうだね、悪い人ではなさそうだけれど、特別良い人って感じもしないかな。運動は得意だし、みんなを引っ張る力はありそうだけど、私はあんまり好きじゃないかも」
「どの辺が好きじゃないの?」
「なんか、男子と女子での態度が違うし、人によっても割と違ったりするんだよね。陸上部の先輩に対しても、なんか偉そうな態度とってる事あるし、私は一年だからあんまり話すこと無いけど、部長とかはあんまりって言ってたかも」
「でも、岡本先輩の事好きな女子とか追っかけの子って結構いるよね」
「うん、遠くで見てる分には格好良いとは思うよ。でも、部活やってるときにサッカー部のマネージャーとかにもきつく当たってたりしてるの見てるからなぁ。大会の時とかは全然そんな感じを出していないのもちょっとね」
そいうもんなんだと頷いているソフィアさんは鈴木さんの話を振っていた。
「美波ちゃんと岡本先輩の話って知ってる?」
「ああ、詳しくは知らないけれど二人で何か話しているのは見たことあるよ」
「この前美波ちゃんに相談された時に、ナナにも教えていいか聞いたら『いいよ』って言ってくれたから言うんだけど、美波ちゃんは岡本先輩から告白されたんだって」
「へえ、あの人は美波にも告白してたんだ」
「夏休みにも何度も連絡着てたみたいだけど、美波ちゃんはほとんど無視してたって」
「告白って夏休みになってからなの?」
「一学期の終業式当たりって言ってたよね?」
「うん、僕が聞いた記憶ではそれくらいの時期って言っていたと思うよ」
「あ、陸上部の先輩も終業式のちょっと前に告白されたって言ってた」
岡本君は恋多き男なのか、浮気性なだけなのか、数打てばどうにかなると思っているのかはわからないけれど、この二人は良く思っていないのは確かだった。
「ナナの話聞かなかったら岡本先輩って美波ちゃんとお似合いだなって思って見ていたけど、何だか幻滅しちゃったな」
ソフィアさんはそう言って立ち上がると、校庭にいるであろう岡本君の姿を探しているようだった。
「去年とか一昨年も岡本先輩から告白された部活の先輩が何人もいたって話で、一年生も気を付けろって入部した後に言われたよ。たぶん、バスケとかバレーも同じ感じだと思う」
顔の綺麗な岡本君は黙っていてもモテそうな気はするのだが、モテるための努力をしすぎてしまっているようだ。
「齋藤さんは岡本君と鈴木さんが付き合ったとしたらどう思う?」
「それはあり得ないし、生徒会長が許さないんじゃないかと思うな」
「会長さんって美波ちゃんの事好きだっていつも言っているもんね」
会長の葵さんは前年度後期から生徒会長を務めているのだけれど、入試の時から鈴木さんを生徒会役員にしようと画策していたらしい。
これは生徒間だけの噂ではなく、教師の間でも囁かれている事だった。
その噂が本当なのかは誰もわからないが、入学式の翌日に生徒会長が鈴木さんを勧誘しに教室まで来たことは、忘れることが無いだろう。
そんな感じで始まった鈴木さんの生徒会役員生活なのだが、生徒会役員という役職のみで、鈴木さんがどのような役割を期待されているのかを、本人ですらわかっていないと言っていた。
「美波が岡本君と付き合ったとしたら、生徒会長が怒ってサッカー部の予算とか通らなくなるかもね」
齋藤さんは人の不幸話を聞くとニヤケテしまう癖があるのだけれど、根は真面目ないい子なので大丈夫。
「ナナは好きな人いないの?」
「うーん、私は今のところいないけど、部活を引退したら考えるかも。ね、先生」
そう言って僕の方にウインクをする齋藤さんではあったが、僕に対して特別な感情を抱くことが無い事は知っているので無視しておく。
「ソフィアさんは恋愛に興味あるのかい?」
「マサ君は私の事なんだと思っているのかな?食欲しかないとでも思っているのかい?」
僕は面倒くさい話になりそうだと思って視線を逸らすと、廊下に誰かいるような気配を感じた。
人影が大きくなったり小さくなったりを繰り返していたのだが、それに気付いた齋藤さんはドアを勢いよく開け放った。
「いきなり開けるなって、びっくりしたべさ。齋藤はいつも急に出てくるから驚いちまうべ」
「あ、会長だったんですね」
ドアを開けるとそこには学校にいる誰よりもスタイルが良く、顔も整っている女生徒が手をバタバタさせて立っていた。
我が校の生徒会長はモデルや芸能人と言われても、誰もが信じてしまいそうなルックスをしている上に頭も良く、ある部分を除けば性格も大変すばらしい人なのだ。
「いやいや、鈴木さんの名前が聞こえたから聞き耳立ててたんだけど、はっきりとは聞こえなかったんでどんな話してたのか教えて」
「会長が聞いても面白くない話ですよ。それに、生徒会の仕事はいいんですか?」
「生徒会の仕事なら他の人達でやってるから心配いらないべさ。それに、私がいてもやる事変わんないし、鈴木さんに視線が気になるから出てけって言われちゃってよ。鈴木さんってよくここに来るから入ってみたくてね」
「生徒会長って暇なんですか?」
「あら、イギリスの人は言いにくい事はっきり言うんだね。今は忙しくないけど、文化祭とか体育祭とか行事がある時はなまら忙しいって。一年生はまだ知らないかもしれないけど、去年とか盛り上がりすぎて大変だったんだって」
確かに、去年の体育祭は通常の倍の四日間開催になって盛り上がっていた。
一日目と二日目のクラス対抗戦は問題なく終了したのだけれど、その翌日から開催された部活・各委員会対抗の体育祭はかなり白熱して、一歩間違えれば怪我人が出てもおかしくないほどの熱狂だった。
優勝した部活には栄誉と活動予算が上乗せされるという副賞もあり、どの部活動も持てる力を全て発揮していたに違いない。
「したっけ、今年の体育祭は去年と違って普通の規模に戻すから、先生もそんなに思いつめなくてもいいっしょ。私だってやりすぎたって反省してるんだからさ。あれから何回も職員室に行って説明したっしょや」
ソフィアさんと齋藤さんは去年の体育祭が気になっているようではあるが、僕は齋藤さんの悩みが何なのかわからない事の方が、気になって仕方がないのだ。
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