スーサイドアップガール

釧路太郎

小学生編

第1話 金髪姉妹と地味な男(全10話)

 卒業式のシーズンは雪が無い方が珍しい土地柄なのだが、今年は例年よりも気温が高かったのでほとんど雪は解けていた。


 春というにはまだ早い気がしているが、日中の気温だけならポカポカとしていて気持ち良い日々が続いていた。


 徹夜明けの体には厳しいくらいの日差しを浴びて家に向かっていると、数台の引っ越しトラックがマンションの前に止まっていた。


 ちょうど出ていく人と新しく入居する人の引っ越しが重なったらしく、いつもは静かなエントランスがやや喧騒にまみれていた。


 エレベーターが止まっている階は僕が住んでいるフロアになっていていたのだが、しばらく待っていると一階まで降りてきた。


 引っ越し業者の方が四人ほど降りてきて、また荷物を取りにトラックへと駆けていった。

 

僕はそのままエレベーターに乗り込んで自分の階のボタンを押した。


 エレベーターを降りて突き当り手前の家が僕の住む場所なのだが、家の前に見慣れない少女がいた。


 この時間帯は廊下に太陽の光は届かないのだが、少女の髪は光を反射しているのではないかと思えるくらい綺麗な金色だった。


 たぶん、今日引っ越してきた家の子供なのだろうと思い、日本語で挨拶をしてみたのだが、返事は無かった。


 もしかしたら、日本語が苦手なのかもしれないと思って、僕はそのまま自分の家に帰る事にした。


 話しかけた時に一瞬驚いた表情をしていたのだが、少しだけ合った瞳の色は吸い込まれそうなくらい綺麗な青い色だった。


 ご近所さんならそのうち挨拶する機会もあるだろうと思って、その時が来たら日本語が話せるのか聞いてみようと思った。


 靴を脱いでキッチンへ向かうと、いつものように料理が用意されてあったのだが、今日はいつも以上に疲れてしまっているので起きてから食べることにしよう。


 一通りやるべきことを済ませて布団に入ろうかと思った時にインターフォンが鳴った。


 モニターを確認すると、外国人の夫婦が笑顔で立っていた。


 ドアを開けると夫婦の横に先ほど見た少女とは別の少女がいて、先ほど見た少女はお父さんの足元に隠れていた。


 外国人でも人見知りをするのだと思っていると、引っ越しの挨拶に来てくれたようだった。


 両親はもう仕事に行っているという事を伝えると、僕の両親が出かける前に挨拶はしていたらしかった。


 リビングに置いてあった見慣れない洋菓子の箱はこの家族がくれたものだろう。


 日本人よりも日本人らしい引っ越しの挨拶をされたような気がするが、引っ越しの挨拶をしたこともされたことも無かったので、丁寧な言葉遣いと柔らかい物腰がそう感じさせたのかもしれない。


 二人の女の子は新年度から僕の通っていた小学校に転校してくるらしい。


 長女の方は日本語がほぼ完ぺきに理解できて、読み書きも小学生レベルなら出来るらしい。


 次女の方は日本語は理解できるのだが、上手く言葉にすることが出来ず読み書きも苦手らしい。


 僕の母親が時々二人に日本語の読み書きを教えるそうなので、僕も協力できることがあれば手伝うと伝えると、長女の方は喜んでいたみたいだが、次女の方はずっと隠れていて表情は読み取れなかった。


 挨拶が終わってそろそろ寝ようとしていると、携帯に着信が入った。


 少しだけ面倒ではあったが、電話に出て眠い中で一生懸命に会話をしていると、完全にお昼の時間が終わっていた。


 このままだと、朝食か昼食かわからないご飯が夕食になるなと思っていたが、睡魔には勝てずに眠りに落ちていった。



 起きてから時計を見ると六時と表示されていたのだが、午前なのか午後なのか一瞬わからなくなっってしまった。


 テレビをつけるよりも早く答えは見つかった。


 リビングの方から聞きなれない笑い声と、聞きなれたいつもの声が響いていた。


 トイレに行ってからリビングに向かうと、先ほどの家族とうちの両親が楽しそうに話していた。


 時々英語が混ざる会話はわからない単語も出てきたりしていたのだが、何となくニュアンスが伝わればいいのかと思って聞いていた。


 長女の方は隣に来て自己紹介をしてくれたので、僕も名前を名乗った。


 次女の方は相変わらず人見知りが激しいらしく、長女が代わりに名前を教えてくれた。


 ソフィアさんとアリスさんの姉妹はお互いに日本文化に興味があるらしく、マンガやアニメが好きだという事なので、僕の部屋にあるマンガを見せてあげることにした。


 有名なマンガはある程度揃っているのを見ると、姉のソフィアさんはもちろん妹のアリスさんも興奮した様子で本棚の前に立ってウロウロと落ち着きのない行動をとっていた。


 好きなマンガを見ていいよと言うと、ソフィアさんは一番有名な作品を手に取った。


 アリスさんは色々迷っていたみたいだが、マンガを手にとっては少し捲って棚に戻す作業を繰り返していた。


 日本語が読めないアリスさんには日本の漫画は絵を見るだけの本でしかないらしく、どうしたら読めるかなと思っていると、英語の勉強のために買った英語版の電子書籍に漫画がいくつかあった事を思い出した。


 本棚に比べると数は少ないが、ある程度のメジャータイトルなら購入済みなので大丈夫だろう。


 マンガを英語で読める状態のタブレットをアリスさんに渡すと、結構戸惑ってはいたのだがソフィアさんが説明してくれたので使い方を覚えるとソフィアさんと同じマンガを読んでいた。


 それから数十分経って晩御飯を食べることになったのだが、アリスさんはタブレットを手放そうとはしなかった。

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