第17話その正体
セスは考える。
グリグリと自分を壁に貼り付けているフレニムだが、これを抜くには柄を握らなければならない。だが触れた途端、再び魔力を利用されて更なる攻撃を受ける危険が高い。
「くっ」
背中に回した両手を壁に突っ張り、身体を左右に動かし、力ずくで逃れようとすれば服がビリイイッと破れる音がした。
服が端まで裂けて刃先から外れ、勢い余って数歩進んだところで、ドスッと後ろから物音がして振り向いた。
「うわ!」
見るとブーツの踵部分にフレニムが刺さっていた。頑丈な厚手で長年愛用したブーツに穴が空いている。
「あああ、俺の靴が!気に入ってたのに!」
悲痛な声を上げたセスは、思わず剣を引き抜いてしまった。
「あ、やべ」
しっかりと握りしめていたはずなのに、フレニムはスルリと彼の手を外れ、過たず狙いを定めてくる。
「う、わ、ぐ、ひっ」
床に転がって避けたセスだったが、フレニムはしつこく追いかけてきた。カカカカカと小気味良い音は、恐ろしい速さで床に刺さる魔剣の音だ。それを部屋中を転げ、ベッドに乗り上げてセスは逃げまくった。
部屋を出ようとドアへ走ったら、セスの顔のすぐ横を飛んだフレニムが、ドアにビイィンと突き刺さった。
「ひいっ、待て、待てフレニム!おまえ、俺を殺す気か!?」
ガッタンバッタンと狭い部屋を逃げ回ったのは、大した時間ではないはずだ。セスには途方もない長い時間に思えたが。
「ハアハア……………」
髪を乱し服はあちこち破けて、細かい傷を幾つも拵えたセスは、荒い呼吸を繰り返して、力尽きて床に落ちた魔剣を見下ろしていた。
額の汗を拭い落ち着いたところで、隅に落ちていた鞘を拾う。そろそろと剣に近寄り、触れないように鞘の方を寄せる。
「……………いや、ダメだな」
それなりに大人な彼は、無理に魔剣を鞘に収めても根本的な解決にはならないと考え、手にした鞘をベッドに放った。
正直セスは、フレニムが怒っている理由が薄々分かりかけてきていた。だから怖いが、話せば分かるのではと考えた。
「フレニム……………これからおまえに触るが暴れるなよ」
指でツンツンと柄をつついてみると、紅の魔力が明滅する。身の危険を未だ感じて、セスは頭を捻って慎重に言葉を選んだ。
「なあ、おまえも人・間・なら、ちゃんと話し合おう。誤解させて怒らせたのは、俺が悪かったから…………な?」
深い息を吐き、思いきって柄を握った。
すると、魔力を出してはいるが今度は暴れずに手に収まった。
フレニムをもう片方の手を添えて見つめる。にわかには信じられないが、セスの今の言葉に反応して静かになったとしたら、やはりそうなのだろう。
この魔剣の話をした時に、にんまりと笑ったシェリルは、果実酒を片手に「これは女の勘ってやつだけど、多分間違いないんじゃないかしら?」と彼に耳打ちした。
『フレニムは、もしかして…………』
「フレニム、おまえは人間なのか?そうなんだな…………」
セスは呆然として、一つの名を溢した。
「……………フレニア、姫?」
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