第31話名も無き魔剣の最期4

「無意識なのよね?」


「はい。ついうっかりというか、興が乗ったというか」


「気軽にしないで欲しいわ。私を一人の人間として扱って」


「剣かなー、と……………」


「私人間!女子!それセクハラ!」


「はい、すいませんでした!」




 セスは神妙な顔をして素直に且つ丁寧に謝ることにした。フレニアとは、これからのことを考えれば仲良くしていたほうがいいとの打算が働いたのだ。


 お詫びにアイスでも用意しておこう。




「そうなると、剣の先が頭部にあたるのか?」


「……………そうだけど、それを聞いてどうする気?」


「いや、気になったから…………他意はない」




 そうか、つまり俺はフレニアの脚を掴んでブンブン振り回しているということか。




 何ともシュールな絵面をセスは思い浮かべた。「食事の時間だ、マイ・レディ」の後のチュウは、絵面にすると変態っぽいので止めておこう。




「あ、あのう僕、お邪魔みたいでごめんなさい」




 ルツが肩身を狭くして言って、二人は同時に少年を見た。




「ああ、気にするな。話を聞きたいのはこっちなんだから」


「ルツ、別に邪魔ではないわ。同じ魔剣となった身なのだから会えて嬉しいわ。それで…………ルツは私達をもしかして追い掛けてきたの?」


「はい」




 フレニアの問いに、こくりとルツが頷いた。




「え、そうなのか?」




 セスが驚くのを、フレニアは物憂げに溜め息をついた。




「家族に送られて一人で魔剣を持って来たのくだりで想像できるでしょう?全く鈍いんだから」


「な、異議有り!俺だって鋭い時はあるんだからな。さっきの戦闘の異常なハイがなぜかとか、君の魔剣からの解術条件は何なのか…………と、か」




 ピクリと肩を揺らしたフレニアの顔が赤くなる。




「し、知って?」




 アワアワと動揺するのを見たセスは、しまったと思った。つい口が滑った。解術条件である彼女の気持ちに向き合う気はない。


 知らんぷりを決め込んでいたら、それで良かったんだ。




「あー、ところで君はなぜ解術条件が揃ったのに、自分の意思で剣になれたりするんだ?完全に人間には、なぜなれない?」


「…………………」


「……………姫さん?」


「姫は、やめて。解術条件が2つ働いているからよ」




 自分からは話題にしたくないのだろう。フレニアは、セスの誤魔化すような問いにだけ答えた。




「私を魔剣に変えた時に、兄上も解術条件を組み込んでくれていたらしいの。おそらくそれは、仇を討つこと」


「あ、そうか」




 フレニアが以前言ったことを思い出す。兄が掛けたのは、魔法というより呪いだったというのは間違いではない。その為にフレニアは、100年の間女の子らしい生き方も自由も選べずに過ごしてきたのだから。




「そのうち人間になれるさ」


「ええ」




 決意を込めた慰めに、フレニアは勿論だとばかりに肯定する。




「待てよ……………つまり、ルツの魔剣も人間だということか」




 薄緑の刀身を、まじまじとセスは眺めた。




「ルツ、この魔剣の銘は何て言うんだ?」


「え…………あ、僕?名前は、無いです」




 口を挟めず、二人のやり取りを聞いていたルツは、急に指名を受けて慌てて喋りだした。




「無い?」


「知らないんです。元々魔剣使いだったのはおじいちゃんで、この剣はおじいちゃんとは意思の疎通が少しだけできたみたいです。でも名前は伝わってないし、剣も知らせなかったそうです」




「そうね、私にも分からないわ」




 魔剣同士、通じ合えるかと思っていたフレニアは残念そうだ。




「では、なぜルツがこれを持っているんだ?」


「おじいちゃんが死んだ後、父さんが剣を持っていたんだけど、この前死んでしまったから僕がもらいました。父さんは僕に、この剣を壊してあげてくれって。僕は知り合いの船乗りの人から、たまたま魔剣士のセスさんがこの船に乗る話を聞いたから急いで追いかけて」




「待て」




 セスは耳を疑った。




「今、壊すって?」


「はい。それがこの剣の望みだって、父さんはおじいちゃんから聞いたそうです」




 サラリと銀髪を頬に落とし、フレニアは魔剣を撫でた。




「……………それがこの剣の解術条件だと言うの?」




 セスへと向いたフレニアは、淋しげに瞳を揺らした。




「魔剣は、他の魔剣でしか壊せない」

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