第3話敵は人間

「さてと、今日の仕事は何にするかな」




 セスは依頼が貼り出された掲示板を見ている。そこには依頼内容の書かれた紙が縦に並んでいた。


 下から上にいくほど新しい依頼で、紙には場所や期日、討伐対象に報奨金とその請求方法、依頼主のことが記載されていた。




 ここはヴィンセンテン王国の、とある町。昼は食堂で夜は酒場の比較的大きな店には、こうした掲示板がある。




 セスがこうした依頼を選ぶ条件は、報奨金の額ではない。


 最も新しい依頼であることだ。


 一番上の紙を最初に見て、魔物の出現場所を地図に記して考え事をしていたら、騒がしい店内に一際大きな声がした。




「お願いします!」


「うーん、でもなあ………」




 近くで少女が、他の剣士の腕に縋って必死に何かを訴えている。




「町の警備隊も手を焼いているんです。上層部に掛け合っても直ぐには動いてくれなくて、剣士様にお縋りするしか……」


「悪いが他を当たってくれよ」




 面倒そうに剣士が少女の腕を振り払い、店を出ていった。




「待って」




 追いかけようとして、椅子につまずき転びかけた少女を、咄嗟にセスが後ろから肩を掴んで支えた。




「気を付けなよ」


「あ…………あの!」




 少女がセスの顔から視線を下げて、いきなり今度は立ち去ろうとする彼の服の裾を掴んできた。




「もしや剣士様ですか?」


「ああ、まあ………」




 少女の顔がパアアと輝いて、セスはたじろいだ。




「私の依頼を受けてもらえませんか?報奨金も村の人たちで出し合ってそれなりの金額を用意していますから!」


「ええっと、立ち話も何だし、取り敢えず座ろうか」




 頬を掻き、セスは少女を店の隅のテーブルへと促した。




「私の村は、この町の隣で山を一つ越えた所にあるんですが、近頃山を根城にした奴等が度々村を襲い、食料や金品を略奪するようになって………」


「魔物が出るのか?」




 魔物にも様々なものがいる。人の肉を食らうものもいれば、人から食料を奪うものも珍しくない。




「いえ、盗賊…………人間なんです」


「あー、なるほど、人間かあ」




 だからさっきの剣士は嫌がったのだ。


 魔物よりも人間は厄介な生き物だ。通常の魔物よりも知恵はあるし、集団で向かってくるとこちらがヤバイし、何より斬りまくるのは、さすがに人として気分が悪い。




「相手は何人ぐらいか把握はしているのか?」


「確か5、6人ほどだったと思います」


「ふうん、人数的にはそれほどじゃないな。腕が立つ奴はいたか?」


「それは分かりません。でも、剣士様も腕が立つからこちらへいらしたのでしょう?」




 リラと名乗った少女が、珈琲カップを持つセスの手に、そっと手を重ねた。




「う………」


「お願いです。剣士様、どうか助けて下さい。報酬は望みのものを差し上げますから………ね?」


「っ………」




 顔を寄せ上目遣いに艶かしく笑むリラに、セスはかあっと顔を赤らめた。




「こ、困ってる人は見捨てられないよな、うん」


「ありがとうございます!」




 ************************************************




 はい、詰んだ!




 〈バカね!罠よ、罠!あの女、私を品定めするように見ていたの気付かなかったの?〉




 リラとかいう女が流し目でセスを見ながらも、チラチラ私に目を向けていてイライラする。


 剣士だから、それなりの武器を所持するから、剣は高く売れるでしょうよ。それに報奨金を持ってる可能性が高いから、一般市民よりも剣士を狙ったほうが金銭が手に入りやすいわよね。




 盗賊に町が何もしないわけないじゃない。セスはどうしてこう鈍いのかしら。周りの人々が不安げにこっちを見て直ぐに目を逸らしているのは、リラの正体を知っているけれど圧力があって言い出せないって感じ。きっと怖いのね、我が身が一番可愛いもの。




「ねえセスさん………もしかしてそれ魔剣ですか?」


「あ、ああ、そうだ」




 手を両手で握られたセスが、私をようやく見た。




「綺麗だろ、フレニムっていうんだ」


「そうなの、凄いわ!」




 リラの瞳が嬉しげに細められて、私はチッと舌打ちした。




 〈ちょっとセス!デレデレしてんじゃないわよ!女の子に弱いんだから!〉




 こんな小娘に鼻の下を伸ばして、後で痛い目に会っても知らないんだから。


 単純でお人好しなセス。


 まったく………私が愛想尽かしたらどうするの?

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