第4話愛想を尽かした魔剣

 次の日の早朝、リラの案内でセスは山を登っていた。




「どこまで行くんだ?」


「あと少しです」




 どんどん前を進む彼女は休みもしない。こんな危険な場所に、まるで通り慣れているようだ。


 セスの装備は最低限だ。動きやすい服の上に、肩と肘と脛にレザーの防具を当てて籠手を着けただけなので、体が重くて息切れを起こすようなことはない。程よく筋肉のついた体は、剣士として何年も生きてきた証だ。




 急斜はそれほどなく、道が整備されていて歩きやすい。上に行くほど木々は少なくなり、ところどころ岩肌が見えた。




 はっきり分からないが中腹あたりだろう。木々のトンネルを抜けたところで視界が急にひらけた。


 山の中にこんな所があったとは。切り立った崖に囲まれた赤茶色の山肌が広がり、海岸にでもいるかのように錯覚する。




 リラが立ち止まると、セスに向けてニヤリと悪そうに笑んだ。




「ようこそ盗賊の根城へ。間抜けな魔剣士さん」




 彼女の背後、岩の影や崖の上に盗賊らしき男たちが次々と姿を現した。その数は40人ほどだろうか。


 セスの後ろにも、いつの間にか大柄な男が退路を塞ぎ、リラに顎をしゃくった。




「よくやったな、リラ。あとはいつものように任せな」


「ああ、親父。たんまり持っているといいな!」




 口調も態度も変えたリラが、頭らしき父親に応えて盗賊たちの後ろへと離れた。




「はは」




 苦笑したセスが、フレニムに手をかける。




「なんか嫌な感じはしたんだよなあ」




 どこかのんびりした様子のセスに、頭がダガーを手に警告する。




「どうする?大人しく身ぐるみ剥がされるか、死んでから剥がされるか、どちらがいい?」


「うーん」




 渋々といったふうに、セスがフレニムを鞘から抜いた。




「フレニムは渡せないなあ。彼女は、やっと見つけた俺のだからな」


「そうかい」




 はっ!と頭が嗤った。他の盗賊たちも下卑た嗤いを上げる。




「魔物には慣れた剣士様だろうが、この人数で余裕こいてられるかな?」


「親父!そいつの剣は魔剣だ、気を付けな!」


「へえ、それは尚更価値がある代物じゃないか!野郎共、やっちまえ!」




 各々の武器を持った盗賊が、頭の合図でセスに飛びかかる。


 マジな顔に変わったセスが、愛剣を斜め上部に振りかぶった。




「フレニム、行くぞ…………って、あれ?」




 ************************************************




 〈はい知らなーい。もう知らなーい。可愛い女の子に釣られて、やって来たあなたが悪いんだからね〉




「フレニム、どうした?!」




 私は、だんまりを決め込んだ。


 いつもなら抜き放った刀身から焔のような魔力が吹き出て、やる気を見せる私だけど、今は無反応。




 セスは私に怪訝そうに声を掛けていたが、盗賊たちの武器が振り下ろされて慌てて私で受け止めた。そして返す刃で、相手に斬りかかる。




「痛て、なんだ?」




 ガツッとぶつかった音がして、盗賊の男が自分の腕を見るが斬れていない。




「こいつは………」


「ええ?フレニム?!」




 目を丸くしたセスが、思わず刀身に指を添えて確認する。




「ははは!何だ、斬れてねえぞ?これは大した魔剣だな?」




 嘲笑が漏れる中、セスは「どうしたんだ?」と私に問い続ける。その間にも襲いくる盗賊を私でボコボコと叩くが、彼らにあまりダメージは与えられていない。




「俺が何かしたか?怒ってるのか?」




 〈だんだん焦ってきたわね、良い気味だわ〉


「フレニム……………マイ・レディー」


 〈ご機嫌取ってもダメよ。少しは痛い目見ることね〉




 眉尻を下げて困ったように私を見つめるセスに「そうと分かれば………おい!」と頭の合図で複数が同時に飛びかかった。




「うあ、ぐっ!」




 手慣れた素早さで、縄で後ろ手に縛られて転がされたセス。


 うん、可哀想だわ。




「こんなの持って、おまえ本当に剣士なのか?」


「あっ、返せ!」




 頭がセスの手から私を奪い取ると、可笑しそうにしげしげと眺めた。




「こんなんで値が付くのか?」


「でも刀紋は綺麗だし、赤みがかかっているのは珍しいと思いますよ」


「鞘もなかなか凝ってる」




 盗賊たちが私を値踏みするのを、身ぐるみ剥がされながらセスが睨み、叫んだ。




「俺の物に触るな!」


 〈だ、誰があなたのモノよ!あ、私、物だったわ。でも私が選んであげたんだから、そこんとこ間違えないで!〉


「やめろ!汚い手でベタベタと、フレニムに手垢がつくだろ!彼女が穢れる!」


 〈いや、言い方!〉


「せっかく俺が隅から隅まで丁寧に磨きあげたフレニムを!おまえたち、寄ってたかって何てことを!」


 〈いやもう、あなたが何てこと言ってるの?!〉


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