第41話造り変えられた魔物2
果汁の入ったコップを両手で握り締め、フレニアは不安でいっぱいな顔でセスを見ている。
「え、今何て?」
「ベガラナだった所に行ってみないかと言ったんだ?」
瞳を揺らし戸惑う彼女の様子は想定内だ。セスは穏やかに畳み掛けた。
「だいぶ変わっているだろうが、悪くはないと思う」
「一度……………近くを通ったことがあるわ。木が一本も生えてなくて砂漠のようだった」
「いつの話だ?」
「80年前だったわ……………本当に行くの?どうして?」
「自分の目で、今どんな風になっているか確かめたら君の気分も楽になるかと思ったからさ」
数年前、セスは旅の途中に立ち寄ったことがあった。その時は、他の町と同じように変・わ・り・映・え・しない光景に気にも止めなかったが、フレニアならそれを喜んでくれるに違いない。
「怖いか?」
俯いてしまったフレニアの手に手を重ねると、正直に彼女は頷いた。
「怖いけど、行くわ。怖くて今まで避けてきたの、だけどそれじゃあダメよね。ちゃんと見届けないと」
「気負わなくていいんだ。俺が見せたいと思っただけで、変に義理立てすることはない」
悲しそうに目を伏せているフレニアの手を、少し力を込めて握る。
「大丈夫、悲しいことはないから」
「………………うん」
ふいに、フレニアがセスに悪戯っぽく笑いかけた。
「セスは、優しすぎるわ。そんなことで魔剣士をやっていけるのかしら」
「何だそれ。誉めてるのか?」
「そうよ」
頬を掻くセスをフレニアは楽しそうに見る余裕ができたようだ。
不安を消した彼女を見て、セスの心は逆にチリチリと痛んだ。
いつ何があってもいいように、フレニアの為にできることをしてあげたい。もしもの支度をしていることを、彼女には決して勘付かれないようにセスは実行していこうと決めていたのだ。
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セスが亡国を目指したのは何も急ではない。ここシュタットの街から馬で3日の距離にあるのだ。それはたまたまではない。
「あの人を……………カザルフィスを追わなくていいの?」
馬の前に座ったフレニアが問うが、手綱を持つセスは首を振った。
「なあ不思議だとは思わないか?俺は何年も奴を追っていたが全く遭遇することができなかったんだ。それなのにフレニムを持つようになって2ヶ月も経たない内に奴に出くわした。しかもあいつは待ち受けていたかのようだった」
それに黒い魔剣士ヘゼルスタの口を借りたカザルフィスは言っていた。
『楽しみは取っておこうじゃないか』と。
「推測だが、おそらく俺達の動きは把握されている。急に強い魔物や数が増えたようだったのは、奴がわざと俺達の行く手に出現させている気がしてならない。鬼ごっこのつもりなんだろ」
「あ………………そういうことだったの」
思い当たることがあるのだろう、フレニアは納得したように頷いた。
「だったら、近くにいるかもしれないのね」
「……………ああ、だから追うことはもうしない。奴が現れるのを待つ。君がいる限り、必ずまた現れるだろう」
「わかった。その時は…………」
フレニアが言いかけて、自分の口に手を当てた。
「ごめん」
小さな声を、セスは聞こえなかった振りをした。
「フレニア、もうすぐだ」
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