第46話追う者2

『滅ぶ?僕が、俺が、滅ぶと?』




 ぎこちなく作った笑みを男が浮かべた。気味の悪い笑みは、この男が魔剣に操られているに過ぎないことを思い起こさせた。


 明るいところで男を見たのは、セスには幼い時以来だ。


 表情の無い顔をして年齢もよく分からない。若いのかどうか不思議と判別できない奇妙さがあった。




『我が滅ぶ時は、そなたが滅ぶ時』




 一定の距離のまま対峙する。


 男の声は言葉に出しているというよりは、頭に直接響くように聴こえた。実際唇を動かして話しているようには見えない。




「違うわ!お前だけが滅ぶの」




 怒りに震えるフレニアを下ろして背に庇うと、セスの腕にすがるように掴まってきた。




「貴様の目的は何だ?なぜ魔物を増やすようなことをするんだ」


『……………目的』




 首を捻る仕草は忘れてしまったと言わんばかりで、二人を余計苛立たせた。




「まさか目的もなく魔物を増やしているのか?」


『魔剣フレニム…………俺を追う剣。魔物は道標。魔物と戦うほどにそなたは怒りや憎しみを大きくさせていく。この100年、俺を忘れたことはなかっただろう?それこそ恋のように、ひたすら俺を、私を、想ってくれたろう?』




「なっ」




 フレニアが瞠目して言葉を失う。




「変態め」




 セスは毒づいたものの、疑問は拭えなかった。


 なぜカザルフィスは、魔剣になったのか。セスには魔法など分からないが、もしヘゼルスタによって掛けられた魔法だというのなら、最も優秀な魔法使いだった彼が防げなかったはずはない。




 フレニアの気を引く為に、わざと魔剣になったとでもいうのだろうか。それなら100年もの間、なんて不毛なことをしているのだ。




『ち、ガウ。ワレノノゾミハ』


「………………なんだ?」




 ふいに嗄れた老人のような声へと変わったと思ったら、ヘゼルスタの持つ魔剣から、黒い霧のようなものが立ち上る。




『ワレラノミノ、セカイヲ……………』


「何を言ってるの?」




 フレニアの問いに、男は応えない。




『フレニ、ア』




 無表情のまま脈絡なく名を口にするが、セスには酷く悲しく聴こえてしまった。




 狂ってるのと同じか。魔物を取り込んだカザルフィスは、人格が崩壊しているのだろう。全ての言葉は嘘ではないように思えた。


 そう、彼女の名を呼んだ気持ちも…………




「決着をつけたい」




 腕にしがみつく震える指を感じながら、セスは男を見据えた。




「俺は貴様のように気長に遊んでいる時間はない。いい加減終わりにしたい」


「逃げないで。私は、おまえを解き放ちたいだけ」




 フレニアの言葉に、男が北の方角を剣で指し示した。そして、すぐに姿が見えなくなった。




「目眩ましか?」


「いいの」




 追いかけようとするセスをフレニアが止める。




「すぐに会えるから」




 息をついて緊張を解いて崩れ落ちそうな彼女を、踏みとどまったセスが慌てて支えた。




「わかった。とにかく君には休息が必要だ」




 身体は完全に人間ではなくても、精神的な疲れは表れる。


 フレニアの肩を抱いていたら、辺りを武装した兵士達に包囲されているのに、ようやく気付いた。




「あなた達を調べさせてもらう。すまないが来てもらおうか」






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