第16話嫉妬する魔剣3
あいつ、私を置いていった。
元カノと楽しそうに話してたのは別にどうでもいいわ。
だけど、シェリルが買いたいって言ったら、少なくとも仇を討つまでは渡せないって答えたのよ。それって、あの男を倒せば私は用済みだからお払い箱ってこと?
何それ!私があなたを選んであげた恩を忘れたの?
私は、セスとの魔力の相性だけで彼を選んだわけじゃない。彼の過去を覗き見て、共に同じ目的を持って戦える使い手として選んだ。
生半可な気持ちで選んだわけじゃない。一度選んだ相手を、私から見限ることはない。私は……………私は、セスが目的を果たし息絶える瞬間まで彼の剣として共にいようと思ったのに。
それをセスは、私をどこにでもある物のように扱うというの?昔の私の何人かの持ち主が、直ぐに私を売り払ったように。
そもそも使い手が主だと思っているなら大間違いだわ。選んであげた私が『使い手の主』だと理解していないようね。
あの盗賊の時に反省したみたいだったから理解したものだとばかり思っていたのに、まだまだ思い知るべきだわ。
それに…………今、あの二人どうしてる?
あの会話の流れからして、セスはシェリルの部屋にお邪魔したのかしら?女の子の部屋に誘われて、ほいほいと付いていったんじゃないでしょうね?
復縁しますとか勘弁して欲しいわ。
セスには幸せになってもらいたいとは、彼の主として思っている。でも部屋に私を残してイチャイチャするなんて、使い手として職務怠慢だわ。
まずは私を一番に大切にするべきでしょう。
そうよ、こんなにもムカつくのは女の為にフレニム私を手放したからよ。私を蔑ろにしたからだわ。
この魔剣フレニムを怒らせるとは、思い知るがいい!
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セスが部屋に帰って来たのは、夜も更けた頃だった。
「シェリルの奴、幸せ自慢かよ。聞く方の身になれっての」
宿から遠くない、こじんまりとしたカクテルバーに行った二人だったが、シェリルが主に話して、セスは聞き手に回っていた。
相変わらずザルのようにお酒を呑んで気分良く話す彼女に半ば呆れながらも、セスはそこで彼女の口から気になることを耳にした。
「……………うーん、いや、まさかな」
そんなことが有り得るだろうか。
だが、もしそうだと仮定するならば、今までのことも合点がいく気がする。それにセス自身、あの男の魔剣の銘を知ってから何か関連があると感じていたことだ。
部屋のドアノブを掴み、ゴクリと喉を鳴らす。
物凄く強い魔物と対峙した時のような緊張感に、恐る恐るドアを開けた。
「…………………ふ、フレニム?」
シンと静まり返った部屋の中、壁の魔石に触れて明かりを灯し、ベッドに置いた愛剣を窺う。
フレニムは、置いた時のままそこにあった。
魔力で紅く光ることもなく、落ち着いた様子の愛剣を確かめて、セスは安堵の溜め息をついた。
「か、考えすぎだったか」
苦笑いをして、セスはフレニムを手にした。
そして、鞘から半分程抜こうとした。
どうして今ここで刀身を見ようと思ったのか、何となくだったので彼にも説明がつかない。
後になって思ったのは、シェリルの話を聞いて、自分は多分試したかったのだ。
世に言う魔剣が、ただの無機物ではないと、この目で確かめたかったのだ。
抜いたと同時に禍々しいまでの紅の輝きに当てられ、強引に魔力を吸われたセスは自分に何が起きたのか僅かな時間把握できなかった。
「…………ひ、ぐっ!?」
左脇の下、器用に肌を避けてセスの服を貫通したフレニムが、そのまま壁に突き刺さり彼を貼り付けていた。
それは、まるでこれからピンを刺されて標本にされる昆虫のようで、セスの背中を冷や汗が伝った。
「ま、待て、何をする気だ?うあっ!」
グリグリとフレニムが刺さったまま刀身を振り、壁を更に抉る。その度に硬質で鋭い魔剣の刃が、微かに彼の肌に触れて息を呑んだ。
いたぶっているのは間違いない。
仇を前にした時とは違う恐怖に、セスは身震いした。
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