第44話造り変えられた魔物5
「矢では歯が立たない!次の大砲用意!」
この状況下で、いつの間にか兵士らしき人々が慌ただしく行き交っているのに、セスはようやく気付いた。
再び大砲の音が響き、魔物が悲鳴を上げて後退している。それなりにダメージを与えているらしい。
担架に運ばれていく人間は恐らく先ほど食われかけた者だろう。重傷だが生きていることにセスはホッとした。
「剣士殿、大丈夫ですか?」
二人の兵士がセスを助け起こして、出血している腕と額に止血を施してくれる。
「すぐ治るから平気だ。それよりあんた達は何だ?」
「我々は、このベガラナティエの自警団です。主に治安維持の為にあるのですが…………あなたは剣士…………いえ、魔剣士様ですね?」
「そうだ」
「やはりそうでしたか」
自分達が魔物をおびき寄せたかもしれない。セスは、助けを断りフレニムを握り直すと立ち上がった。
「魔剣士様」
「セスだ。一体を相手にする間、もう一体を足止めして欲しいのだが可能か?」
「ええ、それはできますが」
壁の外に追い出すには距離が有りすぎる。こちらがうだうだしている間に、街への被害が悪化してしまう。
そうしたら、フレニアが悲しむだろう。
「では奥の魔物を頼む!」
返事も待たずにセスは走り出した。
「フレニム、いけるか!?」
闇雲に動き回っているのか、魔物はセスには目もくれずに家屋を破壊しまくっている。進む魔物が脚を上げたところを通り抜けると、頭上に巨大な脚裏が見えた。くるりと向きを変えて魔物の背後に回ると、地に脚を着いた時を狙いフレニムで腱を斬った。
手応えがあり、青黒い血が宙を舞う。魔剣フレニムの前には、硬い皮膚は何の妨げにもならなかった。
バランスを崩して魔物がうつ伏せに倒れた。ズウウウンと地面が揺れるのを膝をついて堪えながら見上げると、もう一体が大砲を浴びせられて身体を左右に振りながら暴れている。
それを確認したのは一瞬で、倒れて手足をばたつかせる魔物の上に飛び乗ったセスは頭を目指して走った。
「フレニム」
この剣は本当は人間で、女性で、何もなければこんな戦いとは無縁だった。
そんな人に、人を殺させる。
赤く輝いたままの剣を目の端に映し、セスは唇を噛み締めると言葉にした。
「ごめんな」
自分も痛みを背負うからなんて、気安く言えるものじゃない。謝るしかできない。
人間だったなら急所にあたる首の付け根に狙いをすまして、セスはフレニムを大きく振りかぶると、力を込めてそこに剣を潜り込ませた。
『がぎゃっ』
一声苦しげに悲鳴を上げて、魔物はガクリと身体を弛緩させた。
次いで炎の風を放つて魔物から下りるや、瞬く間に巨体を炎が覆い灰塵へと浄化していく。
フレニムを介して虚しさが沸き上がり、それは直ぐに怒りへと転じた。
「っ、クソ」
人間を魔物にするなんて、残酷なことをする。
もう一体の方へと駆け出したセスに、気づいた兵士達が道を開けてくれた。すると、傷を負いながらも大砲を投げ飛ばして暴れている魔物が見えた。
「早く楽にしてやろうな」
こうやって魔物を倒し続けることに、フレニアが平気なはずがない。一言も辛さを訴えないからといって何も感じていないわけがない。感情の備わった彼女が100年間どんな想いで生きてきたか。まして人間だった者を斬るなんて。
終わりにしなければいけない。使い手が自分の代で、戦いを終わらせたい。
チキッとフレニムを構えると、自分の魔力が彼女のそれと混ぜられるのを感じた。
ゾクッとする高揚感を逃しつつ、振りかぶったフレニムから真空の刃を繰り出した。
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