第14話嫉妬する魔剣

「しかしあいつ、フレニムを知っていたようだったな」




 あれから数日が立った。


 魔物達を一掃したセスは、黒の魔剣士を捜して峠を越えて、徒歩で1日程の距離の町に滞在していた。


 セスは人の集まる酒場や食事処で情報収集をしてみたが、仇の消息を掴むことはできなかった。


 ここを数日の内に通ったと思われるし、剣士の身なりからして人目に付きやすいはずだというのに、誰も記憶にないという。


 あの雨の日も、まるでフッと湧いたように現れたことを思えば、何か目眩ましのようなことができるのかもしれない。




 宿の食堂で夕食を摂りながら、セスはテーブルの端に置いた愛剣に向かって独り話していた。そして周りの人々がそれを気味悪そうに見ていた。




「あの男、まるで俺を待っていたようだった。いや、話しからすると……………俺じゃなくフレニムか?」




 時間が経って頭が冷えて考えると不可解だった。




 何年も足取りが掴めなかった魔剣士が、セスがフレニムを手に入れてから1ヶ月も経たない内に現れたこと。


 相手がフレニムを知っていて興味を持っていたようだったこと。


 魔剣の名が『カザルファム』だということ。




「それになぜ魔物を出現させて、関わりの無さそうな村や人々を襲わすのだろう」




 思えば、そんな目立つことをすれば、もっと多くの者が魔剣士を知っているはずなのに殆ど噂にもならない。




 セスの村を魔物で襲わせた時、垣間見た魔剣士の表情が浮かぶ。




 あの時、あの男は愉悦の表情をしていた。




「…………誰でもいいってことか」




 魔剣士として旅を続けてセスは何度もああいう表情を目にしてきた。


 魔物がセスを見るのと変わらない。あれは人の苦痛を見て楽しんでいる表情だ。


 なぜあんな力をあの魔剣だけが持っているのかも気にはなるが、黒の魔剣士の名前さえ分からない状況では、答えは見つからない。




「俺はおまえのことも知りたいんだがなあ」




 注文したワイングラスを傾け、鞘から少しだけ覗かせたフレニムの刀身に赤い滴を数滴落としてやる。


 すると刀身に留まった滴が、スウッと内部に吸収されたように消えていく。


 ほんのりと酔ったかのように色付くフレニムを、セスは片肘を付いて見つめる。




 魔剣同士でも、敵対関係などがあったりするのだろうか。フレニムの怒りが男の方へあると思い込んでいたが、或いは魔剣にあるのだろうか。それも我を忘れるぐらいの憎しみを抱くなど………




「……………カザル…………」




「セス?セスなの?!」




 ぶつぶつと呟いて考え事をしていたセスは、大声で自分の名を呼ばれ、驚いて顔を上げた。




 こちらへと手を振りながら歩み寄る人物は、さらさらの金髪を靡かせた長身の美しい女性だった。




「シェリル、久し振りだな!」




 立ち上がったセスは、抱き付いてくる女性を受け止めると、その肩に触れた。




「2年ぶりかしら?」


「ああ、元気だったか?」


「勿論よ。あなたも相変わらずね」




 懐かしそうに目を細めたセスに笑いかけ、向かい側の席にシェリルが腰かける。




「それで…………今はイイ人はいるの?」


「いきなりだな」


「そりゃあ元・カ・ノ・として気になるからね」


「そうか?いや、君と別れてからはいないよ……………強いて言うなら、このフレニムが彼女みたいなもんだ」




 セスは、はにかみながら愛剣に触れた。


 その優しい眼差しを見たシェリルは、気遣わしげに彼に問うた。




「セス……………あなた大丈夫、なの?」




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