第6話機嫌を取る魔剣士2

「へえ…………フレニム、おまえ凄い剣なんだってな………へえ…………」




 セスは、最初こそ驚いたものの、具体的且つリアルな凄さが掴めないらしく、どこかぼーっとしていた。




「そうだ。だからこの魔剣の価値は1億リビは下らねえ。売れば一生遊んで暮らせるはずだ」


「へえ…………俺は確か一万リビで………」


「まあこれに選ばれた奴しか使えないが、そんなのはどうだっていい。魔剣だというだけでも高いからな、売れたらいい。だが一つ問題がある」


「へえ…………うん?」




 背筋と脚筋で何とかムクリと起き上がったセスは、少々上の空の様子でフレニムを見つめる。




「本当に魔剣かどうか売り手に見せる為には、デモンストレーションが必要だが、おまえこの剣が使えるんだろうな?」


「当たり前だ!使え…………」




 言葉尻を濁し、シュンと項垂れるセス。盗賊の頭は冷ややかに見下すと「使えないなら、殺すか」と呟いた。




「これじゃあフレニムが本物かどうかも判らずじまいだ。せめて魔剣だと分かれば価値は跳ね上がるのに。まあいい……」




 ダガーを手にして牢の鍵を開ける盗賊の頭に、セスは慌てて座ったまま壁に後退した。




「待てよ!使えるかどうか試してみるから、それを確認してから俺を殺しても遅くはないだろう?何だったら…………あんたたちの仲間になってもいい!」


「あはは、仲間ねえ」




 リラが笑って、気だるげに柵に寄り掛かった。




「あんた嫌いじゃないよ。服装はダサいけど、よく見たら顔はそこそこみたいだし、男らしい身体してる。ねえ、あたいの慰み者にでもなるかい?」


「な、なぐさみ!?」




 色んな事が頭をよぎりセスが赤くなると同時に、フレニムが僅かに魔力を紅く立ち上らせた。




「ん?今……………」




 リラが手元を見下ろした時にはフレニムは既に魔力を消した後だったが、セスは盗賊たちと会話している間にも、愛剣をじいっと観察していたので気付いた。




「フレニム、すまなかった」




 自由が利かないセスは、頭を深く下げた。




「俺は、おまえがいるから怖いものなんてなくて、だからこそ、おまえに頼りっぱなしだったな。おまえは、自分の力を過信して傲慢になっていた俺に腹を立てたんだろ。それに俺の短慮や安請け合いや、女の子に弱………ごほん!」




 わざとらしく咳払いをして「ごめんな、フレニム」ともう一度謝る。




「俺がおまえの大切さを見失っていたら、今みたいに怒って知らせてくれたらいい。俺もおまえがいることを当たり前みたいに思わないで、もっと大事にするから。だから、また俺と一緒にいてくれよ」




 セスが顔を上げて、フレニムを真摯に見つめた。




「頼む、俺はもうおまえ以外の剣は持たないと誓うから………もう一度俺を選んでくれ、マイ・レディー」




 リラが短く悲鳴を上げた。


 彼女が持っていたフレニムが、紅蓮の光を放ち小刻みに震えるような動きをみせた。




「フレニム、来い!」




 疑いもなくセスが呼ぶと、鞘から抜けた魔剣が、意志を持って彼の方へと飛んだ。柵の隙間を潜り抜けて、セスの胸に刃先が突き立つかと思ったら、曲線を描き背に回ったフレニムが手を縛る縄を切断した。




「ま、マイ・レディー、ありがとな」




 刺されるかと内心ヒヤリとしたことを隠し、セスは自分の両手のひらに横たわる愛剣をそっと握った。




「………こんな芸当………やはり伝説の魔剣『レディ・フレニム』だったか!」




 口をポカンと半開きにして立ち尽くす娘の横で、盗賊の頭が興奮して額に手を当てた。




「おい、そのまま大人しくそいつを渡せ!いくら剣を持っていても、牢からは出れな……」


「本当にそうかな?」




 タンッと脚を踏ん張ると共に、セスが両手でフレニムを振り下ろす。すると鉄でできた頑丈な太い柵が、木でも切ったようにザックリと気持ちいいぐらいに切れた。




「な………な……」




 親子が声も出せずに驚いていたら、騒ぎを聞き付けた手下がわらわらと集まりだした。




「お頭!どうしました…………あ!」


「お、おまえたち剣を取り上げろ!殺しても構わねえ!」




 柵を「よっ!」と越えたセスが、取り囲む盗賊たちの前で片手にフレニムを持ち変えた。




「大丈夫だ、綺麗なおまえを人間の血で汚したりしない。ただ少し灸を据えてやろうな」






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