トラップカード発動! 吊り橋効果!

 ゴーカートを楽しんだ僕達は、集合場所へと戻って来ていた。そして待つこと数分……


「あっ、もしかしてあそこに居るのって……」

「矢上と深瀬じゃないか?」


 僕らは矢上深瀬ペアが、こちらの集合場所へと向かって来ているのを発見した。

 

 僕達は「おーい」と呼びかける。すると2人も気がついたようで、手を振り返しながら近づいてきた。


 話せる距離まで来ると、僕より先に矢上は言う。


「おい相馬、ゴーカートはどうだった?」

「どうだったって……いや普通に楽しかったけど?」

「そうか。なら良かった」


 ……ん? 何でわざわざそんなこと聞くの?


「というかそっちも早かったな。そんなにお化け屋敷空いていたの?」

「いや、それがだな……」


 ……とそこまで言おうとしたところで。


「ちょ、矢上君! 黙っててよ!」


 矢上の後ろから深瀬の大声が飛んできた。


「あー……まぁそういうことだ」

「どういうことだよ」


 まぁ予想すると深瀬がビビって、途中でリタイアした……みたいな感じだろうか。まぁそんなのはどうだっていいんだけど……微塵も興味ないんだけど。


「それより華村ちゃん達はまだなの!?」


 すると深瀬が誤魔化すように話を変えてきた。そんなに僕にバレるのが嫌なの?


「んー、ジェットコースターは人気ですし、もう少し時間がかかるんじゃないっすかね」

「そっ、そっか。そうだよね」


 片桐の言葉に納得した深瀬はうんうんと頷いて、僕と矢上の周りをぐるぐるし始めた。


 ……え、何? 矢上がバラさないかをずっと見張ってんの?


 一方で僕と矢上は他愛もない話を続けていたのだが……どうも矢上は深瀬が気になったらしい。話を一旦中断し、深瀬に向かってこう言った。


「あの……深瀬さん。そんなに華村さんのことが気になるのなら、連絡でも取ったらどうかな?」

「あっ……はっはい、そうします……」


 深瀬はそう言われると素直に応じて、僕らの周りを離れていった。


 コイツ……矢上には弱いな。いいことを知ったかもしれない。


 それで深瀬はスマホを取り出したかと思えば、「えっ!」と一言驚きの声を上げるのだった。


「おい、どうした深瀬?」

「これを見てよ相馬っち!」


 僕は見せられたスマホの画面を見ると……


『修也が全てのジェットコースターに乗りたいと言い出したので、全部乗ってきます。なのですぐには集合出来ないです。本当にごめんなさい』


 とメッセージが書かれていた。下にはクマがお辞儀しているスタンプも送信されていた。


「おいこれって……クソっ! やられた! 修也に桃香を独り占めにされた!」

「いや相馬っち……修也君がずっと占領する訳じゃないんだからさ」


 もう深瀬の声は届くことなく、僕は考え込む。


 くっそーあのヤロー。やりやがったな。……しかしここで無理やりジェットコースターに並んでいる桃香を奪っても、ただのやべーやつになるしな……


 そう考えている間に会話は進む。


「でもここのジェットコースターも沢山あるから、時間がかかるのは間違いないっすね」


 片桐がそう言うと矢上が


「じゃあまたペアにでも分かれて行動するか? ここでずっと2人待つのも辛いだろうし」


 と言うのだった。そこで僕ははっと目覚め、矢上に聞くのだった。


「え、じゃあペアの分け方って……」

「さっき深瀬さんが言ってた男女同士だろ?」


 あっ……そうなるのね。


 ──


 ベンチに座って空を見上げる僕。その隣で深瀬が大きな声で叫ぶ。


「もー! 何で私と相馬っちが行動しなきゃいけないのー!」

「ホントだよ。僕は桃香と行動したいだけだってのに……」


 ……はい、こちら相馬深瀬ペア。さっきの片桐とは違って、つるんでる期間は長いから会話に困ったりはしなさそうだが……どうも相性がね。


「それで相馬っち。作戦はどうするの?」

「作戦ねぇ……って遊園地に来てまで会議するのか……あれが最後の会議じゃなかったのかよ」

「だってーこんなことになるなんて思わなかったもーん」


 まぁ……確かに僕だってこんなことになるとは思わなかった。みんなで行くにしても、もっと簡単に桃香と2人きりになれるものだと思っていたよ。こんなに難しいなんて聞いてないよ。


 深瀬は考え込む仕草をして「うーん」と唸り込む。すると急に「あっ!」と思いついたような声を出して言うのだった。


「そうだ! もう夜まで待てばいいんじゃない?」

「夜?」

「観覧車の中で夜景を見ながらの告白……最高じゃない?」

「ほう……」


 なるほど観覧車か。あそこは密室だし、告白にはいい場所かもしれない。というか正解な気がする。


 ただ……


「どうやって誘えばいいんだよ……!」

「普通に誘えばいいじゃんか!」

「みんなで乗ろうとか言われたらどうするのさ!」

「それは……もうみんなに協力してもらうしかないんじゃない?」

「えーみんなに言うの恥ずかしいー」

「急に小学生みたいなこと言わないで」


 まぁ冗談だが……矢上には言いたくねぇなぁ。でももう2人でいるところ結構見られてるし、もうバレてるのかもな……


「じゃあ作戦はこんな感じでいいかな。おっけー?」

「ああ、ありがとう。それじゃあ時間余ったしアトラクションでも行くか?」


 それで作戦会議も終わったことだし、深瀬をアトラクションにでも連れていこうと思ったのだが……


「いや、それより相馬っちに聞きたいことがあるんだけど……」


 深瀬は断るのだった。珍しいな。そんなことを言うなんて。


「何だよ?」

「ええっと……その……矢上君のことについて詳しく教えてくれない!?」

「……はぁ?」


 矢上のこと? それまたどうしてそんなのを……と思ったが、僕はとあるひとつの答えに辿り着くのだった。


 コイツ、矢上に惚れてる!


「ええっと! ほら、相馬っちって矢上君と仲良いじゃん! だから、その、知りたくて!」


 深瀬は必死に誤魔化そうとしている。……なんかこんな顔を見てるとつい意地悪したくなっちゃうね。


「んー、お化け屋敷で起こったことを言うのならいいよ」

「んんっ……! 相馬っちの意地悪!」


 はい。そうです、僕が意地悪お兄さんです。


「……でも相馬っちならいいや。教えてあげるよ」


 あれ、あっさり教えてくれるんだ。


 自分から聞いたことだし、僕は深瀬の話をちゃんと聞くことにした。


 ──


「私は相馬っちと華村ちゃんを2人にさせたいから、お化け屋敷を提案したのは分かったよね?」

「それはもちろん。その作戦は失敗したけどね」

「まぁそれは置いといてだね……実は私、ホラー得意じゃないんだよ。なのに咄嗟に私お化け屋敷って言っちゃったんだよね」

「うん」

「で、矢上君と行くことになったんだけど……めちゃくちゃ怖かったんだよね」

「うん」

「それで私、お化け屋敷の中で腰抜かしちゃってさ……」

「うっ……うん」


 駄目だ。ここで笑ったら殺される……!


「そこで矢上君が私を……私をお姫様抱っこして!! したんだよ!!! したの!!!」

「うん、分かった分かった」


 そんな繰り返さなくても聞こえてるって。


「その時の矢上君は王子様に見えて……それでずっと心臓ドキドキして……こんな気持ちは初めてで……ねぇ相馬っち!! これって恋なのかな!?」


 ……それって、お前が前言ってた吊り橋効果ってやつじゃね?


 とは、僕は言わず。


「きっと恋だね!」


 と言った。なぜなら面白そうだから。ビコーズ。オモシロソウダカラ。


「だよね!! それから矢上君のことが気になってさ、もっと知りたくて……それで矢上君のことを相馬っちに聞こうと……」

「なるほどなるほど、それならいくらでも教えてやるよ!」

「わー! ありがとう相馬っちー!」


 それから僕は深瀬に、矢上の生年月日、趣味、好きなタイプ、お気に入りのえちえちなビデオなど色々と教えてやるのだった。


 ……ごめんね矢上。恨まないでね。

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