王子の目覚め
次に僕が目を覚ました場所は、真っ白いベッドの上だった。どうも長いこと眠っていたらしく、そのベッドには僕の形が残っている。
しかし、このベッド……僕の知らないベッドである。家のベッドはこんなにデカくないし、こんなにふかふかではない。もっとコンクリートみたいにカチカチなのだ。
つまりここは自分の家ではない。
寝起きであまり頭が回らない状態の僕だが、この場所がどこかを調べるために、周りを見渡してみることにした。
白色のカーテン。小さなモニター。そしてブルーの椅子に……
「お、やっとお目覚めだ」
矢上が漫画を片手に座っていた。その椅子の空いているスペースには漫画が沢山重ねられている。
いまいち状況が掴めない僕は、矢上に詳しい話を聞いてみることにした。
「おい、矢上……ここは?」
「見りゃ分かるだろ。病院だ」
「病院……?」
何で病院にいるんだ僕は。記憶がどうもあやふやである。
ええっと確か僕は……華村を助けに行ってそれで……それで。
「その後どうなったんだっけ」
「ん? どうした?」
「いや、何で僕ここにいるんだろって」
すると矢上は漫画本を置いて話し出した。
「ああ……俺も聞いただけだから詳しくは分かんないんだけど。相馬、お前女王の母親にぶん殴られたらしいぞ」
「なるほど?」
「なるほどって……それで思い出したのか?」
言ってくれたおかげで少し思い出せた。そう。確か華村の家に行って……それで僕が華村母を散々煽って……顔面を殴られたんだ。本気の力で。
それで僕は意識を失って、ここに運ばれたって訳なのか。超だせぇな僕……
「……ああ。大体は思い出せたんだけど」
「けど?」
「何でお前はここにいるんだよ」
「何だよ。俺がいたら悪いのか?」
いや悪くないけどさ。何でいるのか不思議じゃんか。
「そうじゃないけどさ。どうしてわざわざ……」
「だって相馬が目が覚めた時、誰もいなかったら寂しいだろ?」
「いや別に……」
「そこは嘘でも同意する所だぜ?」
矢上はヘラヘラっと笑って、僕の肩に手を置く。その手は随分冷えていた。
「まぁ、冗談は置いといてだな。新聞部のメガネちゃんから連絡があったんだ。『君、相馬っちの友達だよね! 相馬っちが大変なことになったから病院に来て!』ってな」
「へぇ……」
新聞部のメガネ……深瀬だよな。深瀬が矢上を呼んでくれたのか。
「でも俺文化祭準備で忙しくて。その連絡見たのは、もう夜の10時くらいだったんだ」
「ああ」
「さすがにそんな時間には行けないから、こうやって次の日にお見舞いに来てやったって訳だ」
「そうだったのか……ん?」
なんか今とんでもないことを言った気がするぞ。次の日?
「おい、矢上! 今日って何曜日だ! というか僕はどのくらい眠っていたんだ!?」
僕がそう言うと、矢上はスマホを取り出して確認をした。
「今日は木曜。今は午後5時半。だから丸1日くらい寝てたんじゃないか?」
「なっ……!」
華村を助けに行ったのが水曜日。そして文化祭があるのが木曜……! つまり今日である。
「おい矢上! 今日文化祭じゃないか! 文化祭はどうしたんだ!」
「ああ。サボった」
「はぁ!?」
「当たり前だろ。お前がこんな状態で楽しめる訳あるか」
コイツ……コイツほんま。
「馬鹿っ!!」
「え?」
「馬鹿か! お前陽キャなんだから、僕のことなんかほっといて文化祭楽しんどけよ! どうしてそんな勿体ないことをするんだ!!」
ついキレてしまった。本来ここは「ありがとう」と言うのが正解だと思うんだが、そんなおこがましいこと、僕が言えるわけなかった。
「……相馬。あのな、俺は文化祭なんかよりお前の方が何倍も大事からこっちに来たんだよ」
「でも……」
「それに。その選択をしたのは俺だけじゃない。女王、片桐、メガネちゃんもさっきまでここにいたから、きっとあいつらもサボってるぞ」
「えっ、そんな!」
それが本当なら僕は……皆にとんでもない迷惑を掛けたんじゃないだろうか。
僕は。皆に何て謝ればいいんだよ……
「……」
「相馬。お前本当に皆から好かれてるんだよ。普通どうでもいい奴のお見舞いなんか行かないぜ?」
「……」
「はぁ。参ったな」
何も言わない僕に困ったのか、矢上は立ち上がって漫画本を片付け始めた。
僕はその本を指さして言う。
「……それ」
「ん?」
「それずっと読んでたのか?」
「ああ。暇だったし。相馬も読むか? 今超人気の漫画の『キャベツの刃』」
「聞いたことねぇ……」
「読んでみ、おもろいから」
すると矢上は漫画を紙袋に入れて、僕の枕元に置くのだった。
そして鞄を持って矢上は言う。
「じゃあ俺はもう帰るから。それ暇な時読めよ?」
「ああ……ありがとう」
「それと。女子達が来ても俺と同じ態度を取るなよ。失礼だからな」
「……分かってるよ」
「じゃあまたな。早く元気になれよ」
そう言って矢上は病室から出て行った。
──
しばらく僕は1人きりだった。この病室には4つベッドがあるというのに、他の患者は誰もいなかった。逆に不気味で怖い。
テレビを見ようにも、カードかなんかがないと使えないだろうし……
それにスマホも何故か手元にないし……
あ、そういえばメガネもない。メガネがないのは本当に困る。3万円したもん。
とにかく……オラの病室何にもねぇ!
……と〇幾三みたいなことを呟いていると。
コンコンとノックの音が響いて来た。
「どうぞ」
反射的に返事をした。でも「どうぞ」ってなんか偉そうだし「お入りくださいませぇ」って言うべきだったかな。
まぁもう言ってしまったし。僕が扉に目を向けていると、勢いよく扉が開いて……
「そっ……相馬君!」
華村が病室に入って来た。そして駆け足で僕の元へ飛びついて抱きしめてきた。
「相馬君! 大丈夫でしたか! もう私心配で心配で……!」
「わ、ちょっと華村!? 落ち着いて! 僕もう元気だから!」
「本当ですか? なら……良かったです。……ううっ」
華村は抱きしめる力を緩めるどころか、更に強めて顔をうずくめるのだった。
「ああ、泣かないで、泣かないで。とりあえず落ち着いて……ん? あ、あれ華村」
「ぐずっ……はい何でしょうか……」
「えっ、泣けてるやん!!!!」
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