愛に来たよ
トラックに揺られること数十分。ギャーギャー騒いでいた女子2人もこの暗闇に慣れていったようで、大人しく座っていた。
しかしここはトラックの中。乗り心地はお世辞にも良いとは言えない。当然跳ねたり急に止まったりもするので、その度に「きゃー!」と声を上げるのには変わりなかった。
そんな2人に対して修也はと言うと……
「……すぅ」
「え、寝てない? この人」
ガタガタ揺れるトラックで眠っていた。どんだけ肝っ玉座ってんだよコイツは。
……誰かヤンキーはどこでも寝られるって論文を発表してくれねぇかな。絶対正しいと思うから。
と、僕がそんなことを思っているとトラックがプシューと止まった。……しばらく待ってみたが、動く気配はない。
これまでにトラックは何度も止まったことはあったが、これ程長い時間止まることは1度もなかった。
ということはおそらく……到着したのだろう。僕は片桐に声を掛けてみた。
「片桐、到着したのかを桜井さんに聞いてみてくれないか?」
「分かったっす」
片桐はスマホを取り出して、電話をかけた。するとすぐにスマホから桜井さんの声が聞こえてきた。
片桐がスピーカー状態にして、みんなに話が聞こえるようにしてくれたらしい。
「おう片桐か。ちょうど俺もかけようと思っていた所だったぞ」
「おお、流石桜井さん! やっぱりボクたちは繋がっていますね……!」
「ん? ああ、そうみたいだな」
桜井さんは適当に同意した。あまり意味が通じてないらしい。まぁ桜井さんってなんか天然っぽい感じだし、ハッキリ言わないと通じないのかもな。
「それよりみんな。話があるから聞いてくれ。無事ゲート内には侵入できたんだけど……トラックを停められる場所は限られているらしい。だから目的の家からは離れてしまったんだ」
「はぁ。なるほどっす」
「それに長時間停車してると不信に思われてしまう可能性だってあるんだ。だからすぐに帰って来てくれ。分かったな?」
確かに桜井さんの言う通り、長い間この辺りにいるのは得策ではないだろう。ここはゲート内という閉鎖的な空間だ。見知らぬ人が居たらすぐに気付かれるだろうからな。
だからパッと華村の家に行って、パッと説得して、パッと戻って来る……必要がある。
ちょっと想像してみたが、かなりキツそうなんだけど……でも華村を助けるためだし、やるしかないよな。
僕は片桐の代わりに返事をした。
「了解です!」
「よし、それじゃあ扉を開けたらすぐに向かってくれ。俺はここに残っておくからな」
そう言うと電話は切られ、扉の開く音が聞こえてきたと思ったら、僕らは眩しい光に……包まれて……いった……
「うわぁああ!!!」
「ぎゃー!!!」
「眩しっ!!」
「ア゛ア゛溶けるぅうう!!!」
────
ようやく外の明るさに慣れてきた僕らは荷台から降り、修也を先頭にして、道なりに進んで行くのだった。
「おおーこの道も懐かしいなぁ!」
「修也……こっちで合っているのか? というか隠れながら行かなくて大丈夫なのか?」
すると修也は「ばーか」と言いつつ、背中を小突くのだった。
「隠れた方が余計目立つだろ。堂々としてりゃいいんだよ」
「でも……」
「なら友達の家に遊びに来たって体でいいだろ。そんな警戒すんなって」
「ああ……分かったよ」
確かに修也の言う通りなのかもしれない。けど警戒するのに越したことはないと思うんだけどな。
すると突然隣から大声が耳に突き刺さってきた。
「えーっ! なんっすかアレは!」
「相馬っちアレお城だよ! シンデレラ城やよ!」
おい警戒しろって言っただろ。(言ってない)
やれやれと片桐深瀬の向いている方向に目をやると、ベージュ色で西洋風の高級ホテルみたいな家が目に入ってきた。
「うわすっげぇ……」
思わず僕も口をこぼした。3階……いや4階建てなのかアレは?
僕らがでっけぇ家に目を奪われていると、隣で修也がボソッと言った。
「ああ。あれがウチだ」
「え?」
「だからアレが姉ちゃんの家だって」
「へーそうなんだ」
本当は「うえぇー!?」 と驚きたい所だったが、それは何となくは予想していたので、そこまで驚くことはできなかった。……が、2人は
「うぇー!?」
「えぇー!?」
やっぱり驚いていた。
「華村ちゃんここまで豪華な家だとは思ってなかったよ……これはスクープ!」
深瀬がカメラを取り出そうとしたので、僕はすかさずそれを取り上げる。
「あぁー! 高いんだよそれ!」
「そんな暇はないんだよ! 早く行くぞ!」
「ちぇー。分かったよ」
カメラを返すと僕は歩くスピードを上げて、その家に向かって行くのだった。
────
家の入口まで到着。柵の向こうには庭が広がっていた。オマケに番犬みたいなのもいる。本来はそこを突っ切って進まないと玄関には辿り着かないのだが……裏技を使えばどうってことはないのだ。
その裏技とは……裏口を使うことなのだ。裏だけに。
修也に教えてもらった細い道を辿って行くと、簡単に家の裏側に着くことができた。後は侵入するだけだ。
鍵は黒川さんがきっと開けていてくれているはずだから……開けるだけでいいんだ。僕は豪華な扉のノブにそーっと手を掛けて、小声でみんなに呼びかける。
「開けるぞ、いいか?」
みんなはこくりと頷いた。さっきまでのお遊びムードとは打って変わって、みんな真剣な表情である。
「……行こう」
僕は扉を引っ張って中に入って行った。
────
……そーっと扉を閉めて、全員入ったのを確認する。とりあえずここから華村の所に向かわなくては。
小声で修也に尋ねる。
「桃香の部屋ってどこなんだ?」
「多分3階。人に見つからないよう気をつけろよ」
「ああ」
そんなことは分かっている。華村母を説得するのが目的だが、別の人に見つかってしまったら騒ぎになってしまうので、計画が台無しになってしまう。
だから気をつけて進まないといけないのだ。
階段を見つけたので、僕を先頭に1段ずつ音を立てないようにゆっくりと登る。1段……1段……また1段……
「いてっ」
ふと何かにぶつかってしまった。足元に向けていた目を正面に向けてみると。
「……お前ら。来る時はちゃんと俺に伝え……」
「うわぁっ!!!」
目の前には黒川がいた。顔見知りの人で助かったなんて思う余裕は今の僕にはなかった。
急に正面に人が現れたという事実しか認識出来ず、僕は焦ってバランスを崩してしまい、ついには階段から落下してしまった。
「ぎゃーす!!」
「うおっ痛って!!」
「ひゃー!!!」
もちろん僕が先頭なので、後ろの3人も巻き添えになってしまう。将棋倒しというやつだろうか。
バタバタと大きな音を立てながら全員が落下していき……やっと止まったと思ったら「何の音だ!!」と別の人の声が向こうの方から聞こえてきた。
……痛みに耐えている時間はどうやら無さそうだ。
被害が1番少ないであろう僕が最初に立ち上がり、心の中でみんなに謝りながら、また階段をかけ上るのだった。
上っている途中に黒川さんに言う。
「黒川さん! 足止めお願いします!!」
「あ、ああ。分かった」
僕は振り返らずに、一心不乱に階段を上って、3階まで辿り着いた。
そして長い長いホテルみたいな廊下をダッシュして……『桃香の部屋』と書かれたプレートが掛けられている扉を発見した。
僕は反射的にその扉を開くのだった。
「助けに来たぞっ!! 華村桃香!!」
そう叫んで部屋を見回すと、大きなベッドに膨らんでいる部分が1つあった。それを見てみるとモゾモゾと動き出して……
「えっ……? 嘘っ……相馬君……?」
ピンクのパジャマを着た華村がひょっこりと出て来たのだった。
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