なんだかんだショートケーキが1番うまいよな
──そして放課後。僕らは街にあるケーキバイキングのお店へとやって来た。オシャレな洋風の外観をしており、僕1人だったら絶対に来ないような場所だ。
「さぁ、着いたぞ。ここがケーキバイキングの店、ブッフェダイニングフルバッ……フルヴァ……フヌッ」
「言えてませんよ」
「すいません、ここカットでお願いします」
「あなた芸能人ですか」
……どうでもいいけどさ、こういう店の名前ってめっちゃ言いにくくね? シャレた名前よりもっと言いやすい名前にするべきだと思う。『スイーツ二郎』みたいな名前にしろ。
と、そんなことを思っていると、華村が話しかけてきた。
「というか相馬君。ここまで来て言うのもあれなんですけど……今の私がケーキ見て泣くわけないじゃないですか。泣いたのはもう何年も前のことなんですよ?」
「まぁいいじゃないか。泣けたらラッキーぐらいの気持ちでいればいいさ」
「どんな気持ちなんですかそれ」
そんな会話をしつつ、オシャレなお店へと入っていったのだった。
───
入って僕らは大きめのテーブル席へと案内された。そして薄いプレートを渡される。これでケーキを取れということだろう。
「よし、食いまくるぞ!元取ってやろうな華村!」
「……相馬君。焼肉の食べ放題に来てるんじゃないんですよ? もっと上品にするべきです」
「あ、はい。すんません」
僕は華村に注意されてしゅんとなってしまう……だが僕は知っているのだ。僕なんかより、華村の方がこのケーキバイキングを何倍も楽しみにしていることをね。
だって今の華村の感情オーラは眩しいくらいに光り輝いているのだから……どんだけ楽しみなんだよ。
「……それじゃあ相馬君、ケーキを取りに行きましょうか」
「フフッ、かしこまりましたわ」
「誰が口調を上品にしろって言いましたか」
「ンッ無礼ですわ! オホホホホッ!」
「しばきますよ」
僕は華村に弱パンチされながら、ケーキが並んでいる場所の方へと移動する。そこには、ショートケーキやチョコケーキ、チーズケーキなどの美味しそうなケーキがびっしりと並べられていた。
ひとつひとつは小さいサイズだが、これは様々な種類のケーキを食べてもらうことを考慮しているのだろう。さすがレディーに優しい店だね。
そして僕は近くにあった、タルトやミルフィーユをプレートに載せた。うん、実に美味しそうだ。
ところで華村は何を載せているのだろうか。僕は華村の方に近づいてみることにした。
「おーい、華村は何を取った……の……?」
「あ、相馬君。どうですかこれ、美味しそうじゃないですか?」
華村のプレートの上には、小さくて真っ白なショートケーキがぎっしりと載っていた。全部ショートケーキだ。なんで?
「は、華村? 他にも色々な種類あるぞ?」
「そんなこと分かってますー。でも私はこれが食べたいんです」
「そ、そうか……」
華村がショートケーキマニアだったとは知らなかったぜ……
そして僕らはケーキを落っことさないように、ゆっくりと席に戻った。
「よし、それじゃあ食べるか! いただきまーす」
「……いただきます」
僕はミルフィーユをフォークで掬って口に入れる。ぱくー。
「うん、うまい」
普通に甘くて美味しかった。僕はグルメリポーターでもなんでもないため、それ以上の感想は特に出てこない。
ふと気になったので、チラッと華村の方を向いてみた。
「んっ……おいひぃ……!」
……華村はメシの顔をしてた。こんなニコニコしてる華村初めて見たよ。スイーツの力ってすげぇなぁ。
僕は気づかれないように、華村をじっと観察してみることにした。
華村は素早くパクパクとショートケーキを口に頬張る。その姿は何だか愛らしい小動物みたいに見えた。
……この映像撮ったら、一部のマニアから高く売れるんじゃねぇかな……
「あっ……ん、んん。どうしましたか相馬君」
華村は僕が見ていることに気づいたようで、口元を隠しながらそう言った。
「いやぁ、幸せそうだなって」
「それは……否定はしませんけど」
「で、どう? 泣けそう?」
「子役に泣きを要求する監督か何かですか?」
華村の反応を見る限り、どうやら泣けそうな感じではないらしい。
「そっかー。やっぱり泣けないよなー」
そう言って僕はまたミルフィーユを口に入れる。ぱく。
すると華村はショートケーキを食べる手を止めて、僕に話しかけてきた。
「あの……相馬君。……もし私が泣いたり笑ったりできるようになっても……仲良くしてくれますか?」
「え?当たり前じゃん。何を言ってるのさ」
全く急に何を言い出すんだ。ぱく。うん甘い。
「本当ですか?」
「うん、ホントさ。ぱく。僕が華村の表情を取り戻すのを手伝っている理由は、暇だからってのもあるけどさ、楽しいからってのもあるんだ。ぱく」
「楽しい?」
「うん、まだ知り合ったばっかりでよく華村のこと何も分かんないけどさ、一緒にいて楽しいんだよ。ぱく」
……タルトも甘くておいしいなぁ。ぱく。
「一緒にいて……楽しい……?」
「うん、だから表情が戻ってこようが僕と仲良くしてほしいし……それにもう僕ら友達だろ?」
「と、友達……?」
「うん、だからさ……ちょっとタルト取りに行っていい?」
「……勝手に行けばいいじゃないですか」
──
僕らは腹いっぱいケーキを食べて店を後にした。
「相馬君、今日はありがとうございました。美味しいケーキ食べれて私楽しかったです」
「おお、こっちこそありがとな。華村がいなかったら僕こんなとこ入れてないしさ」
僕らは並んで駅まで歩く。この小さな歩幅にも慣れたものだ。
「でもやっぱり泣くことはできませんでした」
「いいさ別に。また次の作戦を考えればいいさ」
「……相馬君はいつだって前向きですね。少し羨ましいです」
「別に前向きって訳じゃないんだけどな」
自分のことを前向きだと思ったことは1度もないのだがな。
「あと……私のこと……と、友達って言ってくれたの。すごく嬉しかったです」
「そうなのか?」
「はい。私のことを友達って思ってくれてることが、嬉しかったのです」
「一緒に映画見て、一緒に飯食ったんだからもう友達でしょ」
「……ありがとうございます」
「なんでお礼?」
そうこうしている内に駅へと着いてしまった。
「……着いたな。じゃあここで。またね、華村」
「はい、さようなら相馬君」
華村は僕に背を向けて、改札口へと向かっていった。
……その時、今までずっと光っていた華村の感情オーラが一瞬ブルーに変わったように見えた気がした。
──
次の日僕が学校に来ると、矢上が僕に話しかけてきた。
「おい、相馬。さっき隣のクラスからお前を探してるって奴が来たぞ」
「僕を? 変な奴もいるんだな」
「ああ、確かに変な奴だったな。だって『相馬と氷の女王との関係について聞きたい』だなんて言ってたからな。あははっ!」
「……」
「……相馬?」
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