華村団会議!

 そして深瀬は僕から手を離し、一呼吸してから言った。


「……よし! 私も仲間になったことですし、このグループ名でも決めましょうよ!」

「はぁ? グループ名? そんなのいる?」

「いるよー! だってあった方がカッコイイじゃん!」


 絶対いらねぇと思うんだがな……


 そんな僕とは反対に、乗り気な華村は「どのようなグループ名にするんですか?」と深瀬に尋ねる。


 すると深瀬は考える仕草をして「そうだなー『華村ちゃんお守り隊』とか!」と答えると、華村は「却下です」とキッパリ深瀬の案を折ったのだった。


「えーなんでよー?」


 深瀬は納得出来ないという不満な顔をしつつ、華村に言う。


「普通に嫌だからです」

「えー」


 そして深瀬は体ごと僕の方を向いてきた。おっと、この流れは……


「んーじゃあ相馬っち! 何かカッコイイの考えてよ!」


 やっぱり僕に来た。しかし何も思いつかないのでテキトーに答える。


「えぇ? ……じゃあ『華村団』で」


 僕がそう言うと、華村が素早くツッコんできた。


「いやどこの暴力団ですかそれは」


 ……どうやらツッコミ女王はお気に召さなかったらしい。


 だが深瀬はツボに入ったらしく、ゲラゲラと手を叩いて笑っている。


「はははっ!! は、華村団……!! つ、強そう!! それに決定ぇー!」

「いやいや待ってください。こんな恥ずかしいグループ名はありませんよ」

「えー? じゃあお守り隊の方にする?」

「そ、それは……」

「じゃあ『華村団』に決定ー!」

「……はぁ」


 華村は表情1つ変えなかったが、もちろんオーラはブルーに染まったのだった。


 ……ごめんよ華村。恨むなら僕のセンスの無さを恨んでくれ。


 ──


「それでは第1回、華村団会議を開始します!」

「何でお前が仕切ってんだよ」

「いいじゃないですか! だったら相馬っちが司会やる?」

「それは……いいや」


 面倒だし任せよ……というか会議ってなんだよ。勝手に始めんなよ。


「……それで2人はケーキ屋以外にどこか行ったりしたんですか!」

「それ言う必要あんの?」

「ありますよ! 今後の作戦を考えるのに必要な情報ですよ!」


 はぁーっとため息をついて僕は「それ以外はまだ映画しか行ってないよ」と答えた。ため息の意味は各々勝手に考えてくれ。


「へぇー。まだ映画デートとケーキデートしかしてないんですか」

「デートじゃないです」


 僕が口を開く前に華村が言った。やはり華村は僕と遊んだりすることをデートとは認めたくないらしい。(実際デートではないのだから仕方ないことなのだが)


 分かってはいるが、少し凹む。


「あはは! そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃーん! 相馬っちが悲しむよ?」

「? 何故悲しむのですか?」

「だってぇー……」


 深瀬は僕をチラ見してから言う。


「だってこんな冴えないピンクメガネ陰キャ男子が、失われた感情を取り戻すという建前の理由はあるものの、美少女と一緒にお出かけできるんだからさ! デートと勝手に思い込みたくもなるじゃん!」

「おい深瀬。僕の心情を代弁してくれてるつもりだろうが、間違っているぞ」

「え、間違ってるの?」


 そんなに間違ってはないが、なんか無性に腹が立ったので嘘をついた。


「……それより会議はどうした。作戦を立てるんじゃないのか?」

「そうだねーじゃあはい、案がある人!」


 深瀬は元気な小学校教師のように手を挙げて僕らの方を見る。


 ……あー。そういえば僕こんな教師嫌いだったなぁ……。みんなのこと分かってるフリして、実際は何も全く分かってない奴……


 ……何の話?


 ……華村が手を挙げる素振りを見せないので、仕方なく僕が手を挙げた。


「はい、相馬っち!」

「いやだから今回も普通に……感情が出せる、楽しめるような所行けばいいんじゃないっすかね。例えばゲーセンとか」

「ははっ! 楽しい所=ゲーセンというオタクみたいな発想サイコーだね!」

「ねぇ喧嘩売ってんの?」

「褒めてるのに?」


 もし褒めてるとしても、褒め方が壊滅的に下手くそ過ぎる。褒め方の本でも読め。


「まぁ、嘘だけど」

「だろうな」

「でも相馬っち、ゲーセンにいる華村ちゃんのことを想像してみてよ? ……どう?」


 僕は言われた通り想像してみた……


 チャラチャラした空間に立っている美少女の華村……ものの数秒で音ゲー待ちのオタク共が華村の周りを囲むのが容易に想像出来た。


「……駄目だな」

「ね?」


 と話していると、華村が話に入ってきた。


「あの……ちょっとすみません。『げーせん』って何ですか?」


 僕と深瀬は顔を見合わせる。


「……華村? それは本気で言って……」

「ちょっと相馬っち! こんな優等生の華村ちゃんがゲーセンなんて野蛮な場所知るわけないでしょ! 当然でしょ!」

「お前もさっき驚いた顔してたじゃん!!」

「驚いたフリだよ!」


 ……まぁ深瀬はほっといてだな……華村に詳しく話を聞いてみることにした。


「ええっと華村。ゲーセンってのはゲームセンターの略でさ、色々なゲームが楽しめる場所なんだ。クレーンゲームとか……はさすがに分かるよな?」


 華村は首を傾げたまま言う。


「クレーンゲーム? もしかしてあの起重機を扱うことができるのですか? でもそれは駄目ですよ。クレーンを扱うにはクレーン・デリック運転士免許が必要なんですから」

「え、ちょ、華村……?」


 多分……いや絶対僕らとは全く違うクレーンゲームを想像してるよこの人……


「まさかここまでお嬢様だったなんて……じゃあ華村ちゃん、ボーリングって知ってる?」

「もちろん知ってますよ、円状の穴掘削することですよね。地質調査とかの為に使われる……」

「あ……あー! そうそう! さすが華村ちゃんかしこいー!」


 逃げるな深瀬。ちゃんと説明してやれ。


 ……しかし華村がゲーセンもクレーンゲームもボウリングも知らないとは驚いた……まぁ進んで遊びに行ったりするような人じゃないから遊び場を知らないのも当然なのか……?


 ……にしても知らなすぎではないか? 確かイヴォンにもゲーセンあったはずだし……ボーリング場なんて街を歩いてたらどっか見つかるはずだし……


 それにさっき深瀬が言っていた『お嬢様』という単語……何かが引っかかる……


 ……と肩に強い衝撃を感じて、ハッと我に返る。どうやら深瀬が僕の肩を叩いたらしい。


「……っち! ねぇ相馬っち!」

「……ん、どうした深瀬」

「どうしたじゃないよ、さっきから呼びかけても反応無いし! それに華村ちゃんはカラオケも競艇場もパチスロも知らないって言うし!」

「……競艇場もパチスロも知らんでええわ!!」


 何てモンを教えてんだコイツ。シバくぞ。


「でも競艇場で泣いてる人沢山見るよ? 上手くいけば華村ちゃんも……」

「そんな涙は一生流させさせねぇぞ!!」


 命がかかってるレースに負けたらそりゃ泣くだろうよ!! 言わせんな!


「……それで華村ちゃんがゲーセン行ってみたいって言い出してさー。もー相馬っちの責任だよ?」

「僕のせいなの?」


 僕は華村の話を聞いてみることにした。


「それで華村、ゲーセン行きたいの?」

「はい、クレーンを合法的に動かしてみたいです」

「なんか違うそれ」

「あ、あと……『ぷりくら』という物を使ってみたいです」

「プリクラね。プリクラは知ってるの?」

「はい、さっき深瀬さんに聞きました。狭い密室空間で写真撮影会を行う場所だと言ってました」

「……なんかいやらしい教え方だな」


 間違ってないけど……もっとこう教え方があるだろ……


「それで行ってみたいのですが……ダメ……ですか?」


 クールな表情しているとはいえ、こんなちっちゃくキュートな華村に接近されて頼まれたら……


「しょーがないなー!! この相馬君が連れて行ってあげるー!!」


 やっぱりなんでもしてあげたくなるわけで。


「やっぱ相馬っちって華村ちゃんに甘々だね!」

「うるせぇぞ! 別にお前は着いてこなくて良いんだからな!」

「もー行くってー!」


 ───


 ……あの時感じた違和感が、後に起こる事件を解くヒントとなっていたのだが、当然この時の僕は知る由もなかったのだ。

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