偉い人は言いました。「クレーンゲームは貯金箱だ」と。
さてさて、やって来ましたゲームセンター。
チカチカ点滅するメダルゲームマシーンや、ドンドンギュウィーンと響いてくる音ゲーの音楽で、頭がクラクラしそうになる。華村は大丈夫だろうか……
「……なぁ華村、こういう所は平気か?」
「別に平気ですよ。……まぁ騒がしい場所だとは思いますけど、あのクレーンを動かしているのですからこれは仕方ないことですよね」
「それは違う」
まだクレーンゲームのこと誤解してるよこの人……いい加減早く誤解を解かないと……
「んで、相馬っち! 何するの?」
「そうだな……テキトーに色々遊んでみようか」
「さんせーい!」
「それじゃあ早速……あっちの方に行こう」
僕はクレーンゲームが密集している場所を指差す。
「よし行こ行こ! ほら華村ちゃんも!」
「あ、はい」
僕を先頭に深瀬、華村と着いてきた。
──
突然華村は1つのクレーンゲームの台の前で立ち止まった。
「どうした華村?」
「そっ……相馬君! リラッスマがガラスケースに閉じ込められています! 早く助けてあげないと……」
「助けないとって……これ商品だよ?」
そのクレーンゲームの中には、女子中高生で人気のクマのキャラクター『リラッスマ』が数体並べられていた。
……そういえば前華村とLimeした時に、華村が使ってたスタンプがリラッスマだったな。もしかして好きなのかな。
「ねーねー相馬っちー。これ華村ちゃんに取ってあげたら?」
「え? まぁいいけど……華村これ欲しいのか?」
「こんな所に閉じ込めっぱなしは可哀想ですよ」
「ん、ああ……そうだな」
欲しいってことなんだろう。……多分。なら早速プレイしよう。
僕は財布から100円を取り出して、マシンに入れてみる。するとマシンから愉快なBGMが鳴り出して、ボタンが点滅しだした。
「よし……」
僕はふぅと息を吐きながら、1のボタンを長押しする……
「……」
「あー相馬っち行き過ぎ!! もっと短く……」
「うるせぇ!!!!」
深瀬にキレながら僕は2のボタンを押す……
「あー! そこはもっと奥に……」
「いいんだよ! ぬいぐるみは頭が重いから足を掴むのがコツで……」
僕が解説しているうちに、アームはゆっくりと下降して……
「は?」
アームはぬいぐるみを優しく触っただけで、持ち上げることなく上昇し、定位置へと戻っていった。
「……くっ」
「……ぷぷっ。相馬っち下手くそー」
「いや、アームが弱ぇんだよ!!」
僕は悪くない。アームが弱いのがいけないんだもん。ぷんぷん。
「じゃあ私がやりますよ!」
「おうおう見せてみろ」
深瀬はイエローの財布を取り出して、500円玉を投入した。
「なん……だと……?」
「1回で取ろうとすることがおバカなんですよ! お得な500円で6プレイを使うのが賢いんですよー!」
なるほど。それは確かに賢い作戦だが……
「しかし取れなきゃ意味が無いだろ!」
「そうだね! でもアレを使えば……」
「アレ?」
「ふっふっふ、相馬っちにはアレが見えないの?」
そう言って深瀬はぬいぐるみの下の方を指差す。
「なっ……! あれは……タグ!!」
「そうです。あのタグに引っ掛けることができれば、この勝負私の勝ちですよ!」
別に勝負していたわけじゃないのだが……タグ掛けは盲点だった。深瀬なら取れるかもしれない……!
「それじゃあ1プレイ目!」
深瀬はボタンをリズム良く押す。が、アームはタグに引っかかることなく上昇した。
「くそっ、もう一度!」
が、またも外れる。
「あっ、ふーん? そういうことね? わかったわかった」
それっぽいことを言うが、またも外れる。
「……」
外れ。
「……あーはいはい、次でいける」
外れ!
「最後ならいける」
深瀬はさっき以上に集中して、ボタンを押す。そしてアームの開く位置を計算して早めに止めた。
「いけっ!」
「おお、いける!」
アームは下降していき、爪がタグの中に入り込んだ!
「やった……あ?」
喜びもつかの間、やはりアームはパワーが無く、するりとタグから外れて上昇していった。
「……」
「……深瀬?」
「ぐぉおお!! 金返してよぉお!!」
「ちょ、叩くな揺らすな暴れるな!」
と僕らがわちゃわちゃしていると。
「私がやります」
と華村が高そうなピンク色の財布を取り出して言った。
「華村!? このクソ弱アームを見ただろう! やめといた方が……」
「リラッスマは私が救います」
駄目だ! 話を聞いてくれない!
……僕が頭を抱えると、ニヤニヤした顔の深瀬が僕の肩を叩いてきた。
「……まあまあ相馬っち。1回やらせてみようよ。へへ」
「お前……失敗した仲間が欲しいだけだろ」
絶対こいつソシャゲのガチャで爆死した時、引いてない奴に引かせて、当たった奴にネチネチ嫌味言う奴だろ。ぼく知ってるぞ。
「……で、華村。やり方は分かるか?」
「はい、先程の2人を見て何となく理解しました」
本当に大丈夫だろうか……
「ええと、まずお金を入れます」
そう言って華村はおもむろに謎のカードを取り出した。
「……華村? カードは使えないぞ?」
「そうですか。なら……」
そして華村は万札を取り出す。
「華村……? お札は入らないぞ……」
「そうなのですか。困りましたね」
「……じゃあこれを使ってよ」
僕は100円玉を取り出して、華村に渡した。
「え、いいのですか?」
「いいっていいって。やりなよ」
華村にあげる100円なんか痛くもない。あはは。
すると華村は「ありがとうございます」と僕にペコッとお辞儀をして、クレーンゲームの台の方を向いた。
「……さて、お手並み拝見といきましょうか」
その後ろで深瀬が腕を組んで言う。
「誰だお前」
「意外とビギナーズラックとかあるかもしれませんよ。期待です」
「まさかそんなこと……」
まさかね……まさかそんなことは……
「いきます」
華村は手の平で叩くように1のボタンを押し……
「……ん?」
「次は……えい」
また手の平で2のボタンをバチーンと叩いた。
「んー???」
アームはリラッスマとは全く違う場所へと下降していき、空を掴んだ。やっぱ超初心者じゃねぇか!
「あー。残念です」
「惜しいよ華村ちゃん! よしもう一度いこうか!」
「おいてめぇ、華村を沼に引きずるな」
深瀬が続けてさせようとしたので、僕は止めた。
「なんだよー。相馬っちのお金無くなるまでさせようとしたのにー」
「お前……性格悪いってよく言われるだろ」
「えへへ」
「褒めてねぇよ」
僕は深瀬にチョップを叩き込んでから、華村を見る。
華村はリラッスマをじっと眺めていたのだった。やっぱり欲しいのか……でもあのアームでは……
と悩んでいると。
「仕方ないなぁ、相馬っち。確実にワンプレイで取れる方法を教えてあげるよ」
「嘘をつくなって。騙されんぞ」
「いやいやホントだってー。相馬っちは離れて見とくだけでいいんだよ!」
「……じゃあ早く教えろよ」
「せっかちだなぁ。まぁいいや、作戦はね……」
──
少女2人はベストを着た男店員に声を掛ける。
「あの……すみません」
「おっ、どうしたんだいお嬢ちゃん方」
「あれずっとやってるんですけど……取れなくて困ってて……」
赤いメガネの少女はリラッスマの台を指差す。
「あー、あれかー。ちょっと待ってね」
そう言って男店員はポケットから鍵を取り出して、ガラスの窓を開ける。
そしてリラッスマぬいぐるみを手前へと移動させた。
……その瞬間、メガネの少女が可憐な少女へ肘をつついて合図を出した。そして可憐な少女は口を開く。
「わたし『くれーんげーむ』へたなんですー。だからもっととりやすくしてくれるとうれしいなー」
明らかな棒読みだ。だが男店員はとろけた顔をしたのだった。
「そ、そうなんだ! じゃあこうするね!」
男店員はリラッスマぬいぐるみを更に手前へと移動させて、体の半分以上が土台から出ているような状態へとなった。
「わー。ありがとうございますーうれしーなー」
「喜んでもらえて何よりです! また困ったら声を掛けて下さいね!」
そう言って男店員は上機嫌な顔でその場を去るのだった。
──
「ね?」
「美人ってずるいなあ」
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