相馬マン! 新しい仲間よ!

 僕がそう言うと、深瀬がそろりと屋上へと繋がる扉から出てきた。


「や、ヤダナー相馬君!!私はたまたま風に当たりに来ただけだよー!?」

「カメラ持ってか?」

「うっ……」


 僕はこいつが僕のことを尾行していたのを知っていた。だけど僕はあえて気づいていないフリをして、屋上へとこいつを連れてきたのだ。


 だって屋上は人目につかないし……色々と便利な場所だからな。ふへへへ。


「……ほ、ほら! こんなにいい天気ですから、風景の写真を撮りにも来たんですよ!!」


 そんなことを全く知らない深瀬は、大きな声を出しながら誤魔化し続ける。実に滑稽だ。


「ふーん。ならそのデジカメ見せてみろ。風景撮るカメラなら見せられるよな? まさか僕らを撮ってる訳ないもんなぁ?」

「ぐっ……ぐぅうう……!!」


 深瀬は声にならない声を出して、逃げ出そうとする……がそんなことはさせない。


「おい逃げんなよ。今逃げたら『裏新聞』のこと教師らにチクるぞ」

「……えっ」

「裏新聞の存在がバレたら、お前ら新聞部は廃部。そして部員は全員停学……いや、退学か?」

「そ、そんな……」

「お前1人のせいでこんなことになったら……他の部員はどう思うだろなぁ?」

「あ、ああ……」


 ……フッ決まった。必殺、先生に言ってやろ攻撃。


 やっぱり何歳になっても先生は強い切り札なのだ。せこいなんて言わせないぞ。


「やだ……ごめん……ごめんなさい!! ……もうしないから!!」

「……」


 そして深瀬の絶望する表情。ああ、最高だ。実にたまらない──


「……やり過ぎです、相馬君」


 ふと、華村が僕に話しかけてきた。


「え?」

「やり過ぎだと言っているんです。早く彼女に謝って下さい」


 まさか華村がそんなことを言うだなんて……僕は驚き戸惑ってしまった。


「ちょ、華村? 何を言っているんだ! コイツは僕らを盗撮して、あることないこと書こうとした悪人なんだぞ!」


 すると華村はゆっくり僕に近づいてきて……


「な、何?」

「えい」

「ングハッウ!!!」


 プロボクサーのこどく豪快なスイングで、僕のみぞおちを思いっきり殴ってきた。耐えきれず僕の体は地面に転がる。


「い、痛ぇええ……!! 何でだよぉおお……!!」

「彼女は確かに悪いことをしましたけど、こうやって反省してるじゃないですか。なら許してあげましょうよ」

「で、でもぉ!」


 僕が体を起こして反論しようとすると、華村は再び右手を振り上げてきて……


「いやぁあぁあ!!! やめてぇええ!!!」


 僕は咄嗟に体を守る体勢を取る──


「……はぁ。彼女もさっきそんな気持ちだったんですよ。分かりましたか相馬君?」

「えっ……」


 僕は涙目で後ろを見る。そこには今の僕と同じ目の色をした少女がそこにいた。


 ……そうか。僕は……彼女にこんな恐怖を味あわせていたのか。……何だか情けなくなってきたな。


 そして僕の瞳から涙が溢れ出す。


「……うっ」


 それと同時に深瀬も泣きじゃくり出すのであった。


「……っえーん!!」

「うわぁーん!!」



「いや何なんですかこの状況……」


 ──


 華村に連れられて、教室へと戻って来た。もちろん深瀬もついてきている。


「……相馬君。どうしてあんなことをしたんですか」

「いやぁ……あのぉ……僕はちょっとカッコつけたかっただけなんっすよ。それで調子に乗っちゃって……いい気分になっちゃって……」


 華村は僕を見て大きなため息をつく。


「はぁー。本当にしょーもない理由ですね。……ほら早く謝って下さい」

「ごめん」

「もっと気持ちを込めて」

「ごめんなさい」

「悪人が命乞いするみたいに」

「許してくれぇ! 金ならある!!どうか命だけはぁ!! ……おい華村。僕で遊んでるだろ」

「どうですか深瀬さん。これで許してもらえますか?」

「ねぇ無視しないで」


 華村は僕をガン無視して、深瀬へと話しかける。深瀬は時間が経ったからだろうか、昼休みの時のような明るい表情、オーラに戻っていた。


「うん、もちろんだよー! 元はと言えば勝手に記事にしようとした私が悪いからさ……ごめんね!」


 そう言って深瀬は僕らに頭を下げた。しっかりと謝れるみたいだし、根はいい子なのかもしれない。……たぶん。


「よかったですね相馬君。許してもらえたみたいですよ」

「お、おう……」


 だけどなんだろうこのモヤモヤ感は……


 深瀬は続けて言う。


「それで新聞部には私の方から、君たちのことは記事にしないように言っとくからさ……裏新聞のことはチクんないでね?」

「ああ、分かった」

「ふふっ約束だよー? 相馬っち!」

「そ、相馬っち?」


 そして深瀬は小指を突き出してくる。


「何だ?」

「指切りだよー。早く小指出して?」

「ああ……」

「指切りげんまん嘘ついたらSNSに顔写真と本名と住所ばーらす!」

「えぐいえぐい」


 何だこの現代版指切りげんまんは……。まぁこれでお互い約束は守るのならいいのか……?


 とそんなことを思っていると、深瀬が更に話しかけてくる。


「それでここからはただの興味本位で聞くけどさ……2人ってどんな関係なの?」

「え、まだそれ聞くの?」


 僕はちらっと華村の方を見る。


「……いいんじゃないですか? 記事にしないって言ってますし」


 華村は僕らの関係が他人にバレることは特に気にしてないらしい。


「んーまぁ華村がいいのなら話すけどさ……」

「教えて教えて!」

「分かったよ」


 僕は深瀬に一通り話をした。


 華村は表情を作れないこと、本当は氷の女王なんかじゃなく感情が豊かなこと。そして表情を取り戻す為に僕が協力しているということを。


 深瀬は僕の話をうんうんと頷きながら聞いてくれた。やっぱり女の子って内緒話とか好きなんだな。


「……ということなんだ」

「そんな特殊な関係だったとは……!よし、私も協力します!!」

「えぇ……いらない」


 いやなんでそうなるんだよ……


「なんだその反応はー!ほら私新聞部ですし、すごい色々な情報持ってるから絶対便利だよ!?」

「別に必要ないし……そもそも何で協力しようと思ったの?」

「え? だって人を助けるのに理由なんか必要ないでしょ?」


 ……すごい良いこと言ってるけど、僕らを盗撮した人が言ってるから説得力ないなぁ……


 でも感情オーラは綺麗なオレンジ色しているし、嘘はついてなさそうだ。でもなぁ……


「んな事言ってるけど……華村はどう思う?」

「手伝ってくれるのならとてもありがたいことですよ。お願いしたいですね」

「え、まじで?」


 どう見てもコイツ役に立ちそうにないんだけどなぁ……バカだし。


「ふふーん、私の手にかかれば余裕ですよ! 相馬っちより女の子が喜ぶこととか知り尽くしてるもんね!」

「それは否定は出来ないけども……」

「それじゃ2人とも頑張ろー!」


 そう言って深瀬は両手を前に出す。すると華村は深瀬の右手を握り出した。


「はい、頑張りましょう」

「……ほら相馬っちも!」


 深瀬は空いている左手をブラブラさせて、僕に握るよう指示する。


「いや僕はいいから……」

「えぇー! 握ってよー!」

「ほら、相馬君。深瀬さんがこう言ってるんですから早く握ってあげてください」


 華村まで……


「んーじゃあこれからは私達だけで奪還作戦を立てましょうか!」

「そうですね。これからは深瀬さんと2人で頑張ることにしましょうか」

「あー! もう分かったよ!」


 僕は深瀬の左手を握りしめる。


「ふふっ」

「……よ、よろしく?」

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