会話の練習って大事だね
……えぇ? 女王様の脳内ピンク色なんですけどー? ……どういうことだ? もしかしてもう故障でもしたのか……?
僕はメガネをぺたぺた触る。が、特に異常は見当たらない。なら見間違いか……?
僕は女王にもっと近づいて見てみることにした。
……が、やっぱり感情オーラの色は変わることなくピンク色だった。
……ううむ。どうしよう。これは矢上に報告していいものなのだろうか。「めっちゃブルーだった。超クールだった」 みたいなことを言って誤魔化した方が夢を崩さないで済むんじゃないのだろうか……
「あの……何か私に用ですか?」
「えっ?」
ふと、女王が話しかけてきた。周りには僕しかいないため僕に話しかけてるのだろう。
でもなんで僕に話を……? そう思って顔を上げると、目と鼻の先に女王がいた。
……感情オーラを見るのに夢中になっていて、めちゃくちゃ近づきすぎてたようだ。
そして急に近づいてきてじっと見つめている僕を不審に思ったのだろう。
……どうしよ。やばいやばい。「君の感情オーラを見てたんだよ!あはは!」なんて言えるわけねぇよ。頭おかしいよ。
とにかくどうにか誤魔化さなきゃ……!
僕は何か誤魔化せる物を探していると、女王が手に抱えているブックカバーがかかった本が目に入った。──よしこれだっ!
「あ、あはは……何の本読んでるのかなって……官能小説とか?」
「……」
うっわミスったぁー!!! ココ最近矢上と妹以外と喋ってなかったから会話がバチくそに下手になってたぁー!!!
女子に下ネタはダメでしょ僕……いや官能小説って別に下ネタではないよな。エロスを文学的に表現した素晴らしい書物だよ。うん。だから決していかがわしい物ではないよ。僕は間違ってなんかないんだ。そうなんだ。
……と脳内で謎の1人反省会を行うが、そんなことは意味がなくて。
僕はおそるおそる女王を見る……が、女王は表情ひとつ変えていなかった。さすが氷の女王と呼ばれるお方だぜ……
だが感情オーラはというと……
真っ赤だった。熟したリンゴのように真っ赤に染まっていた。昨日の朱音より赤いぜ……これはすげぇや。
……じゃなくて。めちゃくちゃ怒ってるやんけ。どうしよ……
どうにか僕は次の言葉を探したが、それが浮かんでくることはなかった。
そんな僕に痺れを切らしたのか、女王は言う。
「あの……鬱陶しいです」
「はい……」
そう言われたら戻るしかないわけで。
僕は矢上の席に戻ってきた。
「どうだったか?」
「いや……真っ赤になってましたよ」
「なははは! 女王も怒ることあるんだなぁ」
こいつ他人事だと思いやがって……お前のせいでこんなんなったんだぞ。
「いいからジュースを奢れよ……」
僕がそう言いかけた時、後ろから僕のことを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ちょっと相馬君、いいかな?」
振り向くと、黒髪で真面目そうなメガネの少年が立っていた。
「誰?」
「え……知らないの? ボクこのクラスの委員長だよ?」
「あ、君が委員長なんだ」
「嘘でしょ……もう前期終わるというのに知らなかったのかい?」
このクラスで顔と名前が一致している人物なんて、矢上しかいない。
だって別にクラスのメンバーなんて知らなくても生きていけるのだから……
ちなみに今の委員長の感情オーラの色は水色だ。悲しみに暮れているのか?
「まぁ、そんなことはいいんだ。相馬君! 君は昨日準備をサボっただろう!」
「準備って?」
「文化祭の準備だよ!君以外はほとんどみんな来ていたよ!」
委員長は僕に指を指して言う。
「僕はその……お見舞いに……」
「誰のだい?」
「ええーっと……おばあちゃん」
「やっぱり嘘ついてたのか。矢上君からはペットのお見舞いに行ったと聞いていたぞ?」
なんだよペットのお見舞いって! ウチにペットなんかいねぇよ!!
僕は矢上の方を見るが、矢上はゲラゲラ笑っている。
「おい矢上……」
「なははっ! ご、ごめんっ!相馬っはっはは!!」
くそっ……こいつに頼んだのは間違いだったか。他に頼める奴なんていないのだが……
「よって君には本日の放課後、文化祭の準備を手伝ってもらう! 拒否権はないぞ!」
「……分かったよ」
仕方ない。またサボったら更に何か言われそうだから、素直に従おう。今日だけは。
「よし、ならば放課後教室に残っていてくれ。」
僕は少し憂鬱になりながら、午後の授業を受けたのだった。
──放課後──
帰りのホームルームが終わった。いつもなら真っ直ぐ家かフリマに向かうところだが、今日はそうはいかない。
椅子に座って待っていると、委員長が僕の机にやって来た。
「よし、今から準備をしてもらう訳だけど……」
そう言って委員長は少し大きめの紙を1枚手渡してくる。
「チラシを作って欲しいんだ」
「チラシ?」
「配ったり、貼ったりして宣伝するためのチラシさ。そのデザインを考えてくれないか?」
「えぇ……なんで僕が?」
すると委員長は顎に手を当てて、何か考える仕草をした。そして数秒の静寂の後、口を開く。
「クラスの子達は部活生が非常に多いんだ。昨日だって無理言って集まってもらったんだよ?」
「……何が言いたい?」
「要するに君は……ほら。時間を持て余しているだろう?」
言葉を選んでいるようだけど、結局は僕が暇そうだから頼んだってことだろ……?
しかし手伝うと言ってしまった以上、やるしかないようだ。
「分かったよ」
「ありがとう相馬君! それじゃあボクはこれで!」
「え、どこ行くんだ?」
「委員会さ。まぁ君以外にも昨日来てなかった人を呼んでいるから、その子と一緒に頑張ってて! それじゃ!」
委員長はそう言って教室から出ていってしまった。
はぁ……やるしかないかぁ。でも僕以外の人も呼んでいるって言ってたな。そいつと協力して、とっとと終わらせて帰ろう。
僕は教室を見回して、その呼んでいる人を探した……
だが、席の前には誰もいない。僕の席は廊下側の1番後ろなので、大体は見えるのだが……
なら横か? 僕は左側向いてみる……
そこには。窓側の1番後ろの席で、表情変えずに本を読んでいる少女が1人。……そう。
女王かよォぉぉおおおお!!!!
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