おかしな人ですね

 女王かよ! よりにもよって女王かよ! どうせなら全く知らない奴の方がやりやすかったわ!


 はぁ……なんて声をかけりゃいいんだよ。


 僕は少し考えてみることにした……




「君も昨日サボったの?」

「なぁ、手伝ってほしいんだけど」

「やっぱりエ〇本でも読んでるの?」


 何だかどれも違うような気がするなぁ。……とりあえず昼のことは謝っておこうかな。


 僕は席を立って、女王に近づいた。


 足音で気がついたのか、女王は文庫本から僕の方へと目を移して、表情を変えずにじーっと見つめてくる。


 このままだと女王にまた何か言われそうだ。その前に、僕は言葉を発する。


「あの……昼はごめんな。変なこと言って」

「……いいですよ別に。全く怒ってませんから」


 ……普通の人ならこれで許されたと思うはずだろう。何せ怒った表情せず、いいよと言われてるからそう思うのが普通なのだ。



 ……だが僕には彼女の言っていることが嘘だと知っているのだ。なぜなら……


 僕が近づいてきた途端、感情オーラの色が赤色へと変化したからだ。なんて恐ろしい……


「うわ絶対怒ってるよ……」

「……え?」


 あ、しまった。思わず口に出てしまってたか。


 思わず僕は口を塞ぐ。


 今度こそ本当に怒られる……かと思ったがそんなことはなく、女王は少し目を見開いたまま僕に話しかけてきた。


「どうして分かったんですか?」

「え?」

「どうして怒ってるって分かったんですか?」


 女王はグイグイ僕に話しかけてくる。さっきまでの怒りなんかすっかり忘れているように見えた。


「えー? ええっと……」


 えー。どうしよう。メガネのおかげなんだ、と説明するのも面倒だしな……適当に誤魔化しておこう。


「実は僕には生まれつき人の感情を読み取る力があるんだ」

「へぇ……そうなんですか」


 無論嘘八百だ。だが女王はそのことを信じたようで、オーラの色もオレンジ色へと変化していた。


 これ以上色々なことを突っ込まれると、僕も誤魔化しようがないので、とっとと本題に入ることにしよう。


「そんなことより準備をしよう。委員長がポスターのデザインを考えてくれってさ」


 そう言いつつ僕は白紙の紙を、女王の机に置く。


「デザイン?」

「そう。じょうお……じゃなくて、ええーっと……」


 名前が思い出せねぇ!! ……と頭を抱えていると、女王が真顔で言った。


「……華村。華村桃香です」

「そう華村さん! 華村さんは絵とか描ける人?」

「呼び捨てで構いませんよ。絵はそれほど得意ではありませんが」

「そうか……なら僕が絵を描こう。華村……はデザインを考えてくれないか」

「わかりました」


 よし、何とかコミュニケーションは取れているな。このままとっとと描きあげて帰ろう。


 僕はシャーペンを取った時……ふと思った。


 うちのクラスって何の出し物するんだ? と。


 ……やばい。マジで分かんないぞ。華村に聞いてみるか……?


「……ところでウチのクラスって何の出し物をするんだ?」


 すると華村は首を横に振る。


「わかりません」

「え、華村も知らないの!?」

「はい。ホームルーム中は勉強してるので、先生の話は聞いてません」


 なんだそりゃ……真面目なんだか不真面目なんだか……話聞いてないんだから不真面目だな。うん。


 ……んなことはどうでもよくて。


「とにかく困ったぞ。とりあえず矢上にLimeを……」


 ……Limeとは学生はみんな使っているメッセージアプリのことである。


 僕はLimeを開いて、一瞬で友達ページが見渡せるホームから矢上のトークをタップし、ウチのクラスの出し物が何か聞こうとする……


 ……が今あいつはサッカーの部活中であるため、直ぐに返信できる訳がないことに気がついてしまった。


 それなら他の友達を……と思ったが、矢上以外の友達のLimeなど知るわけもなかった。


 ならばもう華村に頼るしかない。


「……すまん華村。出し物が何か友達に聞いてくれないか?」


 すると華村はまた首を横に降り出した。


「私、友達のLime知りません」

「え? 嘘でしょ?」

「ホントです。ほら」


 そう言って華村は、ピンク色のカバーをしたスマートフォンを僕に手渡してくる。見ていいの?


 僕は華村のスマホを貸してもらい、Limeのホームを見てみる……


「……ええっと。友達の数……3?」

「はい。父と母と弟です」





「……えっ!?」


 ウッソだろ!有名人で美少女の華村の友達が家族しかいないって……!


 これ大スクープになるんじゃね?


「へ、へぇー。友達いないのか」

「はい。連絡先知るほど仲良くする人なんかいませんし、必要ないです」

「そ、そうか……」


 華村はそうキッパリと言い切った。だが感情オーラはと言うと……


 めっちゃブルーだった。なんか吸い込まれそうなほどブルーに染まってた。


 ……そうか。今、華村は悲しんでんのか。強がってんのか。素直になれないのか。


 ……友達が欲しいのか。


 うーん。どうにか華村を元気付けてやれないものか──と思った時、左手には自分のスマホが握られていることを思い出した。あ、これだっ!!



「ねぇ! 僕のも見てくれよ!!」


 僕は自分のスマートフォンを華村に見せつけた。


「友達の数……3?」

「ああ、そしてそのうちの1つは公式だ!」


 僕のLimeの友達は……妹、矢上。そしてニャンテンドー公式だ。


「だから公式除いたら、華村の勝ちだな!はははっ! ふはははっ!」

「……」


 僕は思わず笑った。華村は笑わなかったけど……



「……おかしな人ですね」



 感情オーラは黄色に変化したのだった。

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