女王のお悩み

 んでんで次の日。


「……なるほど。何の出し物をするか分からなかったから、華村さんと遊んで帰ったと……」

「ああ。クラスLimeとか僕知らないし。そもそもあるの?」

「あるけど……」

「ふーん? 矢上は無いって言ってたけどな。まぁいいや、はいこれ」


 そう言って昨日もらった紙を委員長に渡す。


 それには華村とやった絵しりとりの後が、紙いっぱいに残っていた。


 委員長はそれを見るなり、頭に手をやって大きなため息をつく。


「はぁー。君達に頼んだボクが間違いだったよ……」

「でしょうね」

「……もう君たちは手伝いしなくていいよ」

「え、本当に!?」

「……うん」


 そして委員長は、ブルーなオーラを出しながら、とぼとぼどこかへ行ったのだった。


 よし、これで合法的に文化祭の準備をサボれるようになった! 早速フリマの計画でも立てようかな!! あはっ!


 と、僕がウキウキでスマホを開くと、Limeに1件の通知が届いていた。差出人は……華村桃香。氷の女王だ。


 実はあの後僕達はお互いのLimeを交換したのだ。お互いの友達の数を水増ししようというしょーもない理由で交換したから一生連絡など取らないと思っていたのだが……


 とりあえず開いてみよう。僕は緑色のLimeのアプリをタップした。


 メッセージを見る。


『急にごめんなさい。相馬君に頼みたいことがあります。放課後、お時間ありますか?』


 ふむ……頼み? どうして僕なんかに……と思ったが昨日の出来事を思い出す。


 たしか華村のLimeの友達は家族のみだった。だから僕ぐらいしか何かを頼める相手がいないのだろう。


 ……まぁどうせ放課後暇だし、頼みを聞くくらいならいいかな。


 僕は『分かった。教室で待ってる』と入力して送信した。


 するとすぐに既読がついて、お辞儀をしているクマのスタンプが送信されてきた。


「……かわいい」


 ───


 放課後僕が教室に残っていると、華村がふわふわのスカートを揺らしながら僕に近づいてきた。


「すみません急に。本当に大丈夫でしたか?」

「いや大丈夫だけども。なんで僕に?」

「相馬君じゃないと駄目なんですよ」

「……え?」


 え、どういう意味だ……? なんで僕じゃないと駄目なんだ……?


「相馬君、昨日『生まれつき人の感情を読み取る力がある』って言ってましたよね」

「あ、ああ」

「なら分かりますよね。私……こう見えて感情が豊かなんですよ」

「う、うん。知ってた。知ってたよ」


 ……つい昨日知ったんだけどな。


「そこでお願いなんですが……私のこの感情を表に……顔に出せるようにしてほしいんです」

「……え?」


 どういうことだ……? 華村は好きでクールを演じていた訳じゃないのか?


 というかそもそも……


「……普通に笑ったりすればいいのでは?」

「それができないから頼んでいるのですよ。……はぁ。それじゃあ少し昔ばなしでもしましょうかね」


 そう言って華村は僕の隣の席に腰掛けて、淡々と語り始めた。


 ───


 私は子供の頃は感情が豊かな女の子でした。……今もですけど。この頃は顔にもちゃんと感情が表れて、笑ったり泣いたり怒ったりできていました。


 ……いや、できすぎていたのです。あの頃の私は、つまらないギャグでも大笑いするし、少しでも傷つけば大泣きして、些細なことでも顔を真っ赤にして怒って……


 そんな私に友達はうんざりしていました。そして


「華村さんといたらホント疲れる」

「お前すぐ泣くから空気悪くなるんだよな」

「ずっとヘラヘラしてて気持ち悪い」


 みんなそんなことを口々に言ったのです。まぁそりゃそうですよね。こんな変な子だったのですから……


 ……ですが私はそれから感情を表に出すのが怖くなってしまったのです。


 心の中で面白いって思っても笑えなくて。どんなにイライラしても怒れなくて。悲しくても泣けなくて。


 いつの間にか感情が顔に表れなくなってしまいました。


 そうしたら今度は無表情の私を怖がって、友達は更に離れていきました。最終的には話しかけてくる人もいなくなりました。


 そして「氷の女王」なんてあだ名まで付けられて。本当の私はクールなんかじゃないのに……


 だから……戻りたいんです。感情を顔に出せてた頃に。……そしてそれを受け入れてくれる友達が……ほしいんです。


 でもどうすればいいのかも分からなくて……手伝ってくれる人なんかいなくて。


 そんな悩んでいた時に現れたのがあなた、相馬君だったんです。


 ──


「なるほど……そんなことが……」


 まさか華村がこんなに悩んでいたとは……


 そして感情を隠していたのではなくて、顔に出すことができなかったのか……それは辛い思いをしていたんだな……


「それで……手伝ってくれますか?」

「もちろんだ」

「え、そんなに即決でいいんですか?」

「ああ。次のフリマまでまだまだ時間あるしな」


 次のフリマは早くても2週間後。それまでは暇だし、華村の手伝いするのも悪くないかな。


「ありがとう、相馬君」

「別にいいって。……それより僕は何をすればいいんだ?」


 すると華村はうーんと唸った後、


「そうですね……私に様々な経験を積ませてください。そうすればあの頃の記憶が戻って素直に笑ったり泣いたりできるようになるかもしれません」

「経験……」

「例えば……2人でお出かけするとか?」










「それデートやん」

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