最後の華村団会議!
それから少し時間が経った後、深瀬が僕の病室を訪ねてきた……のだが。
「そ、そそそ相馬っち。さっき華村ちゃんから連絡あって……起きたらしいから私来たっ、よ?」
「……」
どうも深瀬の様子がおかしい。何だかソワソワしているし、目は泳ぎまくっている……というかもう溺れている。
「……おいどうした深瀬」
「べべっ、別にぃ!? 」
深瀬はよくあるアメリカのぬいぐるみのこどく、目ん玉をグルングルン回して言った。
「いや絶対何かあっただろ。言ってみろ」
「んっいや別にぃ!? 何も変な物とか見てないよ!?」
絶対嘘だ。メガネはないからちゃんと確認することはできないが、嘘であるのは明白である。
まぁ言いたくないのなら放っておくけどさ。
「そうだ深瀬。僕のスマホを返してくれよ」
「ぬっ、お前のお望みの物はこれかにゃ!?」
「キャラがブレまくってるぞお前……」
よく分からない語尾で喋る深瀬から、僕は白いスマホを受け取った。
一応表と裏を見てみるけど、大きな傷なんかは付いていなかった。良かった良かった。
「んで、深瀬よ。僕のメガネも回収したりしてくれてないか?」
「ぬふふ、もちろん回収してるよ。はい、so much(相馬っち)」
「いやお前本当にどうしたんだ?」
深瀬は変な発音で僕の名前を呼び、ポケットからメガネを取り出した。そして僕に手渡してきて……
「おい、割れてるじゃねぇか」
「殴られた衝撃で割れてたんだよ。だから私は何も悪くないパラグアイ」
「誰のネタ? 〇ョイマン?」
「いや、ゴー☆〇ャス」
「どっちでもええわ」
くだらねぇ深瀬のボケはもう放っておいてだな……
僕はメガネを手に取って眺めてみた。
うーむ……確かに両方のレンズが割れている。一応かけてみるけど、オーラを見る力はもう使えなくなってしまっているようだ。
「あーあ……まぁいっか」
メガネが壊れたのは結構ショックだったけど、もう桃香は感情を思いっきり出してくれてるし。
だからもうわざわざオーラを見る必要なんてないのかもしれないな。
と、まじまじとメガネを眺めてそう思っていると。
「そ、相馬っち」
深瀬が話しかけてきた。
「どうした? またギャグでもするのか?」
「違うよ、今度はガチのお話」
「じゃあ今まではふざけてたの?」
そう言うと深瀬は目を逸らす。
「いや、それは否定はしないけど……それで華村ちゃんはどこにいるの?」
「ん、ああ。今買い物に行ってる。食べ物とか飲み物を買ってきてくれるってさ」
「そうなんだ。……華村ちゃんは本当に相馬っちのこと大好きなんだねぇ」
え、何急に。怖い怖い怖い。
続けて深瀬は言う。
「相馬っちも華村ちゃんのこと大好きだし……もしかして2人は付き合ったりしてるの?」
え、なになになに。何でそんなこと聞いてくるの?
でもここで何も言わなかったら、変な勘違いでもされそうだし正直に言うか……
「いや。まだだけど」
「えっ……嘘。本当に付き合ってないの?」
「ああ。つーかホントどうしたんだお前……」
「……っけよ」
「なんて?」
「何でくっついてないんだよ、お似合いバカップル共がぁ!!!」
「はぁ?」
何でキレてるのこの人……怖ぁ。情緒不安定過ぎないか?
「深瀬? お前何を……」
「『何を……』じゃないよ! 捕らわれのお姫様を無事救い出したんでしょ!? じゃあ何で結ばれてないの!? 物語だったらもうあと1ページめくったらもう結婚式のシーンだよ!?」
弾丸のように飛んでくる深瀬の言葉はうるさくて、耳がキンキンしてしまう。
「うるさいうるさい。何なんだ一体……」
「だから! 抱き合ったのに付き合ってないってことがおかしいって言ってんの!!」
「え、さっきの見てたの!?」
「ちゃんと最後まで見てたよ!!!」
「えーー!!!!」
う、嘘だろ……あの抱きしめシーンを見られていたのかよ。僕の言葉も全部……?
うわ、超恥っず。誰か僕を埋めてくれないかな。
「……で。何でお前は僕らをくっつけたいんだよ」
「それはもちろん新聞の記事にするためだよ! でも記事に嘘は書けないじゃん! だから付き合ってもらわないと困るの!」
「……あーね」
なるほどな。まぁ僕と桃香が付き合うってなったら、結構騒ぎになるかもしれないからな……
で、コイツはこのことを1番最初に記事にする……つまりスクープを狙ってるって訳か。
「じゃあさっきまでのよく分からん態度は、僕らが付き合ってるかどうかを確認するチャンスをうかがっていたからだったと」
「そうだよ!! 全く無駄だったけど!!」
深瀬はキレながら、僕のベッドにボフッと腰掛けた。
「とりあえず相馬っち! 今のうち作戦立てよう! これが最後の華村団会議だよ!」
「そんなんが最後でいいのかよ」
「いいのいいの!」
深瀬はそう言って作戦開始の合図を出したのだった。
「これより華村団会議を始めるよ!」
──
「それで相馬っちは華村ちゃんのこと好きだよね?」
「…………ああ」
「声が小さい!」
「うるせぇ潰すぞ」
僕は調子に乗っている深瀬をボコボコにしてやりたい衝動に駆られたが、何とか後一歩の所で堪えることができた。
そんな僕を気にせず深瀬は話を進める。
「まぁ、華村ちゃんも相馬っちのことが好きだよね?」
「それ僕に聞くの?」
「あー。じゃあ私から華村ちゃんに聞いておくよ。多分相馬っちにベタ惚れてると思うんだけどね」
本当かよ。それ信じていいの? 大丈夫? 深瀬の攻略本だよ?
「でも……告るタイミング、あの抱きしめシーンが最適だったと思うんですけど。あそこで告らなかったのは本当に相馬っちを男かどうかを疑いますよ」
「いや、あの時はそんな雰囲気じゃなかったし……」
「はぁ。華村ちゃんの腰に手を当ててた癖によく言うよ」
「どこまで見てるんだよお前」
本当に怖いわぁ……おい、こいつまさか写真とか撮ったりしてないよな……?
「それならもう残された選択は1つ。華村ちゃんをデートに誘うんだよ。そして相馬っちがデート中に告白をするのさ!」
「はぁ……デートつっても僕何も分からないんだけど。誰とも付き合ったことないし」
「はぁ……陰キャめ」
「聞こえてるぞー?」
こいつホンマ……手伝いたいのか、喧嘩したいのかハッキリさせてくれ。
「まぁ私が手伝うから安心したまえよ。ちょっと待ってて」
「……」
安心できねぇ……と僕が思いながら深瀬を見ていると、深瀬はポケットから何か細長い紙を取り出して、ベッドの上に置くのだった。
「ここに遊園地のチケットが2枚……来るぞ相馬!」
「え、何どういうこと?」
すると深瀬は「はぁー」と大きなため息をついてこう言った。
「もー察しが悪いなぁー! 相馬っちは華村ちゃんを遊園地に誘うの! そしてそこで告白する! 分かった!?」
「おいおい……何で遊園地なんだ」
深瀬はまた僕を馬鹿にしたような顔をする。
「デートは遊園地が定石なの! そんなことも知らないの!?」
「いや知らんわ!」
「だからー吊り橋効果ってのがあってだね……」
こっから深瀬が恋愛のうんちくが始まった。随分と長い時間語ってくれたが、残念なことに僕の頭には何も入ってこなかった。
「……ちょっと相馬っち聞いてる!?」
「ウン、キイテルヨー」
「とにかく! 私は遊園地で相馬っちが告白してる瞬間の写真が欲しいだけだから! 頼んだよ!」
「……お前なぁ。純粋に僕を応援する気持ちとかはないの?」
「ない!」
コイツ……もう記事は好きに書いたらいいけど、絶対掲載料はたんまり貰ってやる。
そう思う僕であった。
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