大人数で遊園地に行くと大概揉める

 それから深瀬は帰って行って数分後。桃香がコンビニ袋を片手に、病室へ戻って来た。


「相馬君! お茶とおにぎり買ってきましたよ!」

「ああ、助かるよ。ありがとう桃香」

「えへへっ」


 僕はお礼を言い、照れている桃香から袋受け取って中身を見てみた。


 どれどれ……ヘーイお茶にチャーハンおむすび、唐揚げマヨネーズおにぎりに高級鮭いくらおにぎり……


 メジャーな具が1つもなかった。ナンデ?


 それが気になった僕は、それとなーく桃香に聞いてみた。


「桃香……何だかパワフルな具ばっかりだね」

「あ、気が付きました? 相馬君男の子ですから、ガッツリした物がいいのかなーって思ったんですよ! あっでも……」


 桃香はそう笑顔で言った後に、少し不安そうな顔をするのだった。


「もしかして嫌……でした?」

「……」


 ……ンッ馬鹿っ!! 僕の馬鹿野郎!!! 桃香がこんなに僕のこと考えて買ってきてくれたんだ!! なのにイチャモン付けるなんてなんて僕はクズで愚かなんだ!! いっぺん死んどくか!?


 僕は勢いよく包装されたビニールを取り払い、チャーハンおむすびにかじりついた。


「全然っ!! 僕こういうの大好きだし!! 何個でもいけるね!!」

「そうですか? なら……良かったですよ」


 そう言って桃香は優しく微笑んだ。天使か?


 と、僕がもりもりご飯を食べていると。


「あれっ。何ですかこれ?」


 桃香が漫画本の下から紙を取り出した。……あっ。そっ、それは!! 隠しておいたやつだから!! 待って!! まだ待って!!


 ……が、僕の心の中の叫びは桃香には届かず、その細長い紙を眺めだした。


「『フルマルランド』のチケットですか。どうしてこれがここに?」

「あっ、えっと、その……深瀬が置いてって」

「深瀬さんが来たんですか?」

「う、うん。そうなんだよ」


 もう桃香にチケットのことがバレてしまった。もっとムードを作ってから渡したかったのに……


 ま、まぁええわ。もう誘うぞ……?


 僕はすぅーっと深呼吸をして、桃香にこう伝えた。


「それで深瀬が2枚も僕にチケットをくれてさ。だから……良かったら僕と一緒に遊園地に行かない?」


 一瞬桃香の目が点になった……かと思えば、すぐにいつもの状態に戻って、口を開いた。


「あっ、はい! 是非行きたいのですけど……」

「け、けど?」

「どうせだったらみんなを誘って行きませんか?」

「あ、ああー。なるほどー?」


 一瞬断られると思ってヒヤッとしたけど……なるほどそう来たか。


 咄嗟に僕はこう反論する。


「でもチケットが2枚しかないからそれは難しいんじゃ……」

「それなら他の人の分は私が出しますよ」

「え?」


 予想外の言葉に、僕の口は昔のパソコンのこどく、急にフリーズした。


 そんな僕を置いて桃香は話を進める。


「みんなあんな無茶なことをして、私を助けてくれたんですから。だからそのお礼として……私が全部出しますよ」

「で、でも、桃香のお金が……」

「いいんです。ずーっと遊びを禁止されてたせいで、お金は無駄に貯まっているんですから」


 桃香は少しおどけた様にそう言った。……そこまで言われちゃ……僕は。


「そ、そっか! ならみんなで行こう!! きっとみんな喜ぶよ!!」

「はい!」


 僕は素直に桃香に従うことにした。そう。桃香の言うことは絶対なのだ。


 ──


 そして訪れた遊園地の日。正確に言えば、僕が退院してから初めてやって来た日曜日。


 それでフルマルランドに来たのは……


「相馬君、おはようございます! 今日は楽しみですね!」


 笑顔の輝くキュート大天使桃香と


「退院おめでとう。これまた随分とリア充になったな相馬?」


 見慣れた顔の矢上と


「……成り行きでボク来ましたけど迷惑じゃないっすか? 本当に大丈夫っすか?」


 何だかオドオドしている片桐と


「うっすー。久しぶりソーマ。生きてた? 生きてるからここにいるんか! はははっ!」


 頭悪そうな笑い声を上げる修也と


「……何でこんなに人がいるの? ねぇどういうことなの? ねぇ相馬っち?」


 全く目の笑っていない深瀬だった。


 僕はみんなに見られないよう、深瀬に耳打ちをする。


「いや、あのな深瀬……桃香がみんなじゃないと嫌って言うからお前らを連れて来たんだよ」

「……はぁ」


 深瀬はため息をついたと思ったらこう言った。


「まぁ、別にいいんだけどね。私は相馬っちと華村ちゃんの写真が撮れれば私は全く問題ないからいいんだけどね!」

「……つまり?」

「こんな状況でも告れるなら……別におっけーってこと」

「なるほど」


 どうやら深瀬は納得したらしい。


「まぁ私も隠れなくて済むから、相馬っちのサポートとか出来るから……」


 と、そこまで言ったところで


「おーいお前ら早くこっち来いよ! みんな入ってんぞー!」


 修也が僕らを遠くから呼ぶ声が聞こえた。


「とりあえず行くか」

「うん、せっかくだし楽しもうよ。……でも告白の件は忘れないでね?」

「分かってるって」


 そう言って僕らは入場ゲートまで歩いて行った。


 ──


 ゲートを通過して、またみんな集合。僕は改めてこのメンツの顔を一人一人見てみるが……本当に不思議だなこの集まり。


 まず矢上。こいつは僕の友達枠で呼んだ。友達なんてコイツだけだと思ってたのになぁ……


 深瀬。僕らを盗撮した、ただのクソ野郎と思ってたんだけど……こうやって桃香救出手伝ってくれたりしたし、今も協力? してくれてるもんなぁ……


 修也。桃香の弟。桃香と顔も性格も全く似てないし、ヤンキーだし、僕が絶対仲良くしないような人物だと思ってたけど……本当は優しい所や男気溢れる所もあるもんな……ちなみにコイツは暇そうだから呼んだ。


 片桐。クラスメイトらしい。探偵事務所に行かなかったらこの先ずっと気が付かなかっただろうな……変な語尾で喋ったりするし、桜井さん大好きすぎるけど、多分この中では1番の常識人だと思う。ちなみに片桐は桃香が呼んで欲しいって言ってたから呼んだ。


 そして桃香。ちょっと前までは存在すら知らなかったというのに……人生って何があるか分からないもんだね。


 桃香が僕に『感情を出させてほしい』と頼まなかったら、僕が行動しなかったら、助けることができなかったら、メガネを買ってなかったら……その全てが上手くいったからこそ、ここに、この遊園地にみんなが集まれたって考えたら……


 超エモくない?


「何をボーッとしてるんですか、相馬君。これ、どうするんですか?」


 桃香に言われて、僕ははっと目を覚ます。


「あっ、ごめん。えっと、今どういう状況?」

「今深瀬さんと修也が揉めてるんです。深瀬さんはお化け屋敷、修也はジェットコースターに行きたいと」


 そう言われて僕は目の前を見てみると、深瀬と修也が言い争っていた。


「ジェットコースター乗れない遊園地なんて、ポップコーンのない映画館じゃねぇか! ジェッコ行こうぜジェッコ!」

「いや、ここのお化け屋敷はクオリティが凄いんだよ! 絶対先に行くべきだね! ね、相馬っち!!」


 と2人が争いながらもこっちを向いてくるけど……


 ……いや、あの深瀬の目。純粋に勧めている修也とは違う目。何か……何かを訴えているような……


「あっ」


 ……そうか。そういうことだったのか。なるほどな深瀬。どこまでも僕に協力してくれているらしい。


 僕はなるほどと頷いて、ニヤッと笑いながら2人にこう言うのだった。


「いや、ゴーカートに行くべきだ!!!」

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