ピンチヒッター
「何だそれ! 現代日本でそんな場所があっていいのかよ!?」
「実際にあるんだからいいんじゃねぇの?」
「いや聞いたことないし!」
そんな場所が日本あるだなんて知らないよ。海外だけだと普通思うじゃん。ねぇ。
……でもまぁもうそれはいい。グチグチ言ったところで現状は変わらないのだ。
とにかくそのゲートを突破しなければいけない。その方法を僕らは考えなくてはいけないのだ。
「んーじゃあ修也! お前が頼み込んでゲート内に入れてくれるよう言ってくれよ!」
「無理だ。絶対にオレじゃ無理」
「何で!」
「相手にされないんだよオレは。華村家の出来損ないなんだからな」
「……」
修也は明らかにイラついた顔をした。……とても「やってみないと分からないだろ!」とは言える空気ではない。
僕が何も言えず黙っていると、修也は口を開く。
「腹減ったからもう帰る。じゃあなソーマ」
「あ……ちょっと待ってくれ」
「なんだよ、もう散々喋っただろ?」
「お前の連絡先を教えてくれ」
「別にいいけどよ……ほい」
修也はLimeのQRコードを僕に見せつける。流石陽キャ、表示するまでの時間が早い早い。
僕はコードを読み取り、修☆也を友達に追加した……え、何この星。○のだ☆ひろ?
まぁそれは触れないでおいて。
「よしサンキュ。次に連絡する時は、突破する作戦が思いついて桃香を救出に向かう時だからな。予定を空けとけよ」
「めんどくせぇな」
「お前だってお姉ちゃんを助けたいだろ?」
「うるせー」
そう言うと修也はポケットに手を突っ込んで、夕日の方へと歩いていくのだった。
──次の日──
それで次の日の放課後。今日も僕らは緊急華村団会議を開くことを決めた。
僕は深瀬にLimeで『3組の教室集合』と会議の呼びかけをする。するとすぐに既読がついて『おっけー!』と一言返事が返ってきた。
教室で待っていること数分、ドタドタという足音と一緒に深瀬が転がるように教室へと入ってきた。
「えへへ、ごめん遅れちゃって……待った?」
「そういうのいいから、早く座れ」
すると深瀬は椅子に座ることなく、僕に近づいて来る。
「……」
「ん、どうした?」
「あー……そうそう相馬っち! 昨日はホントごめんねー! 何か保健室まで運ばせたみたいでさー」
深瀬は思い出したように自分の髪を弄ながら言う。オーラの色から察するにきっと照れてるんだろうが……
「別にいいって。無理させた僕だって悪いんだし」
「おおー流石相馬っち! イケメンだったら100点満点の答えだよ!」
「本当お前一言余計だよな」
ちょーっと素直になったと思ったらすぐコレだ。……まぁ元気になったのなら良かったんですけどね。ね!!
そんな深瀬に僕は昨日得た情報を一通り伝える。
華村弟のこと。そしてゲートを突破しなければいけないことを。
深瀬は僕の話をメモを取りながら聞いていた。この辺は流石新聞部と言ったところか。
メモが終わったのか、深瀬はシャーペンをくるりと回しながら言う。
「ゲート。んーゲートかー。無理やり突破! って訳にもいかないだろうしねー」
「ああ。でももう本当に時間が無いし、今日中には華村の家へ行かないといけないんだ」
今日は水曜。明日には文化祭が始まってしまう。別に僕はサボっても問題ないのだが、深瀬はそうはいかないだろう。
つまり華村救出に割ける時間は今日ぐらいまでしかないということなのだ。
それに……僕は華村と一緒に行くって約束したんだ。約束を破る訳にはいかないんだ。
「うーん。どうしたらいいんだろうね」
「……」
もちろん僕もゲートについて調べた。だが、セキュリティが高いらしく、ノコノコ歩いて行っても通してくれるはずがないだろう。
一体どうすれば……どうにか自然に近づけられる?
……と。僕が考えていると、チョイチョイっと深瀬が僕の肩を叩いてきた。
「ねぇねぇー相馬っち! いい作戦思いついたんだけど!」
「本当か?」
「私たち友達が近づけないのならさ、大人に近づいてもらえばよくない?」
「大人? そんなの頼める人なんて……」
「いや、いるじゃん! 担任の先生だよ!」
「……あーなるほど?」
その発想はなかった。というか先生を頼るという考えはとうの昔に消えていた。
僕が感心したようにポカーンと口を開けていると、深瀬は「もっと作戦聞きたい? 聞きたい?」と言ってくるので大人しく聞いてみることにした。
「作戦はね、まず先生が華村ちゃん家に行く用事を作るの。適当にプリントを渡しそびれたーとか、会ってしか話せない話があるーとか」
「うん」
「そして車で行って、その警備かなんかの人に事情を話せばゲートを突破できる!」
「でもそれだと先生だけしか行けないじゃないか」
すると深瀬は「その言葉待ってました!」と言わんばかりに立ち上がる。
「甘いよ相馬っち! 私たちはその車の中に隠れればいいのさ!」
「なるほどねぇ……」
車の中に隠れる場所があるのかはさておき、悪くないアイディアだと思う。
……先生が協力してくれたらの話だがな。
「どうやって先生を説得するんだ?」
「え。お願いしますって言えばいいじゃん。相馬っちの担任は葉月先生でしょ? 余裕じゃん!」
「……そうか」
……まぁ当然と言えば当然なのだが、深瀬は葉月の正体を知らないらしい。そして僕が死ぬほど嫌われているということも。
「……深瀬。お前が代わりにお願いしてきてくれないか?」
「何で? 違うクラスの私より相馬っちの方が絶対説得しやすいじゃん!」
「……ソダネー」
まぁそうなるよね。
はぁー。仕方ない。……アレを使うか。気は進まないんだけどなぁ……
──職員室──
「葉月先生」
僕が呼びかけると、葉月先生はパソコンから目を背けずに返事をする。
「あー誰? 相馬クン? 明日文化祭でしょ。早く帰りなよ?」
「そういう訳にはいかないんですよ。先生、華村を助けるために力を貸してください」
そこまで言うと、葉月は手を止めてこっちを向くのだった。
「あのねぇ……俺が協力すると思ってるの? 何するか知らないけどさぁ」
「お願いします。先生が必要なんです」
「やだよ。君と違って俺は忙しいんだ」
はぁー。どうせそう言うと思ったぜ……
僕はポケットからスマホを取り出した。
「先生。一昨日会話した音声がこの中に残ってます。もちろん自宅のパソコンにも移してあります」
「……」
「これをばら撒かれたくなかったら協力してください」
……はいそうです脅しです。切り札ってのはこのことでした。
……でも音声は上手く録れていなくて聞けたもんじゃないし、パソコンに移したってのも嘘。つまりほぼハッタリなのだ。
まぁ葉月が協力してくれるなら何だっていいんだ。さぁ……どう反応する?
「……」
葉月はしばらく黙っていた。しかしオーラを見ても色の変化が弱いことから、あまり動揺していないことがわかる。
そしてようやく口を開いた。
「……好きにしたら?」
納得しちゃったよこの人。
「本当にいいんですか?」
「いいよ別に……せいぜい注意だけで済むだろ」
「いやわかんないですよ! 最近は色々厳しいし、教師辞めさせられるかもですよ!」
「俺そこまで変なこと言ってないし大丈夫だろ」
確かにそんなに変なことは言ってない。何か決定的な暴言とかは言われてないし……よくよく考えてみたら脅しにしてはかなり弱いかもしれない。
クソっ。このままじゃ協力してくれないよな。何か……何か引き込めるような一言を……!
「というか何で俺に頼むんだよ。自分のことを嫌ってる人に頼んだりしないだろ普通……」
あっ……ここだ。
「何だよ普通って。自分の常識を人に押し付けんな」
「……なっ!!」
「あなたの言葉ですよ。葉月先生」
目を大きく見開いた葉月は、かなり動揺しているように見えた。
一昨日の会話。葉月は『普通』という言葉を過剰に反応していた。何かしらトラウマかコンプレックスを抱えていたのだろう。
どうやらそこを上手く貫けたようだ。
「ふふ……ははっ! ホントお前生意気だなぁ!」
「……」
「でも断ってもまた何回も来て俺をイラつかせるんだろ? ……ならもう面倒だし手伝ってやるよ」
なんかめっちゃボロくそに言われたけど、どうやら手伝ってくれるらしい。やった。
「ありがとうございます先生」
ここでちゃんとお礼言える僕なかなかすごくない?
「……まぁ俺は今本当に忙しいから、別の奴に丸投げするんだけどな」
「別の人?」
「待ってろ、今から連絡する」
そう言うと葉月は席を立ってスマホを取り出し、誰かに電話をかけるのだった。
「おう久しぶり。何年ぶりだっけ……桜井クン?」
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