探偵と助手
葉月は何回か「うんうん」と相槌を打つと、すぐに本題に入るのだった。
「んで突然だけどさ、今からお前ん所にウチの生徒が来る。だから相手してやってくれない?」
「……って!? ……うこと!?」
僕のいる位置でも電話越しの声が僅かに聞こえてきた。当然だが相手も状況が呑み込めてないらしく、困惑しているらしい。
が、そんなことはお構い無しに葉月は言う。
「頼むよ、俺も忙しいんだ。じゃあまたな」
そして葉月は逃げるようにプツンと電話を切って、僕の方を向く。
「よし。許可貰えたぞ。良かったな」
「えぇ……本当ですか?」
明らかに押し付けただけだと思うんですけど。それを許可貰ったと呼んで良いものなのか……?
そんな僕の言葉を無視して葉月は言う。
「それでお前は今から『桜井探偵事務所』に向かって、桜井に会ってこい」
「え、探偵事務所ですか?」
予想外の言葉に僕はキョトンとする。探偵さんと話していたの?
「ああ。そこに俺の友達がいる。俺よりは多少まともな奴だし安心しろ」
「はぁ……ということはその人に頼れと」
「そういうことだ」
嘘はついてなさそうだが……葉月の友人。信用していいのだろうか……
まぁそいつのオーラでも見ればどんな奴かはすぐに分かるから別にいいのかな。それにここで断っても他にアテなんかないし。
とにかく僕には誰でもいいから、協力してくれる人が必要なんだ。行かない選択肢はない。
「それで場所は……ぐるぐるマップでも見ながら行け」
「はい。分かりました」
僕は急いで職員室から出ようとすると、呼び止められる。
「あ、最後に」
「はい」
「俺に二度と話しかけてくんなよ」
「嫌です」
「はは。お前、今期の通知表楽しみにしておけよ」
「面白いジョーク言いますね」
笑って僕は職員室の扉を開く。そしてスマホを取り出し、録音終了のボタンをタップするのだった。
──
桜井探偵事務所前。
「ここか。いかにも怪しくないか?」
「いや葉月先生の紹介だからきっと大丈夫だよ……たぶん……」
僕と深瀬はバスを乗り継いで探偵事務所へとやって来たのだが……
「本当にここなのか?」
たどり着いたのは、なんか薄汚くて細長いビルだった。ここが廃ビルと言われたら全く疑わないだろうな。
「ここだよ。ぐるぐるマップがここって言ってるもん」
「うーん……まぁ入ってみようか」
ビビりながらも僕らはビルに入って、錆び付いた階段を上るのだった。
──
3階に到着。そこには「桜井探偵事務所」と書かれたプレートが扉に掛けられていた。
どうやら本当にここらしい。僕は少しためらいながらも扉を叩いてみる。
「すっ、すいませーん。葉月……センセに言われて来たんですけど」
そう言うと扉がギィっと開かれ、お花の髪飾りを付けた小さな女の子が出てきた。
……あれ。僕来る場所間違えた?
「ん? ここって桜井探偵事務所だよね? 合ってる?」
僕がそう言うと女の子はこくりと頷く。
「合ってるっすよ。私はただの助手です」
「あ、そうなんだ」
探偵に助手。本当にそんなのいるんだな。なんだかアニメみたいだ。
「早く上がってどうぞっす」
「あ、どうも」
僕らはその女の子に案内される。そして豪華な来客用のソファに座らされた。
「しばらくお待ちください」
そう言って女の子はぺこりとお辞儀をして、どこかへ行ってしまった。
その待っている間に深瀬は小声で言う。
「ちょっとちょっと相馬っち。あの子が着ている制服、ウチの学校のですよ!」
「え、そうなの?」
「はい。もしかしたら同級生かもしれません」
「ウチの学校バイト禁止じゃなかった?」
そもそも高校生が探偵事務所でバイトできるの? 知らんけど。
……と深瀬と会話していると、さっきの女の子と鋭い目をした黒髪の男の人が向かい側の椅子にやって来た。
男の人は言う。
「えーっと、待たせてごめんな。君たちが葉月の生徒だよね」
「あ、そうです」
「俺は
桜井さんは「フッ」と笑って名刺をしまった。
その隙に僕は桜井さんのオーラを見てみる……が特に変わったところは無い。というかむしろ非常に穏やかな色だった。
この人……多分いい人や。僕のオーラアンテナがそう言っている。
桜井さんは口を開く。
「それで依頼……というか葉月が何もしてくれなかったからここに来たんだろ?」
「はい」
「だよな。ホント葉月は困った奴だな……まぁ俺で良ければ何かしら協力してやるから言ってみろよ。ちょうど今は客いなくて暇だしさ」
いい人やん。やっぱりめちゃめちゃいい人やんか。
……と、桜井さんの隣に座っている女の子がボソッと言う。
「……客いないのはいつものことじゃないっすか、桜井さん」
「うるせーぞ片桐」
桜井さんは片桐と呼ばれた女の子を軽く小突いた。
「んふふっ。本当のことじゃないっすか」
「本当のことでもそういうことは言わないの。分かったか?」
「はーい」
……なんか目の前でイチャつかれたんですけど。まぁええわ。黙っておこう。
「それで君たちの名前は?」
「相馬です。こっちが深瀬」
「そうか。相馬は何に困っているんだ?」
僕は桜井さんを信用したので、全てを話すことにした。
華村という女の子が学校を辞めさせられそうなこと。それを阻止したいということ。でも阻止するにはゲートを突破しなきゃいけないということを。
桜井さんは僕の話を真剣に聞いてくれて、考える仕草をするのだった。
そして口を開く。
「なるほど。それは葉月も投げ出すワケだ」
「え?」
「アイツは面倒なことを嫌うからな」
「何であの人教師になったんですか」
「俺も本当にそう思うよ」
桜井さんは目をつぶって、わかるわかると頷く。
「それでゲートを突破したいのか。それなら俺に考えがあるぞ」
「本当ですか?」
「ああ本当だ」
そう言うと桜井さんは立ち上がって、奥にあるデスクの方へと向かう。
そしてファイルを取り出し、そのファイルをペラペラとめくりながら言った。
「もったいぶっても仕方ないから話そう。宅配トラックを使うんだ」
「トラック?」
「ああ。宅配トラックは1日に何回もゲート内に入る。だからいちいち荷物を確認なんてしないんだ」
「まさか」
「そうだ。荷台の中にいればいいのさ」
すげえな。その発想は思いつかなかった。……発送なだけに。
「でもでも、そのトラックはどうするんですか?」
僕も気になっていたことを深瀬が聞いてくれた。
「それは友達から借りる。だから今こうやって電話番号を調べてるのさ」
流石探偵、仕事が早い。
その調べている間に、僕は気になっていたことを桜井さんに聞いてみるのだった。
「あと……依頼料って取りますよね?」
「ん? ああ、いいよ別に。君たちお金なんかないでしょ。そのかわり葉月からたんまり頂いておくからね」
おおう。神だ。神的にいい人や。
「お、あったあった。それじゃあすぐ借りてくるから待っててな」
そう言うと桜井さんは探偵事務所を飛び出すのだった。
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