緊急華村団会議!

 ……意味が分からなかった。いや、分かってたまるか。華村が学校を辞めるだと? そんな訳ないだろ。ふざけるのも大概にしろ。


 ……きっと。きっと葉月先生が僕をおちょくるためについた嘘だ。それ以外ありえない。ありえるもんか。


 僕は先生のデスクをバンと叩いた。


「先生! 嘘をつかないでください!」

「ん? 別に嘘なんかついてないさ。……それはお前がよーく理解してんだろ?」


 そう言われて僕は葉月先生をじっと見てみた。……しかし、オーラに特別な変化はなかった。


 眼鏡を信じるのなら、葉月先生は真実を話していることになる。……というかもう葉月先生は本性を出しているし、嘘をつく理由なんてないのかもしれない。


 なら華村がいなくなるのは本当だっていうのか……? クソっ……!!


「なら……!」

「ん?」

「なら学校を辞めるって言われた時、先生はどんな対応をしたんですか!」


 僕がそう言うと、葉月先生は面倒くさそうに顔をボリボリ掻きながら言った。


「別にー。『はい、分かりましたー』って言っただけだよ? んまぁ、やること増えてダルいなーとは思ったけどさ」

「お前……!」


 思わず掴みかかりそうになった右手を、僕は力一杯握りしめた。


 そんな僕の反応を見た葉月は笑いながら言う。


「ははっ、おいおい勘違いすんなよ。別に俺は華村だからそんな対応をしたわけじゃないんだぞ? 矢上でも空野でも片桐でも……もちろんお前でも同じ対応をした」

「はぁ……? 普通止めたり、理由聞いたりするのが教師じゃねぇのかよ!!」


 すると葉月は心底迷惑そうな顔をして


「何だよ普通って。自分の常識を人に押し付けんな」


 と言った。そして葉月は僕からパソコンの方に姿を向け、モニターから目を離さなかった。


「はぁ、もう終わりだ。とっとと戻れ。……分かってるとは思うがこの話は他言無用だからな」


 ……はぁ。抑えろ。堪えろ。耐えろ。……まだ切り札は取っておけ。僕。


「……じゃあ最後に。どうして僕に教えてくれたんですか?」

「さっき言ったろ? 俺が優しいからって……」


 葉月は顔だけこっちを向く。


「あーでももうひとつ理由を上げるなら……面白そうだったから。かな?」


 ──


 職員室を出て、すぐに見知った顔を見つけた。


「そっ、相馬っち!! もう!! 探したよ!! バカッ!!」


 深瀬である。相当慌てふためいているようだが……何で罵倒されたの僕?


 ……でもまぁ恥ずかしながら、深瀬の姿を見た瞬間少しだけ冷静になることができた。やっぱり持つべきものは友……仲間だね。


「深瀬。その様子だと知ってるのか」

「当然です! 新聞部の情報量を舐めないで頂きたいですよ!」


 深瀬は(ない)胸をポンと叩き言った。


「ってそんなことより!! 華村ちゃんが大変ですよー!! 辞めるって!!!」

「ああ知ってる」

「あぁー!! せっかく仲良くなれたのにー! ショックですよ……」


 深瀬は分かりやすくブルーオーラを出しながら、廊下に座り込む。


 そんな深瀬に向かって、僕は言い放った。


「何を言っている?」

「え?」

「僕は絶対に華村を辞めさせたりなんかしない。文化祭一緒に回るって約束したしな」


 僕がそう言うと、深瀬は目を伏せた。


「相馬っち……それは無茶だよ」

「いいや、できる。まだ華村は辞めたわけじゃないし……僕達なら絶対に阻止できる」

「なっ、何を根拠に……?」


 根拠はある。時間もないし足りないピースもまだまだあるが、揃えて華村の親を説得する。そして絶対に阻止してやるんだ。


「もちろんお前の力も必要だ。協力してくれるよな?」

「そりゃできることなら協力しますけど……」


「よし言ったな。放課後教室に集合だ。……絶対に助けてやるからな華村……!」


 ──


 放課後。僕と深瀬は教室に集合し、緊急華村団会議を開始した。


「それで相馬っち。本当に阻止できる算段はあるの? 華村ちゃん家に殴り込みに行くとかじゃないよね?」

「違う。僕だってそこまでバカじゃない」


 もちろん僕にだってちゃんと考えはある。


「とりあえず最初から確認していくぞ」


 深瀬に分かりやすく説明することと、自分の考えを整理するために、1つずつ確認していくことにした。


「まず1つ。華村はなぜ学校を辞めるようなことになってしまったのか。分かるか?」

「んーそうだなー。遊びすぎで成績が下がったからとか?」


 僕は指を3つだけ立てる。


「30点だ」

「え? というか何でクイズ形式なの? 私を試したの?」


 深瀬のツッコミを無視して僕は言う。


「成績が下がっただけならさほど問題はないだろう。華村なら幾らでも取り戻せるからな」

「んー、なら遊びが正解なの?」

「ああ。正確に言えば『僕と遊んだから』だ」

「……はぁ?」


 そう。おそらく……いや、絶対に僕のせいなのだ。


「いや、どうもおかしいと思っていたんだ。いくら近寄り難いとは言え、全く華村に友達がいないなんてな」


 華村は確かに変わったところのある、近づきにくい人物だ。でも、性格は悪いどころかむしろ良い方だしオマケに美人。そんな人物が1人でいるなんて普通ありえないだろう。


「まぁ氷の女王なんて言われてるもんね。……あ、氷の女王と言えば『マラと氷の女王2』が最近公開されてるね」

「そう。それだ」

「え、マラ氷?」

「違う……なんだその略し方は」


 深瀬の言ったよく分からない映画はとりあえず置いておいて、僕は話を進める。


「氷の女王の方だ。華村にはそんな異名が付けられているが、深瀬はその名付け親を知っているか?」

「えー? それは私でも知らないなぁ……?」

「うん。僕も知らないし、矢上も知らなかった。……こっからは僕の予想になるんだが、この異名を流行らせたのは華村の親……もしくは華村ん家のお手伝いさんとかそこら辺だと思う」

「えぇ!? 何でそんなことするんですか!?」


 深瀬は女子高生特有のめっちゃ高い声で叫んだ。


「うっせ。……まぁそれで僕は華村ん家のお手伝いさん……黒川に会ったんだけど、僕のことを全く良い風に思っていなかった」


 アイツは黒いオーラまで出したしな……中々出ないよ黒は。


「それに華村のLimeは家族しか登録されてなかった。これは友人関係を厳しくチェックしているからだったからなんじゃないかな」

「えー! 私Lime交換しましたよ!?」

「僕もしてるけど。多分もうやり取りは出来ないんじゃないかな」

「えぇ!?」


 深瀬はまた叫んでLimeを開いた。


「ぬぁー!! 消えてるぅ!!」

「やっぱりか。これで親は華村の交友関係をバッサリ切りたがっていると確信できたな」


 とにかく親サイドは、華村の友達を近付けさせたくないらしい。何か理由は絶対にあるはずだが、それはまだ見つけられていない。


「そして2つ目、華村の母のことだ。……一応聞いておくけど、深瀬は華村母について何か情報を持ってるか?」

「いや、無いですよ。調べたこともないし」

「だよな。深瀬の情報なんかに期待するべきじゃなかったな」

「は?」


 深瀬にひっぱたかれながら僕は言う。


「待て待て! 僕は華村から聞いたから、情報あるぞ!小さい頃はケーキ食べ放題に連れてってもらったり、背中をさすって華村を慰めたりしてたらしい」

「え、普通にいいお母さんじゃないですか」

「そう。小さい頃はな。でも今は違う。華村も『前はそんなんじゃなかったのに』みたいなことを言っていたと思う」


 華村と会話した時、確か華村はそんなことを言っていたはずだ。


「だから『何か』が起こって華村母は変わってしまったんだ」

「なるほど……ならその何かは?」

「それは知らん」

「は?」


 深瀬はまた僕をひっぱたこうとする。


「おい! だから深瀬に『華村の過去の友達』『華村の家族について(主に母)』『華村の住所』を調べて欲しいんだ! いくつもスクープ撮ってるお前なら余裕だろ?」


 僕はスクープという言葉を使って、上手く深瀬に依頼をした。


「ま、まぁ私にかかればそんなの? 余裕ですけど? 未来の新聞部部長ですし?」

「よし、ありがとう。明日までに全て揃えてくれ」

「え、明日ァ!? そんなの無茶ですよ!」

「頼む……本当に時間がないんだ。間に合わなくなったら一生華村に会えないかもしれないんだ……!!」


 僕は深瀬に頭を下げて必死にお願いした。


「ちょ、そんなの止めてよ相馬っち。頭上げて。やるだけやってみるからさ。……でもそんなに期待はしないでよね?」

「ああ。ありがとう。良い情報を待っている」


 僕は頭を上げ、深瀬と握手をした。


「……ん? なら今日は相馬っち何するの? まさか私にだけ仕事押し付けるわけじゃないよね?」

「まさか。僕も華村を助けるため、行動を起こすつもりさ」

「じゃあ何をするのさ」

「明日おしえる」

「えー! 教えてよー!」



 ──




「もしもし。黒川さんですか? ……僕です。……はい。そうです。相馬です」

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