ヤンキーぼーい


 次の日。今日も僕は早い時間に学校へ行くことを決めた。もちろん深瀬に会って情報を得るためである。


 軽い朝食を取り、自転車を必死に漕いで学校に到着。そして自分の教室に荷物を全部置いて深瀬の所へと向かうのだった。


「確かアイツは4組だっけ……?」


 そう思って僕は廊下から4組の教室を覗いてみる。すると深瀬と思わしき人物が机にうつ伏せで寝ているのを発見した。


「おーい、深瀬!」


 僕が呼びかけると、深瀬はゆっくりと起き上がってこっちを向いた。……そんな深瀬の目元には大きなクマがあった。


 僕は思わず声が出てしまう。


「うわっ!」

「相馬っち……? あはは、相馬っちだー」


 深瀬はフラフラになりながらも、僕のいる廊下の方へと歩いてきた。


「え、おい深瀬? 大丈夫? ちゃんと寝た?」


 僕が尋ねると深瀬は、子供のような舌足らずの喋り方をして言う。


「だいじょぶだよー。えへへ……あんまり情報掴めなかったけど許してほしいなー?」

「許す! 許すから寝て!?」


 どうやら深瀬は極限まで疲れると、素直な状態になるらしい。こんな情報は知りたくなかったぞ。


「それじゃ……これ渡しとくね」


 そう言って深瀬は僕に小さなメモ帳を手渡してきた。


「これに……いろいろ…書いてるから。後はガンバって……?」

「おい深瀬! おい! 死ぬな!」

「もう……だめぇ……」


 そのまま深瀬は体重を全部載せて、僕にもたれかかってきた。


「ふっ……深瀬ぇー!!」


 ──


 結局僕はアイツを保健室まで運んでいった。まぁ深瀬がああなったのは僕のせいだし、せめてもの罪滅ぼしってことだ。


 そして僕は教室に戻りながら、深瀬からもらったメモ帳を開いた。


 ──


 華村ちゃんの住所……地図参照。


 華村ちゃんの家族……

 母、情報ナシ。謎。

 父、大企業の社長。今は海外にいるらしい。

 弟、東中学校在学。ヤンキーらしい。


 過去の友達……

 友達はいたらしい。でもいつからか笑わなくなって、友達を避けるようになったらしい。


 ──


 メモ帳には地図も挟まれていた。僕はそれを広げてみる。


 すると右端の方に赤い丸が記されていた。恐らくここが華村の家なのだろう。僕はそこを詳しく見てみた。


 確かここは……高級住宅街だったような。ここからまあまあ遠いな。


 それで家族についてだが……母は情報無しか。まぁそれより気になるのは弟だよな。


 ヤンキーってマジかよ。これ絶対何かしらこの問題に関わってそうだよな。


 ……会いに行こう。僕は決めてからの僕の行動は早いのだ。


 ──


 放課後。僕は東中学校へと向かった。ここからは少し遠いが、そんなの言っている場合じゃないからな。


 自転車を飛ばし、東中の制服を着た下校途中の男2人組の生徒を捕まえて話を聞いてみることにした。


「なぁちょっと君達。東中にいる華村って人知ってる? 探しているんだけど」


 すると生徒2人は顔を見合わせる。


「え、それって華村修也はなむらしゅうやのことだよな」

「はは、華村なんてアイツしかいないだろ」


 どうやら2人は知っているらしい。


「華村修也。そいつが今どこにいるか分かるか?」

「さぁ? コンビニにでもたむろってるんじゃない?」

「ああー。俺ん家前のローンソによくいるぜあいつ」

「そうか。ありがとう。行ってみるよ」


 2人から情報を得た僕は、また自転車を走らせるのだった。


 ──


 いくつかの近所のコンビニを巡っていると、それっぽいヤンキーを発見した。


 学ランを着た茶髪の少年が、コンビニの前でヤンキー座りをしながらフランクフルトをかじっていたのだ。


 本当にTheヤンキーという感じで、とてもあの華村の弟には見えなかった。きっと別人だろう。


 ……と、僕がじっと見ていたことに気がついたようで、そいつは口を開いた。


「……あ? 何見てんだよ?」


 うわっ。ガンつけられた。まだこんな喋り方のヤンキーっていたんやね……


 でも念の為確認をしておく。


「いや、もしかして君が華村修也君かなって」

「……誰だテメェ」


 名前を呼んだ途端にその少年の僕を見る目付きが更に鋭くなった。え、嘘っ、マジで華村の弟かよっ!


 少年は立ち上がり僕にどんどん近づいてくる。この状況は非常にいけない。やばい。ギガやばす。


 こっ、この場を切り抜ける一言とは……!


「とっ、とりあえずフランクフルトもう一本奢るから、話を聞いてくれないか?」


 食べ物だ。ヤンキーと動物を落ち着かせるには食べ物が1番って誰か言ってた。つまりヤンキーイコール動物……いや、なんでもない。


 さぁ……それで少年はどう反応する!?


「……からあげサン」

「……え?」

「からあげサンならいいって言ってんだよ!」

「は、あはは。おーけいおーけい分かったよ」


 どうやら助かったようだ。流石からあげサン。……ヤンキーが、ただの唐揚げにさんを付けてるのがなんか面白くない?


「何笑ってんだてめぇ」

「ひっ……ごめんなさい」


 僕は逃げるようにローンソの店内に入るのだった。


 ──


「……で、お前誰だよ。見たところお前生徒指導の奴でもなさそうだしよ」


 僕が買ってきた唐揚げを頬張りながら修也は言う。


「僕は相馬。君のお姉さんの同級生。それで君に会いに来た理由は……そのお姉さんを助けるためなんだ」

「はぁ? まだ姉ちゃん狙いの奴とかいたのかよ」

「……え?」


 修也の言った意味がよく分からなかったので、どういう意味かを聞いてみた。


「え、それってどういうこと?」

「はぁ? 違うのか?」

「違うって何が?」


 僕が言うと修也は、イラついた顔をしながら唐揚げを口に入れてこう言うのだった。


「チッ……あのな、ウチの姉ちゃん物凄い美人じゃん。だから紹介してくれってオレに行ってくるアホ共がいたの」

「うん」

「だからオレはそいつらに向かって言ってやったの。『姉ちゃんは女王様みたいな性格だから、お前みたいなのは絶対に相手にされない』ってな」

「……」

「ンだよ急に黙って」


 はっ……こっ……コイツかァ!!!! 華村に異名を付けたのは!!! お前のせいで華村がどれだけ苦労してると思ってんだよォ!!!


 ……とキレたかったが、そんなことをしても現状が変わる訳では無いことは分かっているので、心の中にそっとしまっておくことにした。


「いや別に……それより華村。今華村が大変なの知ってるだろ!」

「分かりにくっ、名前で呼べよ。……で、姉ちゃんが大変って何だよ。どういうことだよ」

「え、知らないわけないだろ。はなむ……桃香が学校を辞めるって話……」


 そこまで言うと修也は僕の話を遮って叫ぶ。


「え!? は!? そうなの!? 何で!?」

「え、本当に知らないの?」

「知らない知らない、え、マジで!? どうしてだよ!?」


 修也はガチで驚いていた。どうやら本当に知らなかったらしい。……でもそんなことってあるのか?


「いやいや、家族で話したりしないの? 仮にしなくてもそんな風な会話とか聞こえてくるでしょ」


 すると修也は僕を驚かせる一言を言うのだった。


「いや……だってオレ一人暮らしだもん」






「えぇ……どういうことなの?」

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