相馬君クッキング!

 ──相馬の家──


「ほい、上がってどーぞ」


 扉を開いたままにして、僕は2人に呼びかける。


「それでは。おじゃまします」

「おじゃまー!」


 そして2人をリビングへと案内する。そこでリビングのソファで寝転がっている妹と目が合った。


 朱音は僕を見るなり大きく目を見開いて、水色のオーラを出す。


 そしてバッと起き上がり、困惑したような顔をして言うのだった。


「えっ、お兄ちゃん……? そ、その後ろの女の子たちは?」

「ん、友達だけど。こっちが華村で、こっちが深瀬……」


 言い終わる前に朱音は叫ぶ。


「嘘つかないでよ!! お兄ちゃんに女の子の友達なんかいるわけないじゃん!!」

「めちゃくちゃ言うねお前」


 いないとか決めつけんなよ。お兄ちゃん凹むよ?


「……で? 何で連れて来たの?」

「訳あって家に来ることになったの。飯も一緒に食べることになったけどいいよな?」

「……」

「朱音?」

「……あ、いや、お兄ちゃんが女の子にいくら積んだのかなって」

「いくらも払ってねぇよ!」


 どんだけ信じてないんだコイツ。シバくぞ。


 そんなやり取りを見ている深瀬が笑って言う。


「ははっ! 面白いですね、相馬っちの妹ちゃん!」

「面白いじゃなくて生意気って言うんだ」

「えー? しかもこんなにかわいーのに。華村ちゃんといい勝負するよー?」


 そう言うと深瀬は朱音の前に立ち、ほっぺたをぷにぷにとする。


「……んっ」

「ああっ……きゃわいい゛!! ああ!!ぎゃわいいねぇ!!」


 なんか限界オタクみたいなってんなアイツ……深瀬はぷにぷにを続ける。


「……」


 朱音は何も言わないが、明らかに嫌がった顔をしている。……別に止めさせはしないけど。


「ほんとにかわいいねぇ……ねぇ相馬っち持って帰っていい?」

「いいよ」

「即答ゥ! 本当に持って帰りますよ!」

「おう」


 と適当に返事をしながら、ふと華村の方を見てみる。すると、その深瀬と朱音のやり取りをじっと眺めていることに気がついた。


 微笑ましく眺めている……と言うよりは何だか真剣に見ているような……


「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」


 朱音は深瀬にベタベタと触られながら、ぶっきらぼうに言う。


「今日お兄ちゃん料理当番でしょ。早くご飯作ってよ」

「ああ、分かってるよ」


 僕もお腹空いてきたし、とっとと料理をしようかな。


「それじゃあ2人とも。待っている間朱音の相手でもしてくれないかな」


 そう言って僕はキッチンへと向かった。


 ───


 さぁ始まりましたぁ!! 相馬くんクッキングゥー!!!


 まずはクック〇ッドを開きまぁす!!!


 そして書いてある通りにやりまーす!!!


 〜fin


 ──


「そろそろできるから集まれー」


 僕がそう言うと、深瀬を先頭に3人がテーブルに集まってきた。


「いい匂いがしてたからお腹減ったよー! 早く食わせろ?」

「おい本性出てるぞ」


 深瀬はほっといてだな……華村はどんな反応をしてくれるのだろうか……


 と、僕が華村をじーっと見ていると、それに気がついたようで、華村は微かに笑って言うのだった。


「相馬君の料理……楽しみですよ!」


 ……聞きました? 聞きましたか皆さん。あの華村が僕の! 僕の料理を楽しみにしてくれてるんですよ!!


 これ以上幸せなことがあるだろうか。いや、ない。


「そっか! 嬉しいな! ささ、座って」


 僕はウキウキで華村の椅子を引いて、お座りくださいの姿勢をする。


「うわっ……露骨に好感度稼ごうとしてるよ相馬っち」

「……きもー」


 なんか残りの2人が軽蔑するような目で見てくるが、無視だ。無視。


 そして僕は3人の前にパスタの載った皿をコトっと置く。自分のも置く。


「さぁお待たせ。相馬特製の和風パスタですよ」

「嘘つくなお兄。クック〇ッド産でし……」

「うるさいうるさいよ!! 文句言う子は食べなくてよろしくてよ!!」


 ……全国のお母さんもこんな気持ちで叱ってるのかな。怒りたくて怒ってるんじゃないんだね。やっと分かったよ。


 マミー。これで僕も立派な主夫になれるかな……


「ねぇ相馬っち。もう食べていい? まだー?」


 と深瀬がフォークを持ってテーブルをガンガン叩く。


「お行儀が悪いッ!!!」

「ぶー」


 ホントこいつらから飯取り上げてやろうか……


 イライラしながら僕も椅子に座って、いただきますの合図をする。


「はい。それじゃあ手を合わせて……」


 \パァン!/


 深瀬が大きな音を立てて手を合わせる。


 いつもならスルーするだろうが、イラついていた僕はつい言ってしまった。


「優しく手を合わせましょうねー。深瀬ちゃんは小学生なのかなー?」


 すかさず深瀬も言い返す。


「私の所は音出してもよかったんですー。なんなら音出した方が褒められてましたぁー!」

「知ったことではないですぅー! 僕ん家のルールに従ってもらいますぅー!」


 と僕らがギャーギャー言い合っていると。


「あの……喧嘩は駄目ですよ」


 と、華村が僕らに向かって言ったのだった。


 それを聞いた僕と深瀬は、お互いに何秒間か顔を見つめあって「あっ……やっちまった……」みたいな顔をした。


 そして僕は誤魔化そうとする。


「いやっ、あの、華村。これは一種のパフォーマンスみたいなもので……本気で喧嘩してるんじゃなくて……」

「そ、そうです! これはプロレスみたいな物なんですよ!! 相馬っちと本気で喧嘩するわけないじゃないですかー! やだなー!」


 と、僕と深瀬はがっちり握手をして、仲良しアピールをする。


 華村は不思議な顔をしながらも


「……よく分かりませんけど、仲良しならいいですよ。相馬君、もう一度合図をしてくれませんか?」


 と言った。


「は、はい! それじゃあみんな手を合わせて!」


「「「「いただきます」」」」


 ……金輪際、華村の前では優しい人間でいよう。そう思いながらパスタをすする相馬君であった。


 ──


 夕食後、僕はみんなの皿を洗っていた。全ての皿は綺麗に完食されていたため、少し嬉しい気分になっていた。


 ……と、僕の皿洗いを眺めている人物が1人。


「相馬君、手伝いましょうか?」


 華村である。


「いやいや、いいんだよ。華村はお客さんなんだから好きなことでもしていてくれ」

「そうですか。……なら相馬君とおしゃべりしたいです」

「えっ」


 その発言にびっくらこいて、お皿を落としそうになったが、素早くキャッチした。ナイス僕の反射。


「えーと僕はいいけど……深瀬とか朱音でもいいんじゃないか?」

「2人は今、突風のライブDVDを叫びながら見ています。だから邪魔するのは悪いかなと思ったのです」

「そうなのか」


 何だかんだあの2人似てるし、共通の趣味もあったのか。仲良くなれたようで安心した……まぁそれは置いといて。


「……それでおしゃべりかー。そうだなー」


 僕は会話のネタを探す。うーんと……えーっと。


「そうだ、来週には文化祭があるだろ」

「はい、ちょうど来週にありますね」


 僕は大きく深呼吸をする。そして華村にこう提案するのだった。


「そう、その文化祭……よかったら僕と一緒に回ってみないか?」


 これは少し前から考えていたことだが、言うタイミングがなくて中々言い出せなかったのだ。


 それで華村の反応だが……華村は黄緑色のオーラを出していた。


 黄緑……? 初めて見たけど……嫌がってはいないよな……?


 とりあえず続けて僕は言う。


「文化祭なんて絶対行かない……って思ってたんだけどさ。華村となら楽しめる気がしたんだ」

「私となら……楽しめるのですか?」

「うん。きっと楽しめるさ」


 これまで華村と色々な遊びをしてきたけど、楽しくなかったことなんて1回もないんだから。


「そうですか。別に相馬君が良いのなら……いいですけど」

「ホント? 良かったー」


 華村が了承してくれたことに僕は安堵する。


「それで、どんなことをするのですか?」

「そうだな……色々なクラスの展示品を見たり、食べ物を買ったりしよう。どうせ僕らのクラスの手伝いなんかしなくていいだろうからさ、回る時間は沢山あるはずだよ」


 僕は笑って言う。華村も微笑んだ。


「分かりました。楽しみにしておきますね」

「ふふっ、約束だぞ」

「はい。やくそくです」


 ……それで会話が終わった後も、皿洗いが終わるまで華村は優しい目で僕を眺め続けるのであった。

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