たんけんかごっこ! つー!

 

 ──静寂の館(図書室)──


 この学校の館(図書室)は数万冊もの本が蔵書されているらしく、中には漫画やライトノベルも置いてあるようだ。無駄に気合いが入ってんな。


 そして中央には本を読むスペース、端っこには自習ができるスペースも完備されている。


 それにとても静かな環境であるので、本が好きな人にとっては心地よい場所だときっと感じるだろう。


 ……まぁ僕は月に1回来る程度なんだけどね。んじゃあ早速探索していこう。


「あの……相馬隊ちょ……」


 数歩歩いた所で華村が僕に話しかけようとしてきたので、僕は「静かに」のジェスチャーを華村に見せつけた。


「……!」

「……ここは書物守護者ブックガーディアンが見張りをしている。だから大きな音は立ててはいけないんだ」


 僕は小声で華村にそう伝える。……だが上手く伝わらなかったようで、華村は首をこてんと傾けた。


「ぶっく……がーでぃあん?」

「……図書委員のことだ」


 説明するのが無性に恥ずかしくなったので、僕はそそくさと奥の本棚へと早歩きして行った。


「……」

「あー待ってください隊長ー」


 ……で結局やって来たのはライトノベルコーナーの本棚である。とりあえず軽く見てみるか。僕は上から下へと目線を移動させる……


『妹が可愛くて仕方ない!』『俺の妹言う通り!』『妹に愛されてるんですけどぉ!?』『僕の妹はPhoenix』……


 いやおい待て。なんだこのチョイスは。どんだけ妹推しなんだよ。こんなん学校に置いていいのかよ。


 僕はそう脳内でツッコミながら『妹が可愛くて仕方ない!』を取り出して表紙を見た。するとピンク色の髪をしたスクール水着姿の美少女がピースしている萌え絵がお見えになった。


 これが……妹なのか……? イズディス……imouto? これがJapanese妹? Heyクール・ジャパン?


 ……と僕のよく分からない脳内外国人が出てきたが、すぐに端っこに追いやって冷静になる。


「……妹に幻想を抱き過ぎだろ」


 そう呟いて僕は本をそっと戻した。いわゆる『そっ戻』である。言いにくいね。


 で話を戻すけど……僕はどうも妹物のアニメや小説は苦手で好きになれないのだ。


 現実とフィクションを混同させるな、という意見はごもっともであるが、どうしても僕はリアル妹がチラつくから読めないんだよな。だからせめて血の繋がってない設定にしてくれ……!


 ……まあ最後の。この『僕の妹はPhoenix』は正直読んでみたいんだけども。超気になるんだけども。


「ん、相馬隊長はこの本を借りるのですか?」


 そんな僕の気持ちでも読み取ったのか、華村が隣からひょこっと出てきて『僕の妹はPhoenix』を本棚から取り出して言う。


「い、いや、借りないけど?」


 だけどなんか急に恥ずかしくなったため、僕は咄嗟に借りないと口にしてしまった。すると。


「そうなのですか。……なら私がこれ借りますね」

「えっ!?」


  そう言って華村はもう1つの本……『僕の妹はPhoenix』の2巻も手に取った。


 え、ちょっと待て。華村こういう本読むの? いやいやまさか……きっと華村なりのジョークだろう……


 と思っていたのだが、華村はその本を棚に戻す素振りを全く見せずにいた。まさか本当に借りる気なんじゃないだろうな……


 野暮だとは思ったが、僕は華村に言わずにはいられなかった。


「あの華村隊員? これはラノベ……深夜映像作品視聴者ミッドナイトアニメウォッチャーとかが好む本だから華村隊員には向いてないのでは……」

「……はて。よく言っている意味が分かりませんが、私はこういう本はよく読みますよ」

「え゛え゛!?」


 静かな場所で大きな声を出してしまったので、図書委員ブックガーディアンがこちらを白い目で見つめてくる……がそんなことはどうでもよくて!!


「え、読むの!? これを!? ラノベを!?」

「はい。何か不思議でしょうか?」

「い、いや……てっきり華村は何か純文学とか難しい本を読むのかと……」


 めっちゃ意外だ。華村は僕のようなオタク系の本なんか全く読まないと思ってたから、とても驚いてしまった。


「私は恋愛小説が特に好きなので、こういうのをよく読むのですよ」

「そうなんだ……でもその本男向けなんじゃ……?」

「別に私は男の子が恋してるのを読むのも好きですよ?」

「へぇ……」


 そして華村は『僕の妹はPhoenix』の1巻と2巻を抱えて、受付の方へと歩いていった。


 そして立ち尽くす僕。


 いやぁ……たまげたなぁ。まさか華村がラノベ読んでるとはな。矢上にでも教えたらきっとびっくりするだろうなこれ。


 ……おっといけない、早く僕も何か本を借りよう。


 僕は目をつぶり、おみくじ感覚で棚から適当に本を取り出した。


 手探りで本を触って取り出す。よし……! コレだ──


『絶対に伝わる! 話し方のコツ10選!』……?


 なんでラノベコーナーにこの本があんの? 返す場所絶対間違えてない?


 しかし……この妹系の本が詰まったこの本棚の中では、比較的……いや、1番読めそうな本だよな。


 そう思った僕はそれ以上は深く考えずに、その本を持って華村の後ろを追いかけた。


 ──


「次はどこに行きましょうか」


「そうだな、『草原地帯グラスフィールド』にでも行こうか」

「グラス……フィールド……!」


 繰り返して華村が言う。だから体がゾワゾワするから繰り返さないでほしいんだが……


「で、それってどこのことですか?」

「すぐに分かるさ。それじゃあ着いて来るんだ」

「はい、隊長」


 僕らは館(図書室)を出て、階段を降り(もちろんアラームに気をつけながら)下駄箱の所へやって来た。


「もしかして外にあるのですか?」

「ああ」


 そして僕らは外靴履き替えて移動し……第2グラウンドの前に到着した。


「ここが草原地帯グラスフィールドだ」

「なるほど、確かに草原みたいな場所ですね」


 この第2グラウンドは第1グラウンドとは違って、砂の代わりに人工芝が生えているのだ。


 ……人工芝が生えるってなんか日本語がおかしいような……まぁいいや。それでここは体育の時間でもよく使われる、お馴染みの場所なのだ。


「それで何をしに来たのですか?」

「見れば分かるだろう。そこに球体使い……サッカー部が練習しているだろう? 友人がいるからたまには応援でもしてやろうと思ったのさ」

「そうなのですか」


 そう。僕がここに来た理由は矢上の部活を応援するためだ。


 随分前に「相馬、俺サッカー部入ったからさ、練習見に来てくれよ!」と矢上にキラキラの笑顔でそう言われたのを最近思い出したので、学校探検のついでに来てあげたのだ。なんて僕は優しいんだろうな。はは。


 そうして僕らは第2グラウンドの端っこの方に座り、数少ない僕の友人、矢上を探すことにした……のだが。


「……こっからじゃ顔が見えないな。困ったぞ」


 端っこで見ているので、選手達のの顔が豆粒程度にしか見えず、どれが矢上だか分からずにいた。


「じゃあ叫んで応援してあげたらどうですか?」

「絶対嫌がるだろ……」


 しかしこれ以上近付く勇気もないので、諦めて別の場所へ移動しようとした時……




「あれっ、相馬と……こっ……氷の女王?」


 背後から声が聞こえてきた。


 振り向くと、サッカーのユニフォーム姿の矢上が大変驚いた表情を……



 ……いや、世界でも終わったかのような表情で僕らを見ていた。

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