『シュレーディンガーの猫』と有馬記念
第1話 マッハは時間も跳躍するはずだ
現在昼休み。
ここは理科準備室。隅の方では石油ストーブ上にのせてあるヤカンから絶えず蒸気が噴き出している。
いつものようにお弁当をパクパク食べているのは三谷の教え子、
「マッハのパーツって少ないよね。ゼッツーとは大違いじゃないか」
「見たな。貴様の目玉をえぐり取ってやる」
「ふははははは。これだ、これしかない」
三者三様、各自の世界に浸りっていた。ここではお互いに干渉しないのが暗黙の了解となっている。
星子はベアリングを撫でまわし、知子はヤホオクでバイクパーツの検索をしている。そして三谷教諭が眺めているのはこの資料だった。
2017年「第62回 有馬記念」出走表
馬番、馬名、単勝オッズ、性別、馬齢、斤量、騎手
①ヤマカツエース 24.6 牡5 57.0 池添謙一
②キタサンブラック 1.9 牡5 57.0 武豊
③クイーンズリング 33.1 牝5 55.0 C.ルメール
④ブレスジャーニー 71.7 牡3 55.0 三浦皇成
⑤トーセンビクトリー 159.5 牝5 55.0 田辺裕信
⑥サトノクロニクル 70.7 牡3 55.0 戸崎圭太
⑦シャケトラ 29.6 牡4 57.0 福永祐一
⑧レインボーライン 44.7 牡4 57.0 岩田康誠
⑨サクラアンプルール 72.9 牡6 57.0 蛯名正義
⑩シュヴァルグラン 6.7 牡5 57.0 H.ボウマン
⑪ルージュバック 55.4 牝5 55.0 北村宏司
⑫サトノクラウン 9.8 牡5 57.0 R.ムーア
⑬ミッキークイーン 19.6 牝5 55.0 浜中俊
⑭スワーヴリチャード 4.5 牡3 55.0 M.デムーロ
⑮カレンミロティック 204.8 せん9 57.0 川田将雅
⑯サウンズオブアース 132.9 牡6 57.0 C.デムーロ
[着順]
1着②キタサンブラック 牡5 57.0 武豊 2:33.6
2着③クイーンズリング 牝5 55.0 C.ルメール 1 1/2
3着⑩シュヴァルグラン 牡5 57.0 H.ボウマン ハナ
4着⑭スワーヴリチャード 牡3 55.0 M.デムーロ クビ
5着⑪ルージュバック 牝5 55.0 北村宏司 1 1/4
[払い戻し]
単勝
2 190円
複勝
2 120円
3 550円
10 180円
枠連
1-2 1,600円
馬連
2-3 3,170円
ワイド
2-3 1,180円
2-10 280円
3-10 2,760円
馬単
2-3 3,810円
3連複
2-3-10 5,420円
3連単
2-3-10 25,040円
「枯渇している研究費を充当する絶好の方策を思いついたのだ。このあいだの屈辱を晴らしてやるぞ」
その話に知子が食いついてきた。
「え? ミミ先生どうやって稼ぐのさ。あ、ついでにマッハのパーツも仕入れてくれる?」
「うむ。儲かればな。星子は何か欲しいものがあるかな?」
「私は2TBのハードディスクかな。アニマックスを録画しまくるから」
「ふふふ。そんなものは即買ってやる。儲かればな」
「ミミ先生。何ニヤニヤしてんだよ。本当に儲かる話があるのかよ」
「ある」
「平和など幻想にすぎない」
「星子黙ってろ。で、どうするのさ」
相変わらず妄想にふける星子を制して三谷に詰め寄る知子。
にやけ顔の張り付いた三谷は胸をそらし自慢げに返事をする。
「ふふふ。先月の実験でKAWASAKI 750SSマッハⅣが光速を超えられる事が実証された(注)」
「そうですね」
「それは、マッハが時間軸に対して駆動力を持っているからだ」
「うん、ミミ先生の話ではそうだった」
「それはつまり、時間を超える能力があるという事なのだ」
「時間を超えてどうするのさ」
「強盗して逃げちゃえば捕まらないとか。うひゃあ」
「ちがう。競馬だ。これは昨年の有馬記念の出走表だな」
「そういえば去年の暮に盛大に外したって自慢してたよな。それじゃあ結果が分かってるレースの馬券を過去にさかのぼって買う。そして儲けるって話?」
「さすがは綾川。察しがいいな」
「大佐は競馬なんかやっても絶対に儲からないって言ってるよ」
「普通はそうなんだ。結果は見えない。でも、あらかじめ結果が分かっているなら100%的中するって事じゃん」
「そうだとも。後はマッハが正確に過去にさかのぼれるように調節しなくてはいけない」
「また改造するのかよ」
「ふふふ。今夜8時に集合だ。遅れるなよ」
「行っても手伝えることないだろうけど、面白そうだな」
「調子に乗るな、このクソガキが」
「何訳わかない事言ってんだよ。ギー先生釣らなきゃいけないから星子も来いよ」
「了解しました。大佐殿」
「私は大佐じゃないんだけどな。面白そうだなミミ先生」
「ふははははは。時空を超えて大金を掴むのだ。ははははは!!」
理科準備室に三谷の笑い声が響く。もちろん、通りがかった教頭に注意されたことは説明する必要はないだろう。
(注)マッハが光速を超える実験に関しては「マッハで光速を超えよう!」を参照してください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます