邪なる存在
第5話 これは魔法少女ですか?
久々に乗ったが、相変わらず扱いやすいスーパーカブである。
自慢ではないが、俺は免許を取るまでずっとこのカブに乗っていたのだ。この車両の扱いはお手の物だったりする。
「おい朱人。それは無免許というやつではないのか?」
俺の心を読んだ京の突っ込みが入る。なかなか鋭い。
「京様。ここら一帯、実家の所有なんで私有地です。道路は私道ですから問題ありません」
「ふん。そんな言い訳が通用すると思っているのか? 私道は自宅周辺と山間部の林道だけだろう。貴様は県道や国道までも我が物顔で走り回っておったわ。全て知っとるぞ」
さすが実家の裏山に祭られていただけはある。非常に鋭い突っ込みだが、既に時効という事で勘弁してほしい。一応言い訳をするが、この近辺で原付やトラクター等の小型特殊、軽トラ等を無免許で運転していた例は山ほどある。俺だけではなくこの地域の若者の専売特許みたいなものだ。
「仕方がないのお。そういう事にしといてやる。もうすぐ現場だ」
「分かりました」
大体の場所は把握している。
俺はわき道に入り、現場を見通せる小高い場所へとカブを走らせた。
パンパンと花火の音のような銃声が響く。しかし、散発的で効果的な攻撃という感じはしない。
細いけものみちを上り詰めるとそこは崖になっており、ちょうどその下で自衛隊のトラックが燃えていた。
そこにいたのは数匹の巨大なムカデだった。そう、全長が二十メートル程度だろうか。胴の太さも一メートル以上ありそうだ。その巨大なムカデが五匹。自衛隊の車両に巻き付き、隊員を頭からかじり、毒液をまき散らしていた。その毒液に触れた車両は溶解し始め、またそれに触れた隊員も断末魔の悲鳴を上げて即死した。
「京様、アレ何なんですか!? まるっきり怪獣映画じゃないですか。自衛隊は武器持ってないんですか? やられっ放しですよ」
「残念だが、基本的に災害派遣では銃火器を所持していないのだろう。9ミリの拳銃弾では屁のツッパリにもならんがな」
「ああ、どんどん食べられてる。京様。どうするんですか。このままじゃ自衛隊全滅ですよ」
「もちろん殴り込む。朱人覚悟はいいか!?」
「え? 私が殴り込むんですか??」
「貴様しかおらん。我の体は無いからな」
「しかし、どうすれば……」
「気にするな。私に任せておけ」
突然眩い光に包まれた。また京に抱きつかれた気がしたのだが、食事の時とは違い今度は意識がはっきりとしている。体中にエネルギーが溢れるようで、俺自身が京と一体化したのだと直感した。
「朱人。貴様の体を借りるぞ。うおおりゃぁあああ」
京が雄たけびを上げる。それと同時に俺はジャンプしてムカデたちの真中へと飛び降りていた。自分の体が自分でなくなったような感覚。しかし、体の奥から、心の底から力が噴き出してくる不思議な感覚があった。
「朱人。深く考えるな。正義の衝動に身を任せよ」
「はい」
俺はジャンプして上昇しながら一匹のムカデにパンチをお見舞いした。パンチの衝撃でそのムカデの頭は破裂して消し飛んだ。
「やあっ!」
同時に右手から光の弾を放っていた。その光の弾は他のムカデの頭部に命中し、そのムカデの頭部は爆発した。
「その調子だ。あと三匹」
「はい」
京の声に応えるものの、どうしてこんな風に体が動くのか、あんな技が使えるのかはわからない。しかも、現在は空中に静止している状態なのだ。そういえば京は法術を使うとかそういう話をしていたから、これは法術というものなのだろう。ゲームやアニメでは魔法と言われている力だと思う。理由は分からないのだが、京と一体化しているが故発揮されている力だと思う。それでも体中に力がみなぎるこの感覚は爽快であり非常に大きな快感だと思う。病みつきになりそうだ。
体を伸ばし襲い掛かってくるムカデに雷をまとった蹴りを加える。そのムカデはい一瞬痙攣した後に全身が弾けた。
残りは二匹。その中の一匹がこちらを向き話し始めた。
「再び我の前に立ちふさがるか。クレドの手下め」
「私は京。大いなる大地の守護神であるクレド様の分霊。お前たちの思い通りにはさせん!」
俺の口がしゃべっているのだが、少女の声だった。俺は手に持っていた錫杖? を振った。そして何故か、白い手袋をしていた。どうしてこんなモノを持っていたのか、そして手袋をしているのかは謎だったが、錫杖の先にはめ込んである紫色の宝石から雷がほとばしり残った二匹ムカデを撃った。
二匹のムカデは痙攣した後に全身が弾けた。それなのにムカデは喋る。
「小賢しい豚め。しかし、体を失った貴様など怖くもないわ」
「負け惜しみか? このヘタレめ」
「次はじっくりといたぶってやる。覚悟しておけ」
その言葉を残し、ムカデは動かなくなった。
「逃げたな」
「そうなんですか?」
「ああ。ところで貴様、その恰好は似合っているぞ」
似合っているとはどういう事なのだろうか。
確かに、白手袋をしているし、右手には豪奢な装飾が施された錫杖を持っている。そして黒いスカートをはいている。
マテ。
俺はジーンズに黒のポロシャツだったはずだ。何故スカートをはいているんだ。それに何だ? この胸の出っ張りは!?
恐る恐る自分の胸に触ってみる。
物凄く柔らかい。
このさわり心地は感動的じゃないか!!
(おい朱人。撮影されているぞ)
京の言葉に周囲を見渡す。すると、生き残った自衛隊員がスマホで俺の事を撮影している事に気が付いた。そして口々に「メイドさん」「魔法少女」「助けてくれた」等々、そんな台詞を言っているのが聞こえる。
(これはどういう事でしょうか?? 京様!?)
(やはり説明が必要かのお)
(必要です!)
(とりあえず撤収するぞ。話は後だ)
京の一言で俺は光に包まれた。
次の瞬間、俺はスーパーカブと共に、実家の納屋の中にいた。
(京様。俺はいったいどうなってたのでしょうか?)
(簡単に言うと、メイド服姿の「魔法少女」になっていたのだ。うはははははは)
メイド服姿の魔法少女!?
何なんだそれは!!
しかも、自衛隊員にしっかりと撮影されていたじゃないか。
京と一つになった時の高揚感は霧散してしまった。今はただ、顔から火が出るほどの羞恥心に心をさいなまれていたのだ。
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