第24話 負の遺物
「それでは。京様の御神体は責任もって修復します」
「任せてね。あああ。未知との遭遇やね。興奮するー」
「私の自宅で作業します。後で必ず来なさい」
落ち着いてあいさつする頼爺に、はしゃいでいる天才少女、そしてバカでかい自宅兼研究所に後で来いと命令する紀子先輩だった。
コニーの操縦する彩雲は彼ら三人を乗せたまま上昇していった。そのまま、紀子先輩の自宅へと飛んでいくのだろう。
ヘリポートに一人残された俺を迎えてくれたのはサラさんだった。
「探し物が見つかってよかったわね」
「ええそうですね」
「今日の予定は?」
「とりあえず学校に行って情報収集します。例の三人組、昨日騒ぎを起こした連中が、まだ何かしているようなので」
「ふむふむ」
「その後は紀子先輩の自宅へ行って、御神体の修復作業に立ち会うつもりです」
眼を瞑り腕組みをして頷いているサラさん。目を見開き俺の顔を見つめる。至近距離なのでさすがにドキッとする。
「情報収集はお手伝いします。それでね。海自の哨戒機が妙なものを見つけたのよ。それを確認してほしいんだけど」
「確認って。京様にですか」
「もちろんよ。急ぎましょう」
例の黒いワゴン車に乗る。
どこへ向かうのかと思えば、市の外れにある山だった。
山頂にTVやラジオの中継局が設けられている標高373mの小さい山。しかし、それゆえ手軽なハイキングコースとして市民に親しまれている場所でもある。そんなところで妙なものが見つかるとはどういう事なのだろうか。
黒いワゴン車は山道を登っていく。途中で山頂に向かわず脇道へと逸れていく。
「ここよ」
「はい」
サラさんと共に車を降りた。
向こう側の斜面は先日の豪雨で地滑りが起きており、赤茶けた土が露出していた。
「アレがそうよ」
サラさんが指さす方向。その土の中から何か奇妙なものが見える。岩ではなく化石のような物でもない。金属でもない。俺には甲殻類の一部と動物の毛皮のように見えたのだが、少しサイズが大きすぎる気がした。
地面から露出しているのは全体のごく一部であろう。その一部が人と比べてかなり大きい。近くでと調査している自衛隊員の身長と比較して、長さが数メートルありそうな腕のようなモノだった。アレは何なのだろうか。
「偶然なんだけどね。たまたまここの上空を通過したP1がアレを発見したのよ。崩れた斜面に光る不審な物体を」
「はい」
「それですぐに陸自が調べに来たわ。でも、これは私たちの仕事じゃないかって事になった」
「アンチエイリアンですか」
「そうよ」
エイリアンが残した遺物であれば国が責任を持つべきだと思うのだが、ここではサラさん達綾瀬重工が優先して調査しているのか。
綾瀬重工の社員と思しき人物がが駆け寄って来た。
「自分は綾瀬重工警備部主任の斉藤です。三谷先生ですね。よろしくお願いします」
「よろしく」
斉藤主任と握手を交わす。紺色の戦闘服っぽいデザインの制服にAYASE☆SECURITYのロゴが刺しゅうされている。これはサラさんが着ているものと同じだ。
サラさんは自衛隊の隊長らしき人と打ち合わせを始めた。俺は斉藤主任に質問した。
「アレは何ですか?」
「今のところ正体は不明です。表面上はカニなどの甲殻類と熊のような毛皮、蛇のような
「生物なのですか」
「その判断はできません。土に埋まっていて生きているとは思えないし、それなのに腐敗しているとも思えない」
「なるほど」
俺は京の御神体の事を思い出した。
あれは人の姿に限りなく近いが人工物だ。この、妙な奴もそうなのだろうと思った。人工物。そして、あの
「まだ大部分が地中に埋まっている状態なので推測ですが、概ね人型で身長は20m程度あると思われます。露出している部分は4m程度ですが、肩から肘にかけての部分だと思います」
「ロボットですかね?」
「さあ。それは判断できかねます。しかし、古代の兵器とかだと面白いですね」
頭を掻きながら笑っている斉藤主任だった。
(この男、なかなか鋭いな)
(つまり、正解なんですね)
(ああそうだ。これが
なるほど理解した。
全長20mの人型兵器。そんなものが地球に侵攻してくるなら他の勢力からの支援があっても不思議ではない。それが京だとするなら話は合う。
(こいつには苦労させられたんだ。これがカルブ・アル・アクラブ……悪魔の心臓と呼ばれている忌み嫌われた生体兵器だ)
(こいつが再び暴れる事があるのでしょうか)
(中身を封印している状態なら心配ない)
(でも、その封印は解かれた)
(そうだな)
京が苦労させられたという生体兵器。それを稼働させるための意識体は解放されてしまった。それはつまり、こいつが再起動する可能性があるって話なのか。
(そういう事だ)
(悠長に構えてていいんですか?)
(多分)
(多分って!)
(連中は今、人間社会に入り込む事にご執心だ。この悪魔の事はすっかりと忘れているらしい)
(そ……そうなんですか)
(そうでなければ、わざわざ貴様の学校になど転校してくるものか)
なるほど。言われてみればそうかもしれない。
(それにな。現代の軍事力は相当進歩しておるからな。このデカ物は日米合同で当たれば撃破可能だろうよ)
(そうなんですか?)
(戦術核を使えばな)
撃破するのに核兵器が必要だって!?
(京様。あれと戦ったことがあるのですね)
(当たり前だ。あ奴は
京が難儀したというのも頷ける。
しかし、もっと大きな隕石を飛来させれば片付くのでは?
(阿保か。そんな物が都合よく軌道上に転がっている訳がないだろう。それにな、たとえ落下させるものがあったとしても市街が壊滅するような被害をもたらすぞ)
(そうですね。それじゃあ核兵器と同じだ)
(どうせ恨まれるなら、その責は米国に押し付けてしまえ)
(それもどうかと思いますが)
(冗談だ。核は最終手段だよ。我らが何とかするしかないだろう)
(そうですね)
俺と今日が話し込んでいるとサラさんが話しかけて来た。自衛隊との打ち合わせは済んだようだ。
俺は京と話した内容をサラさんに伝えた。
「それは本当ですか?」
「ええ。撃破するには核兵器が必要だという事です」
「つまり、起動する前に破壊すべきだと」
「そうなりますね」
「千年地中に埋まっていてこの状態である物体を破壊できるのかどうかですね」
「ええ」
確かに、地中での圧力に耐え、腐食もしない。
破壊するのは困難なのかもしれない。
「なるほど。では私たちは学校へ向かいましょうか」
「はい」
サラさんは斉藤主任に指示を出しワゴン車に乗り込む。俺もそれに続いた。
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