第23話 見つかった御神体
「アラーム切って」
「はーい」
操縦席でのやり取りだ。
アラームが止まって静かになる。
「薫ちゃん。どっちかな?」
「概ね九時の方向。二キロ以内です」
「了解」
機体が傾き緩やかに旋回する。
約90度旋回した先には取水
「あそこかな」
「そうだとすると幸運だね」
頼爺と紀子博士の会話。確かに幸運だ。俺は海まで流されているものと思っていた。
「近くに降りれる場所ないかな?」
「道路しかありませんね。降りたらニュースになっちゃいますけど降りますか?」
「どうしよう……」
「自衛隊機ですね。二機接近してきます」
濃いグリーンの汎用ヘリが二機接近してきていた。
何ともスムーズな連携だと舌を巻く。
「レンジャー乗せてるそうです。探してくれるって」
「それは有難いわ」
汎用ヘリは高度を下げ、数名の隊員がロープを伝って地上へと降りた。そして隊員たちは取水
「見つかるといいわね」
「はい」
紀子先輩の言葉に頷く。
(あそこで間違いない)
(そうなんですね)
京が話しかけてきた。そう言えば、近距離ならば位置を把握できると言っていた。
「あそこで間違いないと京様が言っております」
「分かったわ。コニーさん、自衛隊機に連絡を」
「了解」
コニーの連絡を受け、レンジャーは本格的に捜索を始めたようだ。
取水堰の脇にあるハンドルを操作して堰を下ろし、戦闘服を脱ぎ捨てた隊員が水に飛び込んでいく。幾多の流木と共に、何やらマネキン人形のような物を引き上げた。
「見つかった! 水量が減って来てたのが幸いだったわね」
「ええ。良い場所にうまい具合に引っかかっていました。幸運、いや、神様の導きと言ってよいのかもしれない」
「そうだね。最高!」
「ああああ。もう興奮が止まらない!!」
紀子先輩と前に座っている薫さんが大はしゃぎをしている。
確かに、技術者としては未知の技術を解明できる機会を得て狂喜乱舞するのは自然な事なのだろう。
「右腕が欠損している他は異常はないようです。皮膚の損傷もほとんど見られないと」
「分かったわ。じゃあ、道路に降りて受け取っちゃいましょう」
「良いんですか」
「緊急時なら合法なの。後で何とでも良い訳できるからね。コニーちゃん。やっちゃって!」
「了解しました」
緩やかに旋回していた機体がさらに速度を落とした。ローターが上、垂直方向へと向き高度を落としていく。そして一般の道路に普通に着陸した。
機体から降りた俺と頼爺が毛布に包まった京の体、御神体を受け取った。
「ありがとう」
「いえ、お役に立てたようで嬉しいです」
笑顔で敬礼してくれた隊員と握手をする。こんな事につき合わせて申し訳ないと思いつつ、今回は連中が現れなかった事に安堵する。連中、すなわち
俺たちは京の御神体を抱え機体に乗り込む。ティルトローター機はエンジンの回転を上げ上昇していく。
頼爺と紀子先輩は毛布を剥がして京の御神体を調べ始めた。
「こうしてみると、本当に人間そっくりね」
「これが千年前の被造物なのか。信じられないな」
「ほぼ新品の状態で維持されているようですね。やはり霊力子の関係でしょうか」
「そうだろうな。どれ、股間はどういう造りなのかな?」
頼爺が股間部分を覗こうとした途端、俺の右腕が勝手に動いて頼爺の頭を殴りつけた。
「乙女の体を勝手に
俺の体を使って京が殴り、喋ったようだ。頼爺も紀子先輩も俺が女児の声で話している事に驚いていた。
「こ、これは京様でしょうか。貴方様のお体に不用意に触れた事に関しては心よりお詫びいたします。私は人体の骨格において、最も複雑な構造を持つ股関節を調べたいと思い触れてしまいました。性的な目的で触れたのではなかった事を申し上げます。今後、私は京様の御神体には直接触れる事は致しません。この綾瀬紀子に調査させますのでご理解いただきたいと存じます」
「よかろう。以後注意せよ」
「はははー」
ヘリの床で見事な土下座を披露する頼爺であった。
ちらりとしか見えなかったのだが、京の股間には女性器のような構造があった。そんな場所を男性に覗かれるのはやはり不味いだろう。怒られて当然だなと思う。俺も気をつけねばなるまい。
ティルトローター機・彩雲は、市街西にあるヘリポートへと向かっていた。一旦海上へ出て西へと向かう。国定公園に指定されている美しい海岸線を眺めながらの遊覧飛行は格別であった。こういう風景を見るだけで郷土愛と言うものが溢れてくるのは不思議なものだ。自分の住んでいる街、自然、そんなものを愛する気持ちは人として自然な感情なのだろう。
(貴様も普通の人間なのだな)
(はい?)
(美しいものを美しいと感じている事だ)
(まあ、そうですかね)
この、心の中での会話も慣れてきたものだ。表情を変えず、自在に話ができる気がする。
(ところで朱人。貴様、私の御神体を見てどう思った?)
(どうと言われましても……そうですね。実体化された京様とそっくりです)
(そんな事は聞いていない。その……欲情はしないのか)
(しません)
(……)
(京様?)
(……何でもない。貴様のその……童貞を何とかしてやろうと思っただけだ)
(お気遣いありがとうございます……って京様。もしかして、あの御神体は性行為ができるのですか)
(可能だ。子は
ビックリした。
そんなものが千年前に存在していたのか。
しかし、見た目は人間そっくりなのだ。ならば性行為が可能であっても不思議ではない。何せ、異星人が制作したものだからだ。それは、俺達には想像できない技術力なのだ。
萩市の海岸をかすめ、玉江地区のヘリポートへと到着した。一日仕事かと思っていたが、まだ正午前である。意外に早かったなと思っていた所に知子から電話がかかって来た。
「ミミ先生。調子はどうだい。探し物は見つかった?」
「ああ見つかった」
その一言を聞き三人が電話口でキャーキャー騒いでいるのが聞こえてきた。
「ミミ先生、おめでとう」
「良かったね」
羽里と星子の声だ。一つのスマホに三人で話しかけているようだった。
「お前達、試験の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫。任せて」
「今日は何とかクリアしたかな?」
「うんうん。何とかなった気がするよ。ところでミミ先生は学校に来ないの?」
「御神体の調査をしないといけないから、行けないかもしれない」
「そうなんだ……」
星子の声が沈んでいるようだ。何かあったのか。
「実はさ、ウチのクラスは8人欠席者がいたんだ。学校全体では20人くらいだってさ」
「多分、あいつらが絡んでる」
「どうにかしないと、学校が滅茶苦茶になっちゃうかもしれない」
知子、羽里、星子の3人が交代で話しかけてきた。本当なら見逃すことができない由々しき問題だった。
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