第22話 ATR-003彩雲と京の秘密
今日から期末試験が始まる。
生徒達には通常通りの実力を発揮して欲しいと思う。特に例の女子生徒三人組。彼女たちの成績が下がれば、確実に俺とのかかわりが指摘されると思う。自分の名誉なんて何とも思っていないのだが、本来優秀な彼女たちに変な汚点が付くことは避けて欲しいと願う。
俺は早めに身支度を済ませ、約束の15分前に表に出た。
例の黒いワンボックスカーは既に駐車場に待機しており、脇に立っていたサラさんが俺の姿を確認して手を振って来た。
「おはようございます」
「おはよう。三谷先生。ミミ先生って呼んだ方がいいかな?」
「いえ。三谷で結構です」
「わかったわ。今日はよろしくね」
そう言って右手を差し出すサラさん。その手を取って握手をする。
「じゃあ助手席に乗って」
「はい」
俺が助手席に座りシートベルトを掛けたところでサラさんが車を発進させた。ガラガラと音を立て、ディーゼルエンジン特有の振動を感じる。
「ちょっと乗り心地悪いけど我慢してね」
「問題ありません」
この車両はいわゆる旧式車と言うやつだ。現状、政府主導でEV(電気自動車)の普及が急がれているし、AIコントロールの自動運転車も普及してきている。それとは全く逆なので少し驚いた。
「あら。綾瀬の車両ならすべて最先端だと思ったの?」
「ええそうです」
俺の疑問をズバリ指摘された。
「旧式の車両はね。災害時やネット障害に強いのよ。この子はEMP兵器を使用されても平気なのよ」
なるほどそういう事なのか。
自動運転車両は確かに便利だが、ネット環境が整っていないと本来の性能を発揮できないと聞く。災害時に通信が遮断された状態で使えなければ意味がない。俺はそんな最先端に興味がなかったので旧式のランドクルーザーに乗っていたのだが、綾瀬重工が俺と同じ趣味という訳ではないようだ。
しばらくして、車両が向かう方角が反対であることに気が付いた。京の御神体が流されたであろう
「サラさん。方向が逆だと思いますが」
俺の指摘にウィンクしながら口笛を吹くサラさん。俺とのやり取りが楽しくて仕方がないと言った風である。
「そうよ。道路が寸断された山中に車で行ってどうするのよ。ほら見えてきた」
サラさんが指さす方向。
そこは市街外れのヘリポートだったのだが、そこには小型のティルトローター機が駐機していた。白と紫のツートンカラーに塗装されたスマートな機体には綾瀬重工のロゴマークが描かれ、その脇に大きく筆文字で「彩雲」と書かれていた。
ティルトローター機と言えば思い当たるのはオスプレイだ。2010年代に米海兵隊が導入し、沖縄の普天間飛行場へと配備された際に大規模な反対運動が起きたことで知られる。その後、陸上自衛隊もこのオスプレイを20機程導入した。
そして眼前に駐機している彩雲。
これは綾瀬重工が独自に開発した機体だという。最近、自衛隊に数機導入された事がニュースになった記憶がある。
その場には数名の綾瀬重工の社員と紀子先輩がいた。
「おはよう朱人。話は聞いたよ。昨日はよく眠れた?」
俺は無言で頷く。
「ざっと紹介するね。こっちは副社長兼開発部部長の
「よろしく三谷先生」
「よろしく頼爺」
頼爺と握手をする。頼爺と呼ぶことに不遜な感じがするのだが、本人はそれが当然と言った風であった。皆にそう呼ばせているのだろう。
「隣にいる色黒美少女が
「その紹介はヤダな。紀子博士」
「よろしく、宮内さん」
「よろしくね。ミミ先生」
「今日は頼爺の助手として来ていただきました。そして最後にパイロットのコニー・オブライエンちゃんです」
「コニーです。よろしく」
「よろしくお願いします」
薫、コニーと握手する。薫は色黒のスレンダー美女。コニーは金髪白人だったが、華奢な体形をしていた。
その他に数人のスタッフがいたが、紹介は省略されたようだ。
コニーが操縦席へと座り、俺達も後部座席へと案内された。手渡されたヘルメットを被る。
ターボシャフトエンジンが始動し機体に接続されていた電源コードらしきものが外されていく。機体は垂直に浮き上がり、そして水平飛行へと移行していく。
(朱人。この乗り物、良いな。これは興奮するぞ)
(京様。これは最新のティルトローター機です。世界にもまだ数機しか配備されていない機体なんですよ)
(知っておるわ。それよりお前、こんな旧式な飛行機に乗って不安はないのか)
(旧式ってこれは最新式なんですけど)
(馬鹿者。化石燃料を燃やして稼働する内燃機関と空力のみを利用する飛行方式に不安はないのかと言っている。重力制御や空間駆動などの技術を使用していない不安定な乗り物なのだぞ。ゆえに興奮するのだ)
(重力制御とか良く分からないです)
(そうか。そうだろうな)
そういえば、サラさんたちはアンチエイリアンに関わる部署だと言っていた。それはつまり、京もそのエイリアンに関わっている存在なだろうか。そうであれば、まだ地球では未知の推進方式を知っていても不思議ではない。
「朱人。あのね、この腕なんだけどね」
唐突に紀子先輩が話しかけてきた。
「何の動力だろうか調べてたんだけど、多分“霊力子”じゃないかって結論に達したのよ」
霊力子?
何のことだろうか。
「それに関してはまだ公開できる情報はないのだが、我々と交流のある異星人が使用しているアンドロイドに類するものがあるんだ」
今度は頼爺が話す。やはり話はそちら方面へと向かうのか。
異星人というのも一般論としては眉唾ものなのだが、綾瀬重工においてはそういう認識でないらしい。
「人口の素材なのだが、我々の肉体と極めて近い反応を示す。つまり、意識が大きく関与しているんだ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「意識。つまり霊体によるコントロールなんだ。その異星人のアンドロイドは疑似霊魂と言われる人工的な霊体を封入することで自律的に思考し行動するのだよ。それを彼らは自動人形と呼んでいる」
自動人形。
それが京の正体なのか。確かに京の腕は作り物、人工物のようだった。しかし、今俺の傍にいる京も人工物であり疑似霊魂と呼ばれるものなのだろうか。
「確かに京様の腕は人工物のようですが、京様ご自身が人工物であるとは思えません。自ら神と名乗っておられますし、大地の女神クレドの眷属とも……」
「そうだ。つまり、京は特別性の自動人形なんだよ」
「特別性?」
「そう。特別性。大地の女神クレドの眷属というよりは
「それは……京様の霊格が高いという事になるのでしょうか」
「そうだ」
頼爺が大きく頷いている。その横から紀子先輩が話しかけてくる。
「その、大地の女神が異星人の守護神なのよ。クレド様として信仰されている偉大な神様なの」
「他所の星の神様が、その一部を地球の為に派遣されたという事なのでしょうか」
「これはあくまでも推測なのだが、そういう事だと認識している」
「そう考えると辻褄が合うの。それに、その前提で探知機を作ることができたわ。これは
「きゃっは~。そうなのです。私が組んだ霊力子探知機なのです」
副操縦席に陣取っている天才少女がはしゃぐ。
そして甲高い声で叫んだ。
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
機内にアラームが鳴り響く。
その霊力子探知機が何かを捕らえた警報音だった。
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