第25話 支配の現実

 悪魔の心臓と呼ばれている生体兵器……カルブ・アル・アクラブ。通常の兵器では対抗できず、撃破するには核兵器が必要なのだという。これを起動させないためには、あの転校生三人組を押さえる必要がある。


 彼らはマティ、マユラ、ダルジスと名乗っていた。


 最初は動物の姿で現れた。そして人間の姿となり学校に入り込んで来た。彼らは性の欲望を操り、人を支配するのだという。


 三日間行われる期末試験。その初日に20名の生徒が欠席した。それに関与していると思われるのがあの三人だ。彼らは何処で何をしていたのか。そして、どういった経緯で関わりを持ったのか。なるべく詳しく調査する必要があると思う。昨日のような性的に退廃した行為を繰り返しているのか、それならば関係した生徒が酷い後遺症のようなものを患う可能性もある。


 サラさんの運転する黒いワンボックスカーは俺の学校へと向かっている。そこでバーミリオンの女子生徒三人と合流する予定だ。


「実体を持たない意識体っていうのが厄介ね。やはり、特殊な方法で封印するしかないのかしら」

「そうですね。後は、エネルギーの供給を絶つ方法なんかあれば便利ですよね」

「それが難しいのよ」


 サラさんが首を振っている。

 まあそうだろう。あの連中がどんなエネルギーで活動しているのか分からないからだ。


(それに関してはもう判明している。人の想念エネルギーを食っているんだ)

(想念エネルギーって?)

(人の想いは莫大なエネルギーを持つのだ。特に苦痛や快楽を感じる際に発するものはそのエネルギー総量が多い)

(テンションが高いってことはエネルギーが大きいって事なのですね)

(だな)

(それが奴らグニアの力になる)

(そういう事だ)

(それはひょっとして、奴らグニアが人を食べたりするのは、その人の生命のエネルギーを摂取するって事ですか?)

(そうだな。いわゆる栄養学的なエネルギーではないぞ)

(分かってます)


 それは霊魂とか言われている存在の事だろう。

 現代の科学では未だに突き止められていない存在だが、古来よりその存在については語られているものだ。


 神と悪魔。


 なるほど、京とグニアの関係性もその一端を示しているのだと思った。


「三谷先生?」


 俺が黙っていたのでサラさんに声を掛けられる。

 まあ、京と話していただけなのだが、彼女を無視していた格好になっていた。


「はい。すみません。京様と話をしていたので」

「そうですか」

「それで、彼らは人の想念を活動エネルギーを摂取しているとの事です」

「想念エネルギーですか」

「そうです。例えば、昨日の件などは集団での性行為が異様な興奮状態をもたらすと思うのですが、その時に発せられるエネルギーを取り込んでいるんじゃないでしょうか」

「そうなの?」

「はい。京様はそう言っておりました」

「それは厄介ね。彼らのエネルギーを絶つどころか、それ、巷にあふれてるじゃないの。食べ放題ね」

「はい」


 あの三人が人間社会に入り込む意味。それが分かった気がする。殺してしまえばそれっきりだが、生かしておけば何度でもエネルギーを摂取できるじゃないか。人を囲い発電所のように使う。そうして摂取したエネルギーは……。


「カルブ・アル・アクラブ……さっき見たアレを起動するために使うのね」

「そうだと思います」

「むかつくわね」


 サラさんは眉間にしわをよせ歯ぎしりをしていた。物凄く怒っているのが傍から見ても分かる。それはそうだ。人間を支配し、家畜のように扱うようなものだからだ。


 程なく車は学校へ到着した。校門の脇で待っていた三人組が走り寄って来た。


「京ちゃんの御神体は見つかったの?」

「とりあえず、学校内には怪しい奴はいないぜ」

「金髪ナイスバディのサラさん!♡♡♡胸元が超絶素敵♡♡♡」


 俺に話しかけてきたのは星子と知子。羽里の視線はサラさんの胸元に釘付けだった。


「今からどうするの?」

「勿論情報収集だよな!」

「サラさんの胸、サイズは??」

「馬鹿羽里ハリー。失礼だろ」

「恋多き乙女は美しい胸元に引き寄せられるのです」

「羽里ちゃん浮気かな?」

「ああ! 違うわ。私の一番は星子ちゃんの胸。これだけは絶対に変わらない!」

「だから。星子の胸は渡さないって言ってるだろ」

「ぐへへへ。知子ゴジラさんの妨害なんてへっちゃらだよ~ん」


 途端に始まるJK同士のおっぱい談義だった。

 先ほどまで険しい雰囲気だったサラさんの表情が緩む。


「うふっ。とりあえず学校内で調べたい場所があるの。貴方たちも来て」

「はーい♡♡♡」


 両手を上げて喜んでいるのは羽里だった。星子と知子も右手を上げて同意していた。


「まずは体育館横の倉庫ね」

「鍵を借りてきまーす!」

「綾瀬重工の名前を出して。話は通してあるわ」

「はーい♡♡♡」


 知子と羽里、星子が職員室へと走っていく。


「ここで何が?」

「それを調べるの。昨夜、何かがあったわ」

「どうしてそんな事がわかるのですか?」

「貴方を24時間監視してるって言ったでしょ。例の三人組もその対象に加えてあるの」

「監視カメラか何かですか」

「そんなところね。他にも衛星とか……うふふ」


 市内にある監視カメラ映像を集約しているとは思っていたが、衛星まで使っているという事か。そう言えば綾瀬重工は独自の宇宙開発を行っており、外燃機関であるレーザー推進方式を使用した宇宙船の実験もしていると聞いた。つたない記憶なのだが、それはライトクラフトと呼ばれていた。


 倉庫の前に立ち備え付けてある南京錠が破壊されていることに気づく。

 サラさんが扉を開き中へと入っていく。そして、顔をしかめ口をふさいだ。


「あの子たちは来させないで」


 中はちらりと見えただけだが、俺は咄嗟にそういう事だと判断した。そこには裸の男女数名が倒れていたが、床にはおびただしい血と内臓が散らばっていたからだ。


 俺は鍵を持って走って来た三人を両腕を広げて足止めした。


「ミミ先生。鍵を借りてきたよ」

「どうしたのさ」

「何かあったの?」

「お前たちは来るんじゃない!」


 三人は語気を強めた俺の剣幕に驚いたようだ。


「あ!」

「まさか?」

「エロエロですか?」


 昨日のような事だと思っていたのだろう。俺は首を振りそれを否定する。


「死人が出た」


 俺の一言に顔を見合わせる三人。そして倉庫の方からはサラさんの声がした。


「ここは危険よ。すぐに逃げて!」


 倉庫入り口から飛び出てきたサラさんは前転をしてから倉庫へと向く。そして腰から銃のようなモノを取り出し引き金を引いた。


 バリバリバリッ!!


 銃の先端から稲妻がほとばしり倉庫内を穿うがつ。しかし、その銃はすぐに煙を吹き始め、サラさんはそれを倉庫内へと放り投げた。


「熱ちち。こりゃ不良品じゃないか。何がスーパーライトニングガンだっ!」


 どうやら試作品の武器のようだ。


 倉庫の中からは裸の男子生徒がのそりと顔を出す。見覚えのある顔だったが身長は2m以上あり、体は二回り以上大きくなっていた。その右腕で煙を吹き出している銃を掴んでいた。その銃が火を噴き爆発したのだが一向に応えていないようだった。


「お前達も犯して食ってやる」


 星子たちと同じクラスの生徒だった。その男子生徒は口から涎を流し、だらしなく笑っていた。


 

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