第18話 南の島の大王はその名も偉大なかめはめ波☆追悼キングカメハメハ

 俺達は京の法術で俺の実家まで瞬間的に跳躍した。

 俺は元の姿へと戻っており、元々着ていた作業服も健在だった。


 女体化した裸を晒したのには勿論抵抗感があったし恥ずかしかったのだが、恐らく女子が自分の裸を晒すほどではなかった気がする。今ここで作業服を引っぺがされた方が恥ずかしい想いをしそうだった。


 突然現れた一行に、俺の両親は目を丸くして驚いていた。


「あんた! 嫁の候補をこんなに連れてきたのかい? 皆、別嬪べっぴんさんだねぇ」


 何故か大喜びの母、利都子りつこだった。


「うんうん。朱人もやるときはやるんだよ。若い娘さんが四人か。しかしな、朱人。お前、そんな別嬪さんに囲まれて一人に絞れるのか? 俺なら正直……無理っぽいぞ」


 実直だが女性には甘々な父、夏人なつひとの弁である。


「何鼻の下伸ばしてんだよ。馬鹿だね。それよりあんた、消防団の招集がかかったよ。隕石落下とかで山火事だってさ」

「何? そりゃ大変だ。すぐに詰め所へ向かおう。春人はるひとはどうした?」

「もう行ってるんだよ、あんたも直ぐに来いって」


 母に尻を叩かれ、スーパーカブにまたがる父だった。そしてノーヘルで納屋を飛び出していく。


「親父、ヘルメット!!」

「そんなもん被ってる暇ないよ。行っといで!!」


 俺の一言はあっさりと無視された。この人たちは道路交通法というものを知っているのだろうか。


(無免で走り回っていたお前に言われたくはないだろうな)

(余計なお世話です)


 京の突っ込みにやや憮然としてしまう。この辺りは何かと鷹揚で、ノーヘル無免は茶飯事だったりするのだ。


「ところであんた。昼ご飯はまだなんだろう。食べていきなさい」


 母の一言に飛び上がって喜ぶ女子生徒三名。

 紀子先輩も幽鬼のような青ざめた表情で頷いていた。


 メニューはうどんとそばらしい。

 買い置きの乾麺があったのだが、人数が多いのでうどんとそばの両方になったようだ。女子生徒三人はうどん。俺と紀子先輩の三十路組はそばになった。


「白ご飯もあるからね。ご飯はお替り自由だよ」


 山盛りのうどんをおかずに白ご飯を食べる。

 我が家の通常な風景ではあるのだが、この炭水化物主体の食事は皆気に入ってくれたようだ。


「これってさ。主食+主食で炭水化物もりもりなんだよね」

「でも、ウチの家もこんなだよ。ピザやスパゲティがおかずになることあるし」

「ああ、我が家もだな。お好み焼きとかもおかずなんだよ」


 羽里、星子、知子の三人は、このメニューに対し全く意に介していない様子だった。


「でもさ、たこ焼きはおかずじゃないよね」

「ああそうだな。たこ焼きはおやつだ」

「ウチん家、こないだチャーハンがおかずだったよ」

「マジで。それはあり得ないだろ、羽里ハリー

 

 羽里の一言に唖然とする知子。


「私はそれでもいいかな? チャーハンの味濃いめにすれば十分いける」

「あは! 星子ホシコちゃんわかってるね」

「えへ。大佐もね。何でもおかずにできるって言ってた。そうでないとサバイバルでは生き残れないって」


 またアニメの話題につなげる星子だ。一体大佐って誰だと思いつつ、チャーハンをおかずにするのはサバイバルとは関係がないだろうと突っ込みたくなる。


「そうだよな。何でも食べなきゃ生き残れないさ。しかし、しかしだ。私はな、お寿司だけはおかずにできないよ」

「あ、それ分かる」

「そうそう。お寿司だけはおかずじゃないよね」


 お寿司はおかずじゃない。

 まあそうだろうが、それで皆が納得している図はなかなか面白いものがあった。


「は~め~は~め~はぁ!!」

「馬鹿ね。それはかめはめ波よ」

「俺のギャリック砲を受けてみろ!」


 ドラゴンボールごっこをしながら兄の子供三人が帰宅した。今、母と話しているが、どうやら山火事が原因で休校となり早退してきたらしい。


「家から出ちゃいけないって」

「お。朱人おじさん来てるんだ」

「やったー。ザリガニ捕まえに行こうぜ」

「カブトの幼虫さがそうよ」

「だから家から出ちゃダメなんだって!」


 長女の早希さきは小学六年生、長男の武人たけひとは小学四年生、次男の頼人よりひとは小学一年生である。男の子二人はやんちゃ坊主であるが、早希はそれを取り仕切っている姐御タイプだ。三人の子供はうどんをすすっている三人の女子生徒に注目し目を輝かせた。

 

「お姉ちゃんたち、どこから来たの?」

「ちょっと綺麗な人ね。でも、嫉妬してるわけじゃないから」

「あのおっぱいはうちの母ちゃんよりでかい……」


 星子に接近し、その胸に顔を埋めた頼人。


 そこで星子がぼそりと呟く。


「貴様の心臓を握りつぶしてやる」


 ゴチン!


 頬を赤らめ呆けていた頼人に早希のげんこつがさく裂した。そして、武人が頼人を星子から引っぺがした。


「ごめんなさい。馬鹿な弟で……」

「馬鹿頼人。謝れ!」


 何気にアニメの台詞を呟いた星子なのだが、それを怒っていると勘違いした早希と武人が慌てている。武人は頼人を正座させ土下座させた。そして自分も一緒に土下座する。


「おっぱいのお姉さん。ごめんなさい。許してください」


 おっぱいのお姉さん……。小学生にも星子の胸元は強烈な印象を与えるのだろうか。たいして気にも留めていない様子の星子だったが、何か思いついたようにパンと手を叩いた。


「気にしなくていいんだよ。そうね、何か必殺技を見せてくれるかな? そうしたら許してあげる」


 その一言に顔を上げ目を見開く男児二名。早速立ち上がって何か構えた。


「は~め~は~め~はぁ!!」

「馬鹿ね。それはかめはめ波よ」

「俺のギャリック砲を受けてみろ!」


 ドラゴンボールごっこのようだ。


「うわああ」

「がはああああ」


 男児二人がぶっ倒れた。

 

「今回は引き分けだったようです。つまんない必殺技でごめんなさい」


 早希が謝るのだが、大仰な動作が気に入ったのか星子には大うけだった。


「えーっと。じゃあ私たちで歌を歌います。頼人が歌える……『南の島のハメハメハ大王』にしましょ。さあ立って」


 三人が立ち上がり早希が中心となって手をつなぎ歌い始めた。


 ♪南の島の大王はその名も偉大なか~め~は~め~波!♪


 それは違うだろと突っ込まれつつ、四番まで歌いきった。

 ハメハメハ~♪のところで武人が「ウッハ!ウハハ!!」と相槌を入れたのがとても印象的で楽しい出し物だった。この歌のハメハメハ大王は、ハワイ王朝を建てたカメハメハ大王のお友達っていう設定だったかな。どこの島にこんな楽しい人たちが住んでいるのだろうかと想像が膨らむ。


 星子には大うけ。羽里と知子も破顔して喜んでいた。


 結局、女子生徒三人は三人の児童の宿題を見てやることとなり、俺と紀子先輩は周囲を散策し、京の御神体を探すことにした。


 例の祠を押し流したであろう土石流の跡をたどり、炎天下の中、俺と紀子先輩は御神体を探して歩き続けた。俺たちが歩ける範囲にはその痕跡は見つからなかった。


(残念だが、この付近には無いようだな)

(そうなんですか)

(ああ。御神体の一部でもあれば察知できるからな)


 ここでは見つからない。

 つまり川の本流まで流されて、そのまま海へと流されてしまったという事なのだろうか。


「朱人、どうする」

「どうするって、どうにか探しますよ。それには紀子先輩の協力が必要です。人力ではどうしようもないですから」

「うん分かった。それで、お願いがあるんだけど」

「何でしょうか?」


 紀子先輩は両手を俺の頬に当て、俺の眼を見据える。

 まさか、キスでもされるのかと思ったのだが、違っていた。


「探し物が見つかったら、それ、私が独占する。何かの新技術が見つかればそれは私の利益にする。いいわよね」


 やはりそう来たか。


(構わん。好きなだけ儲けさせてやれ。ただし、修復が優先だ)


「先輩。それOKです。ただし、御神体の修復が優先という事で」

「勿論よ」


 紀子先輩の表情が少し明るくなった気がする。

 日が傾く前に、俺たちは実家へと戻っていった。


※8月9日、日本ダービーを制したキングカメハメハが亡くなりました。先月のディープインパクトに次ぐ訃報に胸が痛みます。今回はコメディタッチのストーリーでしたが、ここに哀悼の意を捧げ、彼の名を胸に刻みたいと思います。2001年3月20日生、2019年8月9日没。父Kingmambo、主な成績NHKマイルカップ(GⅠ)、東京優駿(GⅠ)等。産駒には牝馬三冠を制したアパパネ。ダービーを制したドゥラメンテやレイデオロなどがいる。

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