第17話 大技炸裂☆ディープインパクトに捧ぐ

 俺は宙に浮きあがり法術杖を振るった。

 お馴染みの紫色の雷撃、そう、まさに紫電がサイボーグ化した邪なるものグニアを撃つ。


 しかし、その紫電は弾かれた。


 左掌から光の弾を放つ。連続して十数個の光弾が弧を描き三体のグニアへと向かっていく。しかし、その光弾もアンドロイドの装甲に弾かれてしまう。


(京様。まるで歯が立たなくなりました。直接殴りますか? それとも、他の武器を使いますか?)

(あの木刀は学校に置きっぱなしだ。レイピアは使えんぞ)

(ではどうするのですか)

(私に任せよ。雷撃を中心に攻撃をするのだ。弾かれても放ち続けよ)

(わかりました)


 再び法術杖から紫電を放つ。その雷をものともせず、豹頭のサイボーグ、マユラが飛び上がって来た。俺は先制して蹴りを放つがあっさりとガードされ、背後からゼブラがらのサイボーグ、ダルジスに襲われた。


 こいつら空を飛べるのか。今までそんなシーンを見たことがなかったので驚いてしまった。


 俺は二体のサイボーグに地面にたたき落とされ、そしてゾウの皮膚を持つサイボーグ、マティに踏みつけられた。


「ふふふ。この機械人形はなかなかのものだぞ。力が数倍に上がった」


 無機質なバロンの顔が歪んで笑う。

 マユラとダルジスも急降下して来て俺を踏みつけた。俺はちょうど三体のサイボーグに右腕と右足と胸を踏まれている格好になった。


「やはりお前では役不足だ。帝国の犬め」

「クレドの手下など雑巾のように踏みつぶしてやるわ」


 ダルジスとマユラが笑っている。

 俺の胸を踏んでいるマティは、その無機質な顔に下卑た笑いを張り付けている。


「ただ殺すのでは面白くない。裸に剥いて犯してやる」


 マティは俺をレイプするつもりなのか。


「くく。興奮するな。俺は二番目だ」


 何故か股間を膨らませて、サイボーグなのに生殖器官があるのかどうかは分からないのだが、ダルジスが腰を突き出してくる。


「私は三番目でいいわ。犯しつくされ魂が抜けた体を乗っ取ってやる。あの法術をすべて奪う……。うふふ」


 妖艶な笑みを浮かべて、チータの顔が何故か妖艶に微笑んでいるのだが、マユラが舌なめずりをした。


 俺は押さえつけられて身動きが取れない。これは絶体絶命ってやつなのか? 正直、レイプされるのは勘弁してほしい。

 

 コツン!


 何かがサイボーグの装甲に当たった。


「どりゃ!」


 綾川知子が振りかぶって剛速球を投げた。

 その小石がダルジスの顔面にヒットした。


「私も戦うんだから」


 体格と不相応に大きな石を拾った星子がそれを投げる。

 しかし、その石は明後日の方向へと投げられ、大した飛距離もなく地面に落下した。


星子ホシコは大人しくしてろ!」


 知子の一言に小さくなる星子。知子はもう一つ小石を拾いそれを投げてきた。


「鬱陶しい小娘だ。先に食って欲しいのか。犯してほしいのか。ぐふふ」


 俺の右腕を踏んでいたダルジスが知子の方へと歩き始めた。


「好きにしろ。俺はこの娘をいただく」


 俺の胸を踏んでいたマティが俺に覆いかぶさってくる。はっきり言って正直気持ちが悪いのだが、これはどうしたものか。


(京様。これは不味いのでは)

(チャンスだ。私の言う通り詠唱しろ)

(はい)


 何かの大技を使うのだろうか。


(大地の神、この地球を統べる大いなる守護神よ)

「大地の神、この地球を統べる大いなる守護神よ」


(我は友邦の女神、クレドの眷属である京)

「我は友邦の女神、クレドの眷属である京」


 俺が詠唱している間にもマティは俺の着ているメイド服を引き裂き、俺の体をさらしていく。しかし、京はそれにお構いなく詠唱を続けていく。


(今ここに邪なる輩を討ち滅ぼす為、御助力を賜りたく申し上げる)

「今ここに邪なる輩を討ち滅ぼす為、御助力を賜りたく申し上げる」


(大宇宙よりこの大地を守る透明な盾、その幾億の糸を我に分け与え給え)

「大宇宙よりこの大地を守る透明な盾、その幾億の糸を我に分け与え給え」


(我が紫電にその糸を紡ぎ、彼の愚者を絡め取らん)

「我が紫電にその糸を紡ぎ、彼の愚者を絡め取らん」


超磁力線放電ハイパーマグネティカルエクストリーム!)

超磁力線放電ハイパーマグネティカルエクストリーム!」


 最後に出てきた横文字っぽい奴は何なのかは詮索しない方がいいだろう。

 殆ど素っ裸にひん剥かれた俺の体から紫色の雷が迸る。その雷が作る放電空間は大きく広がっていき周囲を押し包む。

 マティ、マユラ、ダルジスの三体のサイボーグとトレーラーが放電空間に包まれ、紫色の電気火花を放つ。そして、その放電空間が消滅した瞬間に三体のサイボーグはトレーラーへと引き寄せられベッタリとくっついてしまった。


「これは何だ」

「み、身動きが取れない」

「引きはがせない。何故だ」


 三体のサイボーグはトレーラーにくっつきもがいている。なるほど、磁力か。地球が持つ磁力線と俺が放った放電を使って強力な電磁石を作りあげたという訳か。京の法術もなかなか科学的なのだな。


(ふん。法術の法とは宇宙を統べる法則の事だ。お前達のやっている科学などもその一部にすぎん)

(ごもっとも。で、これどうするんですか?)

(ふふふ。トレーラーを見るがいい。面白いものを見せてやる)


 トレーラーの上部から薄い幾条の光の筋が空高く伸びていく。これはいったい何なのだろうか。


(思いっきり下がれ。衝撃に備えよ)


 俺は紀子先輩たちの方へと下がった。そして更に、皆でトレーラから離れていく。


 上空から眩い光球が落下してきた。

 これは隕石? いわゆる火球なのか?


隕石衝突ディープインパクト!)

隕石衝突ディープインパクト!」


 俺は京の言う通りに詠唱した。


 眩しく光る隕石、すなわち火球はそのままトレーラーを直撃して大爆発を起こした。

 戦術核でも使用したかのような爆発だった。

 その爆風と高熱は俺の周囲にあった光の空間に遮られていて、俺たちには何も被害はなかった。

 しかし、トレーラーのあった場所には巨大なクレーターができていた。直径が100m以上あるだろう。その中では高熱により地面が融解し、溶岩のように赤く光っていた。そして、周囲の木々は燃え盛っていた。


(どうだ。なかなか壮大な大技だっただろう?)

(確かにそうですが、あの名前は著作権上問題があるかも……)

(日本競馬界の至宝に哀悼の意をささげたい)

(そっちでしたか。それなら俺も賛成です)


 何で京が競馬の事を知っているのかは謎だ。

 しかし、このどえらい惨事はどう誤魔化していいのだろうか。


(心配するな。私たちはここにいなかった。勝手に隕石が落下したことにすればよい。ふふふふふ)


 それでいいのか。この道路の復旧には最低数か月はかかりそうだ。それにトレーラーとか三体のアンドロイドを失った紀子先輩はどうするんだろうか。


「あのトレーラー……二億かけてんだよね。バロンは2000万くらいだけど、デュークとプリンスは50億以上かかってるんだ。修理してまた使えるかと思ってたのに……」


 案の定傷心しょうしんのご様子であった。損害は100億円以上。お金持ちの紀子先輩もこれは痛かったのだろう。そして星子と羽里が俺に抱きついて来た。


「ミミ先生。やったね。さすがだね。大佐もきっと褒めてくれるよ」

「こ、この胸の感触……ああ極楽浄土でございます。匂いも最高!」


 羽里は俺の胸に顔を埋めて興奮しまくっている。


「離れろ馬鹿羽里ハリー。星子も手伝え」


 必死に俺から羽里を引きはがそうとする知子と星子。それに抗い胸から離れない羽里。散々な散財に呆然としている紀子先輩。そして着る服がない俺。


 邪なるものグニアをやっつけはしたが、何ともカオスな終局となった。

 

※先月、日本の競馬史上最高の名馬と称えられたディープインパクト号が亡くなりました。父:サンデーサイレンス。生涯成績14戦12勝。クラッシック三冠、ジャパンカップ、有馬記念等G1を7勝しています。2002年3月25日生、2019年7月30日没。種牡馬としての大成功を収めた名馬です。彼の死を悼み、哀悼の意を捧げます。

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