第19話 不審な転校生

 俺達は、綾瀬重工が用意してくれたマイクロバスで自宅まで帰ることができた。紀子先輩は京の右腕を持ち帰り、女子生徒三名はそれぞれ自宅へと戻った。三人共成績は良い方なのだが、やはりああいった人知を超越した存在と接触した経験が、学業成績に何か影響を及ぼすのではないかと心配になる。明日は一日授業。そして明後日からは三日間の期末試験だ。三人には何とか頑張ってもらい、いつも通りの成績で期末試験を乗り越えて欲しいと思う。

 俺は明日の準備を済ませ、早めに床へ着いた。疲れていたせいか、直ぐに眠ってしまう。


 夢を見た。


 俺が京と話している。 

 その他に女性が二人いる。


 一人は小柄な女性。

 黒髪を三つ編みにしてお下げにしている。


 もう一人はやや長身でグラマーな美女。


 そのどちらとも面識はない。


 長身の美女は俺の手を取り「京をよろしくお願いします」と言った。

 小柄な美女は「加護は私にお任せください」と言った。そして「学校で不審な事が起こります。気を付けて」とも言った。俺は「分かりました。お任せください」と返事をした。


 不審な事とは何なのだろうか。

 またあの三人組が、よこしまなるものが学校に現れるのだろうか。現れたとして、俺が対処できるのだろうか。期末試験の邪魔だけはしないで欲しいと切に願う。


 京は俺に抱きついて来た。俺も京を抱きしめる。


「しばらくこのままでいてくれ」


 俺は京の言葉に頷いた。


「お前に抱かれていると安心するのだ」


 そう言って俺の胸に顔を擦り付ける。俺は京の事が限りなく愛おしいと感じ、彼女の肩をそのまま抱き続けた。


 いつの間にか朝になっていた。

 俺はいつもより早めに支度を済ませ、スーパーカブに乗って学校へと赴く。


 理科室周辺はブルーシートに覆われ立ち入り禁止となっていた。俺の城である準備室も同様だった。準備室に置きっぱなしになっていたPCやその他の資料を職員室の机へと運ぶ。しばらく理科室は使えないわけだが、ちょうど試験週間でもあり実験する事もない。理科室は夏休み中に補修工事が入り、完成するのは八月末との事だ。不幸中の幸いと言っていいのだろうが、俺だけの城、理科準備室が使えないのは残念に思う。


 職員会議が始まるのだが、先に校長があいさつをする。一昨日の事故に関しては落雷が原因であると強調した。そして不審人物や得体のしれない者には細心の注意を払えと来た。

 警察や自衛隊がどの程度の情報を握っているのかは知らないが、人外の化け物が絡んでいる事は認識しているのだろう。校長はそれに注意しろと言っているのだと思う。そう言われても、他の教員では何の対応もできないに違いない。


 人外の化け物……邪なるものグニアは悪霊のような存在であり、その時に宿っている物体を破壊しても滅することができない。しかも、高度な知性を持ち、段々と力を上げてくるという困った性質も持っていた。あの化け物と今後どう戦っていくのか、はっきり言って想像がつかない。


 試験に関する注意事項の後に転校生の紹介があった。


 この時期に転校生?

 

 期末試験があるだけの学期末にどういう理由で転校してくるんだ。

 俺は当然のごとく疑問を抱く。


 教頭に連れられ、夏服を着た三人の生徒が職員室へと入って来た。男子生徒が二人、女生徒が一人だった。

 男子生徒の一人はどちらかというと背が低いが、かなり横幅が広い体格をしている。頭はスキンヘッドだ。

 もう一人の男子生徒は背が高く、これもがっちりとした体格をしている。短めの金髪で頭頂部は逆立てている。

 そして女子生徒。女子としては背が高めで見事な胸元の、いわゆるナイスバディと言った体形をしている。肩まで伸ばした髪はピンク色。そして見るからに妖艶で情欲的な雰囲気を振り撒いていた。


 まさに不良といった出で立ちなのだが、俺はこの三人に心当たりがあった。どういう理由で人間の姿になったのかはわからないが、この三人はマティ、ダルジス、マユラの三人に違いない。

 邪なるものグニアが転校生を装い、俺の学校へと侵入してきたのだ。

 

 教頭が通り一遍な紹介をする。両親の仕事の都合だとか、噴飯物の理由で紹介してきた。それぞれ簡単な自己紹介をした。彼らの名前は霜月しもつき真呈まてい如月きさらぎ樽慈栖だるじすそして神無月かんなづき眉螺まゆらだった。


「彼らは三人共二年C組へと編入いたします。担任の田中たなか義一郎ぎいちろう先生、副担任の三谷朱人先生。なるべく早く馴染めるようにお願いしますよ」


 お願いされてしまった。


 そうだ。俺はあのクラスの副担任だった。この一学期、副担任の職務が回ってこなかったのですっかりと忘れていた。


 神無月かんなづき眉螺まゆらが目敏く俺を見つけウィンクしてきた。


 完全にバレているじゃないか。

 心臓は激しく高鳴るのだが、俺は平静を装い続ける。


(京様。これはどういう事なのでしょうか)

(ククッ。これは面白い。連中もお前と遊びたがっているらしいぞ)

(そのような……遊びなどと言われても)

(お前も知っておるだろう。奴らには死というものがない。つまり、どういった形状で三次元化すれば効率良く楽しめるか。そんな事ばかりに腐心しておるのだ)

(ゲーム感覚ですか?)

(言い得て妙だな。あいつらにとっては人を苦しめ犯し殺す事がゲームなんだ。まあ良いではないか。我らの目の届く範囲にあちらから来てくれたのだ。感謝しようぞ)


 感謝とかする気になれるはずはない。しかし、京はケラケラと笑い転げているようで、そのテンションは俺にも十分に伝わって来ていた。

 会議中にもかかわらず、俺はスマホをいじって綾川知子にメールを送った。


「本日の転校生三名は例の奴だから注意しろ」と。


 すると、知子は即返信して来た。


「(^^ゞ 注意します。クラスのみんなには話すべきでしょうか❓」

「皆に言う必要はない。お前たち三人で情報を共有しろ」

「(''◇'')ゞ」

 

 妙な顔文字は了解という意味だろう。しかも一回目と二回目を変えているところは芸が細かい。

 明日から期末試験だというタイミングで乗り込んで来た邪なるものグニア三体である。俺は正直、どうしていいのかわからなかった。

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