復活の京
第27話 修復完了
メイド服を着込んだアンドロイド。
頭髪はなく、紫系のメタリック色に輝いている。金属製の自動人形なのだが、その動きは自然でまるで人間のようだった。彼女たちに案内されたのは海が見える大広間だった。
百畳ほどの広さのスペースに座卓が二つ設置されている。その脇に小さい滑り台とブロックや手押し車などの玩具も置かれていた。小さな布団には一歳前後の幼児が三名、気持ちよさそうに昼寝をしていた。
子供の面倒を見ていたのは小学生の男の子だった。
「起きると面倒なので静かにしてください。僕は
「そうだね」
そう言えば昼食はまだだった。もう午後一時半位だろうか。
綾瀬正蔵と名乗った少年が内線電話を使う。「四人分、速攻でお願いします」と言っていた。
女子生徒三人組は昼寝をしている幼児に関心があるらしく、傍に座ってその寝顔を眺めている。その中の一人は金髪だった。
「サラさんの子供かな?」
「よく似てるね。可愛いよ」
「だよね。そっちの子は色黒だね」
「でも可愛い」
そんな風に喋っている三人を正蔵少年が睨む。三人は顔を見合わせ唇に人差し指を立てて添えた。
メイド服姿のアンドロイドが食事をワゴン車に乗せて運んできた。メニューはカレーライスのようだ。カレーの香ばしい香りがあたりに漂う。
「正蔵君は食べないの?」
星子の質問にムッとしながら答える正蔵。
「もう頂きました。それ、和牛のサイコロステーキが乗ってる高級カレーですからね。静かに食べてくださいよ。寝不足で起きちゃったら後が大変なんだから」
小声だが不貞腐れているのが丸分かりだ。星子たち三人は無言で頷いている。
正蔵の言う通り、庶民では中々ありつけない高級な牛肉を使っていた。ミディアムレアの肉はやわらかく、そして肉汁が溢れていた。
「正蔵君はその子たちの面倒を見てるの?」
今度は知子が質問した。
「何時もじゃないですけど、見てます」
「此処なら子育てアンドロイドがいるんじゃないの?」
「まあ、そうなんですけど。僕もお手伝いがしたいんです」
幼児の顔色を伺いながら返事をする正蔵だった。彼は恐らく紀子先輩の兄の息子であろう。優しく責任感が強い子だと感じた。この子が綾瀬重工の将来を担うのだと思うと、何だか頼もしく思えてくる。
食事を終えた俺はアンドロイドに案内され、地下の研究施設へと向かった。女子生徒三人組には子守りの手伝いをさせておいた。
研究施設内には頼爺と紀子先輩、そして天才少女の薫さんがいた。他にも数名のスタッフが忙しく動いていた。
「良く来たね」
「三谷先生だ!」
早速頼爺と薫さんが声をかけてくれた。
中央に据えてあるベッドには京の依り代である御神体が寝かされていた。裸ではなく女児用の下着が着せられていた。一応、京に配慮しているのだろう。右腕の部分は既に接合されているようで、肩の部分は違和感がなく継ぎ目も見当たらない。
突然、京の体はボーっと淡い光に包まれた。そしてその眼を見開く。
「ご苦労」
そう言いながら両手を開いたり握ったりしている。先ほどまではよくできた人形であった。しかし、今は生き生きとした少女であり、その姿は神々しいオーラをまとっていた。
人形が神へと変化した瞬間を垣間見た気がする。
「おお。再起動できた」
頼爺が感嘆の声を上げる。
「やはり起動キーは意識体なのですね。三谷先生と御一緒されていた京様が、今まさにその御神体に宿られた」
笑顔で頷いている天才少女薫。
「やはり動力源は霊力子なのだ。それに自己修復作用も確認できた。皆で努力した甲斐があった」
そう言っているのは紀子先輩。
「努力したって?」
「ふふふーん。それはだな。皆で京様の御身を撫でまわしたのだ」
「マジですか?」
「マジだ」
自信満々に答える紀子先輩である。俺は京が羞恥のあまり怒り始めると思ったのだが。
「案ずるな朱人。私の体が修復されるように愛情をこめてさすってくれたのだ。献身の想いが体を癒したのだ」
そう言って右手を差し出す京。俺はその手を掴んだ。まるで人間のっような暖かい手。そして華奢で小さな手だった。
京が上半身を起こす。
「京様。お召し物を」
紀子先輩が何着かの衣類をワゴン車にのせて運んできた。
そこには白いワンピースと麦わら帽子、赤白の巫女服が乗っていたのだが、他にもスクール水着、えんじ色のブルマと体操服、夏物のセーラー服、ジャンパースカートと白のブラウス。チェックのミニスカートにサマーセーター等々。ワンピースと巫女服以外は学校関係の衣料だ。どうも誰かの趣味で選んでいる気がする。俺は頼爺が怪しいと思った。
京は女の子らしい服装、つまり白いワンピースと麦わら帽子を選ぶと思っていたのだが、体操服とブルマを選んで身に着け始めた。
「これが一番動きやすそうだ」
だそうである。
「それにな、功労者の眼を楽しませてやるのも神の務めだ」
と言ってにやりと笑う。その目線はやはり頼爺を向いていた。頼爺はほとんど頭髪の残っていない頭を掻きながら笑っている。
「まあまあ。これらは確かに頼爺のコレクションですけど、咄嗟の事でしたのでね。有無を言わさずサイズの合いそうなものを引っ張り出してきました」
「ほほう。こんなものをコレクションしているとはな。この好々爺め!」
「面目ない」
頼爺が殆ど頭髪が残っていない頭をパンと叩く。
周囲は和やかな笑いに包まれた。
靴下とスニーカーを履き、床へと降りた京。ぴょんぴょんと何度かジャンプして体の感触を確かめていた。
「京様、髪型は如何いたしましょうか? そのままでもお綺麗なのですが、少し手を加えるともっと」
「かわゆくなるよ! 三つ編みにしていいかな?」
「好きにしろ」
両手を上げてはしゃぐのは天才少女の薫だった。
京を椅子に座らせ、長い髪に櫛を通し始める。
「すっごい綺麗な髪です。ああ興奮する!」
「私も手伝うわ」
薫さんと紀子先輩が髪を編んでいく。腰まで届く二本のお下げが程なく完成した。
「やたー」
「お似合いです」
二人の言葉に頷いている京。そして徐に口を開く。
「霊力子で自己修復できることによく気が付いたな」
「それは、アルマ帝国より情報が提供されていたからです。鋼鉄人形という
頼爺が答えている。
「帝国の鋼鉄人形か」
「はい。ゼクローザスと呼ばれている機体についてでした」
「アルマ帝国は健在なのか?」
「はい。この情報は我々綾瀬重工でも一部の者しか知りません」
「そうか。帝国は健在なのか。良かった」
安堵する京。
しかし、その返事に俺は疑問を持った。
「どうされたのですか? 何か心配事でもあるのでしょうか」
「まあな。順を追って話そう」
俺と頼爺、紀子先輩と薫さんの四人が京の周りに集まる。頼爺の目配せで他のスタッフは退席した。
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