危険な夜は君たちと

第11話 お泊りは三人一緒

 警察と消防が理科室周辺に集まって来たのは当然だろう。こういった場合、必ず親切な第三者が通報してくれているのだ。


 しかし、駆け付けた警察官と消防士はその惨状を見て唖然としていた。

 理科室と準備室の壁が見事にぶち抜かれている。重機を使って穿ったかのような大穴が開いていたからだ。そしてそれは落雷では成しえない大仕事だった。

 そして、その周辺に散らばっている大蛇と熊と猪の死骸。

 どう説明してよいものか考えあぐねていると、三人の女生徒が率直に話し始めた。


「落雷と同時に、巨大な蛇と巨大な熊と巨大な猪が現れました。熊と猪は一頭ずつで、蛇は複数いました」

「この壁をぶち抜いたのは熊と猪です」

「そしたら、どこからか飛んできた魔法少女がね。その化け物をやっつけたんだよ。やっつけた後、すぐに消えちゃった」


 星子の説明に怪訝な表情を隠せない警察官たち。彼らは俺の方を向き質問してきた。


「先生も同じものを見られたのですか?」


 警察官の視線が俺に集中する。同意しようとした俺の言葉を遮り、星子が話し始めた。


「先生はね。最初の落雷で意識を失ったみたいなの。だから記憶は曖昧あいまいなんじゃないかな?」

「そうなんですか?」


 星子の話を受け、警察官が聞いて来た。

 俺は力なく頷く。


「そうだと思います。何が起こったのか、自分には良く分からないのです」

「そうですか。ご協力ありがとうございます」


 そっけない返事であったが、根掘り葉掘り聞かれなくて済んだのは有難い。星子と目が合った。羽里と知子も頷いている。どうやら三人が口裏を合わせているようだ。豪雨の中の出来事であり、他に目撃者はいなかったようだ。


 やや遅れて自衛隊のトラックが数台到着した。調査の主体は警察から自衛隊へと交代したようだ。それはそうだろう。昨夜の大ムカデといい、今日出てきた熊や猪といい、警察の装備では手に余ると判断されたのだろう。十分な装備の部隊でないと対抗できないのは明白だ。場合によっては装甲車や戦闘ヘリが必要になるかもしれない。自衛隊が真摯に対応していることに安心感を抱く。


 俺たちは自衛隊の救護班にて簡単な検査を受け、異常なしと診断された。そして、各々帰宅した。


 翌日の7月9日は休校となり、試験の日程は一日延期された。

 ぽっかりと一日開いてしまったが、俺はこの一日を有効に使う。そう決めた。できれば流された京の体を探し何とか直してやりたいと思った。


 しかし、俺のその希望は叶えられそうにない。何故ならば、今、俺の自宅アパートには三人の問題児が集合しているからだ。


 例の三人組。黒田星子くろだせいこ有原羽里ありはらはり、そして綾川知子あやかわともこの三名である。


 三人ともしっかりと勉強道具を持参し、そしてお泊りの支度もして来ていた。これは女子が集まって試験勉強をするというシチュエーションなのだろうが、何故、独身男性教師の自宅アパートに集合しているのだ。こんな部屋に集まって試験勉強などできるはずがないと思う。これはいったいどういう了見なのだ!!


「今からでも遅くはない。家に帰りなさい」


 俺は毅然と語るのだが、三人は全く意に介していない様子だった。


「もうパジャマに着替えちゃったし」


 両腕で胸を盛り上げて、豊かな胸元を更に強調する黒田星子。下着をつけていない、いわゆるノーブラ状態なのが丸分かりで眼のやり場に困ってしまう。既に寝巻に着替えているのは、今夜はここで寝るのだとの意思表示なのだろう。


「えへえへ。あの魔法少女の胸がぁ。本当にぃ。星子ホシコちゃんの胸と寸分違わず同じなのか確認する必要があるのですぅ。えへ」


 などと言っているのは有原羽里ありはらはり。自身はピンク色のネグリジェを着ており、その下に付けているピンク色の下着がもろに透けて見える。これも眼のやり場に困る。日頃の行動がアレなんで見落としがちなのだが、この有原羽里もスタイルは良い方で、星子ほどではないがそれなりに立派な胸元である。ぽっちゃり体形の星子より贅肉は少なく、腹回りや脚はすっきりとしているナイスバディさんなのだ。


「単純な問題です。ミミ先生が何故星子そっくりに変身したのか。その理由が知りたいのです」


 仁王立ちして俺を睨みつけているのは綾川知子。彼女は学校指定のえんじ色の体操服を着ている。下はえんじ色の短パンで、その眩しい素足を俺の眼前にさらけ出している。他の二人と比較して胸元はやや寂しい知子だが、美脚なら校内一であろう。


 三人三様であるが、その女性らしさを惜しげもなく披露してくれている。これはどう対処していいのか分からなくなってしまった。


(女生徒の体形に詳しいんだな。朱人)

(毎日のように準備室へと来ていたのです。その程度の観察はしていて当然でしょう)

(うふふ。童貞が女を漁る見識を垣間見た気がするぞ。言うのは無料ただだ。もっと披露しろ。その見識をww)


 京の姿は見えないが、笑い転げている様子がはっきりとわかる。痺れを切らしたのか知子に問い詰められる。


「ミミ先生。聞いているんですか!? 話していただくまではここから動かないつもりです」


 星子と羽里もしきりに頷き、知子に同調している。しかし、この二人は最初からここに泊まる気が満々で、話を聞いても自宅へ帰るつもりがないのが明白だ。


(京様の話をしてもよろしいでしょうか? 正直に話さないとこの場は収まりそうにありません)


(……)


(京様?)


 すぐ傍にいたはずの、京の気配が消えていた。

 まさか、逃げたのでは?? と思ったのだが隣の寝室から京の声がした。


「お兄ちゃん。誰か来てるの?」


 そう言って襖を開け、奥の寝室から出てきた京。パジャマを着てあくびをしてる。今までそこで寝ていたかのような態度であった。


「誰? この子。妹さん?」

「もしかして隠し子?」

「まさか。ミミ先生はロリコンだったの?」

「そこまで徹底しているとかなりの敗北感を味わってしまうわ」

「でも隠し子の線は十分可能よ。相手がいればだけど」

「ミミ先生ってモテモテだったんでしょ。相手なら腐るほどいるよ」

「でも何故か童貞だって噂も流れてる。あっ! 30歳過ぎて童貞の人って魔法使いになるんだよ。だから魔法少女なの?」

「その線は考えてなかった。ミミ先生。本当に30歳過ぎて童貞で魔法使いになっちゃったの?」

「でも、ミミ先生が童貞なら隠し子の線は消えるな。妹かな? あ。姪御さんか。ミミ先生のお兄さんって子供三人いたよね」

「でも、ロリ系妻って線もあるんじゃないの?」

「それじゃあミミ先生は犯罪者になっちゃう」

「見た目小学生でも実年齢が20歳以上なら犯罪じゃない」

「でも、どう見ても小学生だよ」

「見た目に騙されるな。あのミミ先生が魔法少女になるくらいだから、この子が二十歳でも私は驚かない」

「確かに。既成概念を取り払って真実を掴むのよ」


 三人が喋りまくっている。もう、誰が何を言っているのかも把握できないし、内容もどこへすっ飛んでいるのかわからない。流石の京も俺の顔を見つめあきれ果てていた。

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