第7話 理科準備室
ここは俺の聖域だ。
何人たりとも此処を犯すべからず。
そう決めて仕事をしている。
化学教師たる俺の聖域……そう、理科準備室だ。
理科室の脇にあるこの準備室は、俺にとって最高の環境である。他の煩わしいアレコレとは隔絶されており、とにかく自分の仕事がはかどっていく頼もしい空間なのだ。
しかし、今期よりこの準備室へと侵入してくる女子生徒がいる。二年C組の問題児三人組である。
この三名は昼休みになると決まって弁当とお茶を持ち込み、まるで自宅のように寛ぎながら昼食を済ませ歓談しているのだ。
「ミミ先生、試験問題はもう作りましたか?」
「とっくに提出済みだ。今は校長室の金庫の中だ」
「でも、データはパソコンの中にあるんでしょ。見せて欲しいかな?」
「ダメだ」
「ミミ先生のけちんぼ!」
そう言って頬を膨らませているのは
「馬鹿だな
「酷いよ。知子ちゃん」
また頬を膨らませる星子。その星子をからかい、ポリポリと煎餅をかじっているのが
「この揺れるおっぱいがたまりませんなぁ~。あはあは。むふふ♡」
頬を赤く染め星子の胸を
「いやーん。まだご飯食べてる最中だからいたずらはやめて頂戴」
「うへへへへ。そんな風にイヤイヤする
「止めろ。馬鹿
「うわー。知子ちゃんが怒った! パターン赤。ゴジラです。Gフォース出動してください!!」
「誰が
この眼鏡っ娘の
羽里はスマホを取り出し知子に見せる。その画面には昨夜のニュース動画が再生されていた。
「まあまあゴジラさんこれを見てください」
「何だそれは?」
「昨夜のニュース映像ですよ。公式には
「今朝TVでやってたな」
「これ、被害にあった隊員の数字が多すぎると思わない?」
「そうだな。それは局所的に激しい土石流が発生して……」
「雨は6時間前には止んでいて当時は快晴だった」
「そういう事もあるって話じゃないのか」
「そうね。ニュースではそう言ってた。でも、実はその被害を発生させたのは土石流ではなくて別の要因があったのだ。じゃーん!」
羽里がスマホを操作し、別の動画を再生した。それは俺が化け物と戦った様子を映したものだった。
暴れまわる二十メートル級の巨大ムカデ。そして突如現れたメイド服の魔法少女。その魔法少女が空を飛び、パンチやキックを振り回し、そして魔法のような光る玉や稲妻を放って巨大ムカデを撃破していく様子が見事に撮影されていた。
「画質がいまいちなのは多分スマホで撮ったから。でも、こんな怪物が暴れてたんならあの被害は納得がいくの」
「それはそうだが、そもそもそんな巨大なムカデなんていないだろう。それに魔法少女も。ネット上ではよくできたCGだって言われてるぞ。わざと画質を落としてupしてCGだってバレないようにしてるんだ」
そうだ。そういう事にして欲しい。誰かがでっち上げたCGなら俺は関係がない。
「ゴジラさん。CGCGって繰り返しているけど、私の眼は誤魔化せないのよ。私が注目したのは、このメイド服を着た魔法少女の胸元」
「おっぱいマニアが何言ってんだか」
「マニアだからわかるんだって。この魔法少女の胸は色も形も匂いも揺れ具合も揉み心地も星子ちゃんの胸と全く同じなんだから!!」
俺は思わず吹き出しそうになった。
可笑しかったからじゃない。京が
(意外と早く気付いたな。朱人)
(馬鹿な事をしましたね。もう、教え子のそのまんまの姿に変身していたなんて……俺はどうすれば!)
(きゃはははは。これはたまらん。その狼狽の仕方。朱人、貴様は最高に面白いぞ)
京の姿は見えないが、その辺で笑い転げているのが手に取るようにわかる。一方、羽里は知子から激しい突っ込みを受けていた。
「この
ぺろりと舌を出し唇をなめる羽里。その表情は自信に満ちている。
「私にはわかるわ。私程のおっぱいマニア(@星子ちゃん限定)はこの宇宙には存在していないの。だから、形や揺れ具合だけでなく、色も匂いも、言ってなかったけどその味も、その全てを私は把握しているのよ!」
流石の知子もこのノリと勢いにはたじろいでいた。基本的な意見としては俺は知子に同意する。しかし、おっぱいマニアが看破するという色と匂いと味については興味があった。いや、その道を究めて成せる奥義というものであろうか。そういった奥義についての興味である。
(何を真剣に解説しておるのだ。自己の変態性を論理的に正当化しようとするその倒錯した思考も爆笑モノだ。うははははは。この馬鹿者)
(これは失礼しました)
京は相変わらず笑い転げている。そして羽里がまた他の画像を表示させた。今度は静止画だった。
「例の動画をキャプチャーして補正した画像なの。これ、顔の部分をアップしたものよ」
羽里が出した画像に知子と星子が注視する。知子と星子は見つめあって
「これ、
俺も羽里のスマホを覗いてみた。確かに、髪型が違うだけで顔の造りは星子とほとんど一緒だったのだ。
「そう、私が言いたいのはこれだけ
両手を腰に当て仁王立ちしている羽里。星子は状況がうまく把握できていないようでキョトンとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます