第20話 狂乱の宴

 二年C組に転入してきた怪しすぎる三人組。その正体は俺が京と一緒に戦っていた相手、邪なるものグニアだった。幸いな事に、本日俺はあのクラスで授業をする事は無かった。


眉螺マユラって物凄くエロイんだよ。胸は星子ホシコちゃんに負けてるけど、あのエロエロオーラは凄まじいよ。クラスの男子はみんなおっ立てちゃって大変だったんだ」

羽里ハリー控えろ。公共の場でエロネタは禁止だ。しかし、あのエロフェロモンに男子の視線は逝ってたな」

「えーそうなの知子ちゃん。私はよくわかんなかったよ」


 昼休みの見慣れた風景なのだが、ここは準備室ではなく学食だ。今日は何故かいつもの家庭弁当ではなく、学食の定食を食べようという企画のようだ。それに俺も強引に参加させられている。


星子ホシコは相変わらずニブチンだな。あの背の低い方、真呈まていはお前の事をそれこそ舐めるように見つめてたぞ」

「背の高い方は樽慈栖だるじすだっけ? アイツは知子ゴジラさんの方に集中してたね」

「そうなんだよな。マジキモ」

「でもさ、試験前っていうのに女子連中は取り巻いてたよね。あの二人にデレデレの奴が結構いた」

「だってさ。二人とも筋肉がすごいじゃん。もうムッキムキのムキムキだったよね」

「お。星子ホシコも見る所は見てるんだな」

「だって見えるんだもん。他の男子とは大違いだよ」

「確かに、あの筋肉はプロレスラー並だよね。私は興味ないけど」

「どうせ星子ホシコの胸にしか興味ないって言うんだろ」

「えーっと、ミミ先生の胸も大好きだよ。匂いも触り心地も星子ホシコちゃんそっくりなんだ」

「馬鹿羽里ハリー。誰が聞いてるかわかんないんだぞ。その話はするな」

「あ。ごめんごめん」

「そうだよ羽里ちゃん。私の胸の話をされるだけでも恥ずかしいのに、ミミ先生本当に自分そっくりだったからもう恥ずかしくって死にそうなんだ」

「ああああああ。恥じらう星子ちゃんに萌えるぅ! はあはあ。もっと恥じらってぇ!!」


 相変わらずの平常運転である。しかし、彼女たちの話を聞くとどうやら邪なるものグニアの三人組は、異性を引き付ける何かを発散しているらしい。この情報には注意する必要があると感じた。


(ふふ。良い勘をしているな。朱人)

(そうなんですかね)

(ああそうだ。連中の得意技の一つだな。かつて、性の欲望を操り複数の村を支配した。そして村人を狂人と化し、他所の村にけしかけて村同士のいさかいを引き起こしていたからな)

(本当ですか。それは不味いじゃないですか)

(ああそうだな)


 人を支配するゲームに熱中する悪霊と言ったところなのか。もしかして、自ら人を殺す事よりも人に人を殺させる事の方が高尚だとか考えているのではないかと心配になって来た。


(そんな思考はしていないだろう。単に享楽的なだけだ。それにな。連中は自己中心的だから最後は自分自身で犯して殺して食らう事を望むんだ)

(そうですか。それは組織的な行動が苦手だと考えてよろしいのでしょうか)

(そういう事だ)


 なるほど。

 人間の支配は余興。厄介だとは思うが、国家丸ごと支配されるはずいぶんマシだと思う。


 俺は仕事を切り上げ、早めに学校を出た。それでも、生徒たちが帰宅してから一時間以上経過していた。何か良くない事が起こるかもしれない……そんな予感がしていたからだ。


 案の定、知子から直接電話がかかって来た。


「ミミ先生。大変なんだ。羽里ハリーがあいつらについて行ったんだ。引き留めても聞かなくってさ、何とかして!」


 知子が悲痛に訴えている。


「すぐに行く。場所は?」

「先浜のスーパー跡」

「分かったお前たちは近寄るんじゃないぞ」


 早めに仕事を切り上げて正解だった。

 俺はスーパーカブに飛び乗り、急いで現場へと向かった。


 限界の60km/hまで引っ張り、途中一回二段階右折も無視した。


(なあ朱人。コレが大型二輪だったら恰好がついたのにな)

(そうかもしれませんが免許持ってないんですよ。俺はどちらかというと大型特殊の方に興味があって……戦車動かしたい)

(それなら何で陸自に入らなかったんだ?)

(何故でしょうね。到着しましたよ)

(うむ)


 市街地の外れ先浜町。そこにある小型スーパーの店舗は廃墟となったまま放置されている。

 近くの路地から知子と星子が顔を出した。


「ミミ先生。もう20分くらい経過してる」

「大勢入っていったんだけど、それに羽里ちゃんがついて行ちゃったの」

「全部で十数名だと思う。みんな目が逝ってたよ。正気じゃなかった」


 知子と星子の説明に頷く。

 

(京様)

(わかっている)


 京が俺に抱きついて来た感覚がした後、何時ものように体全体が光り輝き、全裸になって女体化してメイド服が装着される。魔法少女へと変身したのだ。


 こじ開けられたガラス製の扉から三人で廃墟の中へと入っていく。俺は知子と星子を置いていくことも考えたのだが、俺たちは魔法少女隊・バーミリオンの仲間だ。仲間の一人を救うべく敵地へと乗り込むのに仲間を置いていけるはずがない。


 中に入って愕然とした。

 そこには我が校の生徒だけではなく、他校の生徒も混じっていた。そして皆が衣類を乱し、男女が絡み合っているではないか。

 昼休みに知子たちが言っていた言葉を思い出す。『凄まじいエロエロオーラ』か……皆がその淫猥な空気にてられたんだ。


 集団の真中では全裸になったマユラに複数の男子生徒が群がっていた。マユラは仰向けに寝そべった男子生徒の上で激しく腰を振っている。そして下半身を露出させた数人の男子生徒が、勃起した陰茎をマユラに擦り付けている。その傍でマティが半裸の女子生徒を組み敷き犯していた。そして奥側ではダウジスが立位で女子生徒を犯している。そして、羽里は上半身裸でダルジスの腕に抱きついていた。更にその周囲ではいくつかのカップルが性交に励んでいた。


 異様な雰囲気。

 単純な乱交と言えない淫猥で堕落した波動に脳を揺さぶられる。


 俺はこの状況に対して激しい怒りと嫌悪感を抱いた。


「馬鹿な事はやめろ!」


 そう言って羽里の下へと走り、ダルジスから引っぺがそうとする知子。星子もそれに協力しているが羽里はダルジスから離れない。


 俺は右手に携えた法術杖を振り、広範囲に紫色の電撃を放った。

 俺が放った紫電はそのフロアを駆け巡り、全ての人を包み込む。そこにいた生徒達は数秒痙攣した後意識を失った。知子と星子は羽里をダルジスから引っぺがしていた。羽里は正気に戻ったようで周囲の惨状に目を見張る。


「私、何してたの。何で上半身裸なの?」

「馬鹿羽里ハリー! 下がるぞ」

 

 呆けている羽里を知子と星子が引っ張り俺の背後まで下がっていく。


 マユラ、ダルジス、マティの三人は、その雷撃がちょうどよい刺激になったようで、三人共痙攣し性的絶頂を味わっていたようだ。絶頂感が収まると気絶した生徒を床へと放置し、俺の方へと向かってきた。マユラは全裸で体中に精液を浴びている。ダルジスとマティは陰茎を勃起させたままで、その先端からは精液を垂らしていた。


「邪魔しに来たのか」


 スキンヘッドのマティが凄む。


「仲間になって性を楽しみましょう」


 マユラが怪しく微笑む。


「そこの女にはまだ挿入してなかったな。気が狂う程の特別な快楽をくれてやる」


 更に陰茎を膨らませたダルジスが笑う。


「汚えモノ見せるんじゃねえよ。このエログロ野郎」

「そうだよ。愛のないセックスはしちゃダメだって大佐が言ってたよ」

「でも極太……」

「馬鹿羽里ハリーは黙ってろ」


 俺と対峙する邪なるものグニア

 俺はどう対処していいのか考えあぐねていた。


 無関係な生徒が何人も倒れているこの場所でどうすればいいのか。しかも、周囲は住宅や店舗が立ち並ぶ人口密集地でもある。前回のような派手な魔法を放つわけにもいかない。


「今日はそこそこ楽しめたからこれで退散しますわ」

「戦わぬのか?」


 ダルジスがマユラを問い詰めるのだが、マユラは妖艶な笑みを崩さない。


「人間社会に入り込むのが今回の目的。余計な権力の介入は避けたいわ」

「そうだ。今回はこれで引こう」


 マユラとマティの言葉にダルジスが頷いた。そしてマティが続ける。


「貴様たちは全員犯して食うからな。楽しみに待っていろ」

「でも期待していて頂戴。物凄く気持ちよくしてあげる」

「人間は何時もこんな快楽に負けるんだ。今も昔も同じだな。フハハハハハ!」


 怪しく指を動かすマユラに高笑いするダルジス。

 三人はそのまま透明になり姿を消した。


 誰が通報したのだろうか。救急車のサイレン音が響く。俺は元の姿へと戻り、救急隊員を現場へと案内した。これをどう説明していいのか俺にはわからなかった。



 

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