決戦☆悪魔の兵器
第30話 これがラスボスですか?
彼らは叫んでいる。
皆、同じ台詞を叫んでいる。
「女王マユラ様万歳」
「天皇を処刑せよ」
「我らグニアの世界を築くのだ」
正気の沙汰ではない。
狂気が渦を巻いてその場を席巻しているではないか。
そして、倉庫の屋根の上にマユラが現れる。黒いビキニの上から白いマントを羽織っていた。周囲からは歓声が上がる。
「マユラ! マユラ!」
そしてマユラの脇にいたダルジスが俺達の方へ指をさして叫んだ。
「我らの敵、帝国の悪魔を捕まえよ。皮を剥ぎ、その腐ったはらわたを引きずり出すのだ」
俺達の乗っていた黒いワゴン車は一気に取り囲まれた。窓ガラスを叩かれて、車はゆらゆらと揺れている。
「帝国の悪魔め」
「殺せ」
「八つ裂きにしろ」
口々に叫んでいる。俺は京を見つめた。京も頷いている。
「行くぞ
「はい」
俺の体は光に包まれ魔法少女へと姿を変えた。次の瞬間には京と共に車の直上10m程の空間に浮遊していた。そして京は、俺と同じ黒のメイド服を着ていた。
「朱人。雷撃で連中を黙らせろ。殺さぬ程度に力を抜け」
「分かってます」
俺の体は紫色の光に包まれた。それはそれは幾多の紫電となって周囲に降り注ぐ。倉庫の周囲に集まっていた人々はその紫電に撃たれて意識を失い倒れてしまった。京はと言えば、急降下してマユラの顔面に蹴りを放っていた。マユラは倉庫の屋根を突き破って中へと落ちてしまった。マティとダルジスは京に掴みかかろうとするが、京の回し蹴りがヒットして、二人とも屋根から転げ落ちた。
あっけない。
弱い。
何か不自然だ。
短期間に多くの人々を操り従わせた。
それで小規模な疑似国家を形成していたのには驚いた。しかし、あいつらはこんなに弱くはなかったはずだ。
サラさんと春彦が車から降りた。サラさんは俺達に向かって叫んだ。
「例の生体兵器が動き始めました。注意してください!」
とうとう起動してしまった。動き始める前に破壊しておきたかったのだろうが、上手くいかなかったのだろう。
田床山の中腹より土煙が上がるのが見えた。カルブ・アル・アクバルが動き始めたのか。
ゆっくりと浮上する人型の物。十数キロ先なのだがその姿ははっきりと見えた。首がなく平べったい頭。右手はカニのハサミのような構造。左手は熊の腕。胸はカニの外骨格で腹は爬虫類の鱗。そんな姿だった。
カルブ・アル・アクバルはすうっと上昇していき見えなくなった。
そして市街を飛び越え沿岸の浅瀬へと着地した。それはちょうど俺たちがいた場所のすぐそばだった。
倉庫の扉が開き、中に集っていた人々が外へ出てくる。彼らは我先にとあの悪魔へ向かって走っていった。砂浜へと降り、着衣のまま波打ち際へと入っていく。また、服を脱ぎ泳いで向かう人もいた。
人と比較するとその大きさが良く分かる。目測だが、身長は25mほどであった。巨大だ。
カルブ・アル・アクバルは最初にたどり着いた人を右手のハサミで掴み、その口へと運ぶ。首がないので口は胸の上部についていた。
すると周囲から歓声が上がった。
「神だ。我らの神だ」
「神と一体となったぞ。俺達も続け」
「俺が先だ」
狂っている。
あの化け物に食われる事を至上の喜びと感じているのか。彼らは我先に海へ入っていき、そして食われていく。
「京様。あの
俺は京の返事を待たず、左手より光の弾を複数放っていた。光弾は
「不用意に攻撃するな。吸収されるぞ」
「先に言ってください」
「すまんな」
魔法、いや、法術を吸収する化け物。
俺達では歯が立たないという訳か。
いつの間にか例の三人が
「まだ成長途中だけど」
「こやつらを屠るには十分」
「人を食えばもっと成長する。うじゃうじゃいるから餌には困らない」
三人は笑いながら
「京様。
「そういう事だ」
「どうするのですか。法術の攻撃は吸収される。ほっとけば人が食われる」
「そうだな。そして奴は無限に成長するのだ」
俺達には打つ手がないのか。
俺は愕然とした。
「案ずるな朱人。奴を倒す手段はある」
「それはどういう方法なのでしょうか」
「私に任せよ」
京は自信満々に答えた。
本当に倒す手段があるのか。それとも単なる気休めなのか。
俺には判断できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます