第13話 紀子先輩登場
目が覚めた。
俺はベッドに寝ていた。上体を起こし、脇に置いているカレンダー付きの目覚まし時計を確認する。
7月9日 火 6:58
寝坊はしていないようだ。しかし、ゆっくりはしていられない。学校に行かなくては。
ベッドを降りトイレに行く。
リビングに誰かいるのか?
そんなはずはないと思ったのだが思い出した。昨夜、問題児三人組の女子生徒が泊りに来て、そして京が実体化して色々説明して……リビングでそのまま寝てしまったんだ。そう言えば今日は休校となっており、俺も強制的に休暇を取らされていた。特段急ぐ必要はない。
とりあえずトイレを済まし、リビングへと入ってみると、やはりいた。例の三人組だ。
「ミミ先生おはよう。朝食の準備はできてますよ」
「トーストと目玉焼きですけど」
「ハムがなかったんでウインナー付けてます」
「サラダはさっきコンビニで買いました」
「牛乳とオレンジジュースがありますけど、先生はコーヒー党ですよね」
昨夜の悩ましい姿ではなく、普段着に着替えている。こいつらにも一応良識があったのだと納得する。
「いや。牛乳でいい。これは買ってきたのか?」
「うん。冷蔵庫の中を見て、足りない分は買いました」
と説明するのは有原羽里。
「お金は気にしなくていいよ。大した金額じゃないし三人で出したから」
とニコニコ顔で話すのは黒田星子。
「迷惑料兼口止め料だ。
そう言って念を押してきたのは綾川知子。冷静でしっかり者である所は他の二人とは違う。
「分かっている。俺たちは魔法少女隊バーミリオンだからな。秘密は共有する」
昨夜の京の言葉を思い出して
トーストをかじっていると唐突に知子が質問をしてきた。
「先生。今日の予定は?」
「急にどうしたんだ」
「何か、バーミリオンの活動をするんじゃないのか?」
「特にない。お前たちは試験勉強でもしてろ」
「嘘つくなよ。昨夜、京様の御神体が流されたと言ってただろ。先生は今日、その流された御神体を探しに行くんだろ?」
図星を突かれた。なかなか鋭いじゃないか。もちろん、そのつもりだったのだが、この三人組には危険な事はさせたくない。
「ああ。それはそうなんだが、今は車がないし一人で出かけるよ」
「そう言うと思った。私たちは断固拒否するぜ。バーミリオンのメンバーとして御神体の捜索に参加する事を希望する」
「置いてけぼりなんて許さないんだから」
「許しません」
知子と星子、羽里に睨まれる。これは連れていくしかないのか。しかし車は無いし、俺の実家へ行くには鉄道がないのでバスを乗り継いでいくしかない。それでは時間がかかりすぎる。
そんな思案をしていると突然、インタホンの呼び鈴が鳴り響いた。
『おーい朱人。起きてるか? 紀子様が来てやったぞ!!』
これはすっかりと失念していた。それにこんなに早い時間に来るとは思っていなかった。やって来たのは俺の大学の先輩、
「お前、いつの間にハーレム作ったんだ? 教え子か? 犯罪行為ではあるまいな。通報はしないから詳細を詳しく事細かく提出しろ。画像も必須だ」
何やら興味津々で詰め寄ってくる。
実は、回収できた京の右腕を調べる必要があり、綾瀬紀子に依頼した。昨日の事だ。そして、車が流されそちらへは伺えない事を説明していたのだが、こんなに早くすっ飛んでくるとは思ってもみなかった。
「むふふふ。個人的には男子生徒の方が萌えるんだけど……女子でもいいぞ。さあ吐け。思い切り暴露するんだ!」
怒涛の勢いで迫りくる紀子先輩の迫力に、俺も、女子生徒三人組も思い切りたじろいでいた。
「どうした? 昨夜頑張りすぎてもう足腰が立たなくなったのか? ドリンク剤なら用意してるぞ!」
そう言ってバッグからユ〇ケルの瓶を取り出す。
その眼はも好奇心に狂喜乱舞しているかのように光り輝いていた。
「どなたか知りませんが、私たちの作戦会議の邪魔はしないでくださいますか?」
立ち上がって毅然と言ってのけたのは綾川知子だった。他の二人も不満気に紀子先輩を睨んでいた。
不穏な空気が流れる。俺はこの場を収めようと、状況の説明を始めた。まずは紹介からだ。
「こちらの女性は、俺の大学の先輩。綾瀬紀子先輩だ。ロボット工学の権威で、現在綾瀬重工において各種アンドロイドの開発に取り組んでいる方だ。もちろん、彼女とか恋人とかじゃないから」
俺の説明に三人の顔色が変わる。
綾瀬重工と言えば、アンドロイドの開発と生産では世界一の大企業なのだ。そして業務用のアンドロイドは既に多く出回っており、スーパーやコンビニのレジ係や工事現場での旗振りなど彼女らが触れる機会も多いのだろう。その先端技術の開発者だと言うのだから、彼女らが仰天しているのも自然な事なのであろう。
「さっき行ったコンビニのレジも綾瀬重工製のアンドロイドだったよ」
「そうだった。紀子先輩はああいうの開発してるんですか?」
星子と羽里の質問に頷く紀子。そして質問に答えている。
「そうそう。でもね。今力を入れているのが家庭用の介護や家事支援を行うアンドロイドなんだよ。まだまだ超高価だから普及してないんだけどね。そのうち介護保険で派遣できるところまで価格を下げたいんだ」
三人の娘もしきりに頷いている。紀子先輩の行っている事業は評価が高いとは聞いていたが、介護の現場での使用まで視野に入れていたとは初めて聞いた気がする。なるほど、人の手に余る重労働などロボットの仕事になっているのだが、介護がこなせるのなら多くの人に感謝される。それこそ未来社会において必須の事業なのだろう。
俺は押し入れにしまってあった京の右腕を取り出し紀子先輩に見せた。
「これが例のモノです。一応、御神体だという事なので取り扱いは慎重にお願いします」
「これよくできてるね。いつの時代のモノなの」
「1000年近く経ていると思うのですが定かではありません」
「!」
1000年という言葉に絶句した紀子先輩。確かに、俺も信じられないのだが、京の話を総合するとそんな年代なのだと思う。しかし、それは恐らく京が祭られていたという機装院神社のできた時期であり、京が制作された、もしくは創造された時期とは別だと思う。
「状況をもっと詳しく話せ」
やはり話さなくてはいけない。それもそうだ。俺は京の体、御神体を発見できた際には紀子先輩に修理を依頼するつもりだったのだから。詳しい事情を話すのが筋であろう。
一昨日の豪雨の中、車が流された事。そこで京と出会った事。大ムカデと戦った事。その時魔法少女に変身していて、その映像がネットに流出していた事。更に昨日は巨大化したツキノワグマや猪、マムシに襲われたこと。その本質が
一見、荒唐無稽なそれらの話を疑いもせずに聞いている紀子先輩だった。そしてぼそりと言った。
「私もバーミリオンの一員だね」
にこやかに微笑む紀子先輩。
俺はそこに、異論を挟めない物凄いプレッシャーを感じた。
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