第14話 御神体捜索活動へ出発します!
食事と身支度を済ませ、京の御神体を探すべく出発することとなった。
意外にも、京は紀子先輩のバーミリオン加入を許可した。
(拒否する理由は無いだろう。天才からくり師なら大歓迎だ)
(あの方は確かに天才ですが、ロボット工学の天才であってからくり師ではありません)
(似たようなものだろう。私はしばらく休むぞ)
(京様?)
(……)
京は何故か大人しくなった。昨夜の件で疲れているのだろうか。そもそも神様が疲れるのかどうか疑問に思う。
結局、俺たちは紀子先輩が乗って来た車で出発することになったのだがその車がデカかった。
「先輩。こんなの運転してきたんですか?」
「まっさかぁ~。運転手がいるのよ」
堂々と路上駐車していたのは綾瀬重工のロゴが書かれているトレーラーだった。先輩に紹介され頭を下げたのはアンドロイド。帽子を被り、まるでバス運転手のような服装をしているのだが、艶のあるメタリック色の顔面は人間とはかけ離れている。
「バロンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくバロンさん」
いきなり握手を求めたのは星子。羽里と知子もバロンと握手をする。
俺もバロンの手を握ったのだが、その感触は人間に近かった。
「じゃあバロン。お願いね。目的地は朱人の実家よ」
「了解しました。皆さまは客室の方へどうぞ」
バロンがパネルを操作し、側面の扉が開く。窓のない室内であったが、応接セットが置かれていた。シートは当然シートベルト付きのものが据え付けてある。大型のTVが据え付けてあり、早速星子がリモコンをいじくっていた。羽里はTVの下にあるボックスを漁っていた。
「あ。映像ソフトもあるよ。これ……いいじゃん。『仮面の忍者赤影』だって」
「こっちの方が良いんじゃない? 1984ゴジラだ。これ、スーパー
「おや? カワサキ原理主義者はやはりメカ好きですか?」
「まあね。お! これはサイボーグ009。2012年の『009 RE:CYBORG』だぜ。ああ、フランソワがカッコいいんだよ。やっぱ監督が神山健治だけあって草薙素子っぽいんだけど、そこがまたいいんだ」
「却下します。ここは伝説のロボットアニメ『機甲猟兵セミラミス』よ。これしかないよ。絶対にこれ!」
星子の剣幕にたじろぐ二人。結局星子に押し切られ、セミラミスの
『時は2025年。インドにおいて奇妙な物体が発掘された。全長は約15mであり人を模した形状であった。更にそれは女性のようなたおやかさを備えた美しい形状をしていた。発掘者の代表はその物体に「セミラミス」と名付けた。古代アッシリアの伝説の女王の名である』
「ああーん。これよこれ。セミラミスは最高!」
身をくねらせ興奮している星子。他の二人もまんざらではないようでTV画面に見入っていた。それにしても、こんなにマニアックなアニメが常備されているトレーラーって何に使うんだろう。
「おい朱人。これ本当に1000年前のモノか?」
俺が回収してきた京の右腕を触りながら紀子先輩が質問してくる。
「俺が年代の特定なんてできるわけがないでしょう」
「そうだろうな。これ、表皮の素材が全く分からない。プラ系やラテックス系でもない。骨格も金属製には見えないし、セラミックスとも違う。1千年前にこんな素材があったのか?」
「無いでしょう。京様の話を総合した場合に最低そのくらいの年代になると思っただけで、素材なんて考えてもみなかったですよ。昔、戦乱があってそれに助力してくれたのが京様なのですが、その戦乱って元寇じゃないかって思ってるんですよ」
「元寇か。確か
「ええ。しかし、その当時に作られたとは思えない。以前より存在していたと考える方が自然なので、更に二~三百年を追加して、それで千年以上だと」
「なるほど。推論としては妥当かな。それならば誰がこれを制作したのかだな」
「神様ですかね。京様が言っていた大地の女神クレドとか」
「それってさ。どこの神様なんだろうね。日本じゃないよね」
「分かりません。どこぞのファンタジー世界とかの神様でしょうか?」
「異次元からの侵略者を食い止めるため、別の異次元から送られてきた神様の使いかな?」
「小説の世界みたいですね」
「まあな。荒唐無稽な話ではある。しかし、この腕を見るに当時の日本で、いや、現代の日本でも未知な素材で出来ているのは確かなんだ。だから……」
「だから?」
「ファンタジーではなくてSFとして考えた方が辻褄が合わないか?」
SF? それはつまり、異星人の侵略とかそういう話なのだろうか。それを阻止するため、別の異星人が送り込んで来たのが京だとすると……話が合いそうだ。
「辻褄が合うような気はしますが、直ぐには信じられない話ですね」
うんうんと頷いている紀子先輩。
「私も異星人ってのを見たことがないし、聞きかじった話では都市伝説以外の何物でもない。しかしな。この銀河系の中で人類が生存できる惑星はいくつあると思う?」
「そんな事分かりませんよ。一万個位ですかね」
「もっと多い。計算上では400億とも500億とも言われているんだ」
「そんなに!?」
紀子先輩がニヤリと笑う。化学教師のくせにそんなことも知らないのか? と突っ込まれそうな気がしたのだが、そうではなかった。
「意外と多いだろう。ならばワープみたいな光速を突破する技術を持っている文明の一つや二つあっても不思議じゃない」
言われてみればその通り。我々のできない事をやってのける他の文明がある可能性は否定できない……と言うか、実際にあるんだ。目の前にある京の腕がその証拠となる。
(京様。この話、本当ですか?)
(……眠い。静かにしろ)
(神様でも眠いのでしょうか?)
(そのうち教えてやる……)
(京様?)
(……)
何だかはぐらかされた気もするが、今朝は大人しかったから本当に眠いのだろう。昨夜のことが尾を引いているのだと思う。
女子生徒三人組はアニメ『機甲猟兵セミラミス』に釘付けになっている。
トレーラーは山間部に入ったのか左右に横Gがかかり始めた。しかし、俺の運転する乗用車よりは揺れは少なく、ドライバーのアンドロイドが高性能だという事が分かる。自宅アパートを出発して約三時間。そろそろお昼ごはんに何を食べようかと思案したくなる時間帯となった。俺の実家付近に差し掛かった所でトレーラーが急停車した。
「紀子様。動物が道を塞いでおります。このままでは通行できませんがいかがいたしましょうか」
アンドロイドのバロンが報告してきた。壁に設置してある小型のモニターにその映像が表示されている。
「アレは多分
困った。京は今、その辺で眠っているに違いない。
「なるほどなるほど。朱人の言った通りね。野生では考えられないくらいでかいわ」
巨大なアフリカゾウ。更にヒョウ、いやチータか。そしてシマウマ。どれも自然の中ではありえない大きさになっている。本州西端なのに何故? と疑問に思ったのだが。
「ありゃ。秋吉台サファリランドから逃げてきたのかな?」
とは紀子先輩の弁。近所とは言えないが、来れない距離ではない。
「どうしますか?」
「うふふ。このトレーラーはさ。護衛用に戦闘タイプを常備してるんだ」
戦闘用?
この人、そんなものまで造ってるのか?
「プリンス。デューク。出番よ」
俺たちが乗っているトレーラーの後部扉が開き、中から金属音を立て何かが動いていく音がした。
「武装はしてないけど、あんな動物だったら楽勝でしょ。やっておしまい!!」
仁王立ちをしてモニターを指さす紀子先輩。二体の戦闘用アンドロイドはキュイーンというモーター音と重々しい金属音を響かせトレーラー前面へと移動していった。
※伝説のロボットアニメ『機甲猟兵セミラミス』……これは作中における架空のアニメ番組です。ウィンドウズの脆弱性を暗号化して放送していたとして世界中から注目・非難され放送中止に追い込まれた……みたいな設定の作品です。原案は綾川知也さん。
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