c.6 光の彼方へ

 その場で八の字に旋回し直線道路の向こうへと走っていくマッハ。そのスムーズな挙動を見ていた知子がぼそりつぶやく。


「ギーの奴やるじゃねえか。あんなきれいな八の字は初めて見たぜ」


 その一言に周りの面々も頷く。義一郎は、素人目にもわかる高い運転技術を持っていたのだ。

 懐中電灯を振る三谷の合図でマッハが全開加速を始めた。ローで若干フロントを浮かせたが体重移動で強引に抑え込み、セカンドへとつなぐ。猛烈な白煙が後方に吐き出されマッハはさらに加速した。

 ノートパソコンに表示される速度を読み取っているのはトリニティだった。


「時速120、140、160、すごい加速です。180、200、まだ加速している」


 マッハが計測開始点に差し掛かる。


「時速220キロ。次元駆動開始します」


 瞬間マッハは虹色の光に包まれた。その虹色の光は直線的な光線となり瞬間的に計測終了点まで移動していた。マッハはそのまま走り去りゆっくりと減速していった。

 その場にいた全員は目撃した。それはマッハの後を追う残像。マッハは確かに光速を超えていたのだ。


「ミミ先生、区間タイム計測できました。0.00000289秒です。これは光速の113.793%です」

「はははは。素晴らしい。科学と魔術が融合した結果だ。光速は超えられるのだ」


 その場にいた皆が歓声を上げていた。明継は必死にメモを取っていた。

 戻ってきたマッハはガタガタと振動しエンジンの火は消えてしまった。クラッチを切り惰性で走るがやがて停止した。


「よく分かりませんが、光に包まれて、元に戻ったらエンジンがバラバラに爆発するみたいになって、止まっちゃいました。スミマセン」

「ふむ、やはり高次元パワーには耐えられなかったか。仕方がないな」

「ミミ先生。これ修理できる?」

「ああ問題ないぞ。2ストだからな。修理自体は楽だよ」

「私、来年大型二輪取るよ(注)。そしたら貸してくれるかな」

「ああ構わん。修理する際には魔術回路は外しておこう」


 ヘルメットを取った星子に羽里が駆け寄った。


「星子ちゃん大丈夫? 変な事されなかった?」


「我々は英雄になどなれん。所詮は血塗られた悪霊なのだ」


「悪霊って、ああはは……セミラミスのセリフかな」


 妄想全開の星子も絶好調だったようだ。




(注)星子と知子は現在高校二年生です。大型二輪免許は18歳以上でないと取得できません。

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