御神体捜索

第21話 AYASE☆SECURITY

 消防車と共に黒いワンボックスカーが現場に駆け付けてきた。車体には大きくAYASE☆SECURITYの文字が書き込まれている。


 綾瀬重工の車両なのか。紀子先輩の差し金かもしれない。

 車から降りてきたのは大柄な白人女性だった。セミロングの金髪が眩しい。その他にも数人のスタッフが降りてきて、大きなアタッシュケースを抱えて建物の中へと入っていく。金髪の女性が俺に近づき話しかけてきた。


「三谷朱人先生ですね。私は赤城あかぎサラ、綾瀬重工警備部に所属しています。今回の事件に関して我々が調査を委託されております」

「綾瀬重工がですか?」

「ええ。詳しい事は話せませんが、主にアンチエイリアン関係の職務を担当しております」


 俺を笑顔で見つめるサラさん。その青い瞳はキラキラと輝き好奇心にあふれていた。


「アンチエイリアン……するとアレは異星人エイリアンなのでしょうか」

「そうですね。実体を持たない意識体としての存在です。先に確認したい事項があるのですがよろしいでしょうか」

「ええどうぞ」

「主犯は三名で、既に逃亡した」

「はい」

「この現場では複数の男女が性行為を行っていた」

「はい」

「それは強制性交ではなく、自発的に行われた」

「ええ」

「強力な催淫効果を発する何かが使用された」

「そうだと思います。自ら性的な欲求を満たそうとしている様子だった」

「なるほど」


 メモを取りながら頷いているサラさんだった。特に驚いている様子もなく、全て想定内であるかのようだ。


「ところで一つ質問してよろしいですか」

「どうぞ」

「何故、こんなに早くここに来れたんですか? 誰か通報したんですか?」

「消防に通報したのは私です。申し訳ありませんが、三谷先生の事は24時間監視させていただいております。つまり今回の事件に関して、私たちは先生とほぼ同時に把握していたという事です」

「本当に? どうやって??」

「うふふ。それは言えません」


 怪しく笑うサラさん。

 

「それに、何かあればすぐに駆けつけるようにと指示されております」

「それは紀子先輩の指示ですか?」

「発端はあの方ですけれども、指示を出しているのは社長です」


 それは、綾瀬重工がこの件に関して本格的に関わって来たという事になる。


 綾瀬重工。


 紀子先輩の父親が社長を務めている。アンドロイドの製造と販売で世界的に有名な大企業だ。その他にも原子力や核融合、宇宙産業の分野で先進的な技術を駆使し、世界に先んじている事でも知られる。そして日本における軍事産業の主役でもある。数年後に配備が予定されている次期主力戦闘機やそのバリエーションである艦上戦闘機の開発も手掛けている。ある意味きな臭い巨大企業である。


「概要は紀子博士から伺っております。京様の御神体を捜索する事に関して協力したいと考えております」

「ありがとうございます」

「明日、お時間取れますか? 学校には話が通してありますので有給が取得できると思います」


 明日から期末試験だから特段用事はないと思う。しかし、この強引さはどうだ。何気に、学校に対して圧力をかけているではないか。頼もしいと言うよりは胡散臭い。京の御神体が莫大な利益を生むとでも考えているのだろうか……いや、あの紀子先輩がそう進言したのだろう。そう言えば利益の独占に関して承諾した覚えがあった。


「そうですね。では有給を申請します。私一人では手に余ると思いますので、是非協力していただきたい」

「かしこまりました。明朝六時にお迎えに上がります」


 そう言って踵を返すサラさんだった。

 テキパキと部下に指示を出している姿は、彼女がここの責任者であることを物語っている。


 遅れて到着した自衛隊と警察の車両。

 警察はSATT、自衛隊は武装した普通科部隊だったが、今回は出番がなさそうだ。


 意識を失った生徒たちは、病院ではなく地域の集会所へと運ばれた。そこで簡便な検査をし、異常がなければ帰宅させるらしい。何か不安な点があれば病院へ運び入院させる方針のようだ。


 羽里もしつこく体中を調べられ、根掘り葉掘り尋問されたようだ。


「羽里ちゃん。今の気分はどう?」

「うーん。爽快かな? 記憶は曖昧なんだけど、真っ黒なスライムに全身包まれてた感じだったのが、ビリビリって痺れてスキっと解消した感じ」


 星子の質問に笑顔で答える羽里だった。


「それで、お前のアレは無事だったんだろ」

「あれって何? 知子ゴジラさん」


 怪訝けげんな表情の知子に極めて明るく羽里が反応する。


「アレって……しょ、処女膜だよ」

知子ゴジラさんは私が処女だと思ってたのですか?」

「当たり前だ。星子ホシコに夢中なお前に彼氏なんているはずがない」

「痛い所を突いてきますね」

「図星だろ」

「確かに彼氏はいませんが、だから処女だと断定するのは早計ですよ。知子ゴジラさん」

「じゃあ、援交……とか?」

「レイプってのもあるよ。大佐が言ってた」

「いやーん。みんな私が処女でない方向で締めくくりたいのね」


 知子と星子の突っ込みに頬を赤らめ体をくねらせる羽里。普通は怒るところだろうに、こいつは何故か喜んでいる。


「残念ですが、私の処女膜は健在でした。まだ誰も破ってません」

「大事無くて良かったな」

「ええ。私の初めてはミミ先生にあげるって決めてますから」


 当たり障りのない俺の言葉に爆弾発言で答える羽里。すると星子は俺の前に両手を広げ立ちふさがるではないか。


「ミミ先生はダメです。教官と教え子の恋愛はしちゃいけないって大佐が言ってた」

「ふふふ。そんなタブーは無視するのよ。私はミミ先生と星子ホシコちゃんの両方を頂きます」

「承服できない。その案件には徹底抗戦する!」

「あら。知子ゴジラさんが守りたいのはミミ先生と星子ホシコちゃんのどっちかな?」

「両方だ。馬鹿者!」


 平常運転のようで何故か様子が違う三人だった。何故か俺をめぐって対立しているような気がするが、その理由については深く考えない事にした。


「お前達。帰るぞ」

「え? バーミリオンは調査に参加しないんですか?」

「ここは専門家に任せる。俺たちが依頼したんだ」

「そうだったんだ」

「へえ~」

「馬鹿な事と言ってないで、家に帰って勉強しろ。明日から期末試験なんだぞ」


 試験の話を出すと渋々とだが従ってくれた。三人共現場を離れたくなかったらしいのだが、ここは家へと送り返す必要がある。俺は三人を連れてその場を離れ、それぞれの自宅まで送り届けた。その足で俺は学校へと戻っり、まだ居残っていた教頭に明日の休暇願と提出してから帰宅した。


(朱人、あの女はできるぞ)

(あの女とは赤城サラさんですか)

(ああ。アレは只者じゃない)

(確かに女性格闘家って感じでしたね。ところで明朝、京様の御神体を探しに行くことになりました)

(わかっておる)


 その一言を残して京は静かになった。

 何故か歯切れの悪いものを感じた。綾瀬重工に手を借りる事が何か問題でもあるか、俺には理由が分からなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る